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6 マオ、俺を正論でぶん殴ってくれる。

「もう無理ィいいいいい!!!」


 川辺で俺の情けない叫びが響く。

 今日何度目かはもうわからないギブアップ宣言。


(いやもう無理って、オニイチャンから言い出したことだろう? 自分ももう少し家族の役に立ちたい。具体的には食材確保で貢献したいって言っただろう?)


 言った。間違いなく言った。

 このままでは記憶喪失お兄ちゃんこと俺は、ごく潰し検定免許皆伝を突き進んでしまう。

 目的はいまいち定まっていなくてもこれは間違いなく旅であって、そうなると日々の糧、食材は植物だとか、動物だとかから確保しなくてはならない。それも毎日。

 こんな異世界で、どれが食べられるものなのかまだ判別ができないダメお兄ちゃんこと俺はそれらの食料確保にまったく貢献できていないというのが現状で。

 このままではアカンと、なにか貢献できないかと、俺の頭の中に寄生だか同棲だかしているマオというわからん超常生物に相談してみた所、提案されたのがせっかく川沿いを歩いているのだから、移動を中断する夜にでも釣りをして魚を得てみてはどうかと提案され、いいねそれと釣り針を作成するべく拾った何かの骨を削り、あまりの地味さに匙を放り投げたのが今である。


「ああ、マオのアドバイス聞いた時はそれいいねって思ったけど、この釣り針を作成するって所からもうクソ難易度じゃねえか」


 そうなのだ。今日も動物の皆さまは食物連鎖をしっかりと実践していらっしゃっているようで、骨を以外と至る所に堕ちている。

 あとはその骨の中でも釣り針としてつかえそうな部分を拾って、夜にそれをひたすらに削る作業なのだが、俺はこういった地味作業が嫌いで致命的に不器用なのだった。

 記憶喪失になってしまい、自分の得意不得意すら覚えていない現状であるが、俺の普段この家族における貢献度というものは皆無に近い。

 ならばもしかして俺の真価はこういう地味な作業にあるのではなかろうか? と淡い期待を以って始めた釣り針作りであるが、残念ながらというか、まぁそうだろうなと言うべきだろうか。やっぱり俺はこういった作業も得意ではなかった。

 俺は一体なんの役になら立てるんだ?

 

(まぁなんと言うか、オニイチャンの不器用さは手先だけのはなしではなく、生きづらそうだなとは思うが、そう自分を卑下することもないのではないのか?)


 いやマオさん。それは慰めているのかい、貶しているのかい?

 どっちなんだいって、ツッコもうとしたらまた指先に余計な力が入ったらしく、手元の釣り針になるはずの骨の結構重要な部分が折れた。

 あとついでに俺の心も折れた。

 自分でも言語化できないくらいのうめき声と同時にさっきまで一生懸命削っていた骨を放り投げる。

 夜。火の番をしながらの作業なので、起きている事自体が本来の仕事であるから、この時間がまったく無駄だったと言うつもりはないが、それでもこの失敗は結構心を削りやがる。

 泣き叫び三歩手前くらいにはもうなってる。


(だから、そんな複雑なカタチの釣り針などにしないでだな…もっとシンプルなカタチにしておけばよかったのだオニイチャンとやら?)


 因みに俺が作ろうとしていたのはJの字型のよく見るヤツ、挙句に返しも作ろうと画策していた。

 それに対しマオが提案していたのは直線型で両端が尖っているヤツ。そんなんで魚の喉に引っかかるのか正直な所疑問だったので、俺が見慣れた形の釣り針を作ろうと思ったのだ。

 どちらが釣れるとかそういう議論になる前にそもそもJ字の釣り針が作れないという、検証の土俵にすらあげられない。


「へいへいそうですね。マオさんの言う通りにしておけばよかったですね」


 今日はもう無理、こんな失敗をしてまた一から骨を削る作業に戻れるほど俺の心は強くないようだ。

 ごろんと寝転がって空を見る。今はたき火が一番の光源になっているから星はあまり望めないが、それが無かったらこの空にはあまりにも多くの星が広がっている。

 最初にそれを見たとき俺は嘆息した。

 そこにはあまりにも暴力的に広がる星々に圧倒された。


(どうだ、星でも見上げて落ち着いたかオニイチャン?)


 しばらく星を眺めて迂闊にもうとうとしかけた所でマオに声をかけられた。

 なんにも出来ないお兄ちゃんこと俺ではあるが、こんな火の番すら出来なかったとしたらそこになんの価値があるのだろう? だから起こしてくれたマオには感謝しかない。

 ヨダレが垂れかけた口元を拭いながら勢いをつけ起き上がる。


「だはっ、あっぶねぇ。寝そうだったわ」


 でも俺は素直にお礼を言う事ができない。明言化するのが憚れる、記憶を失う前からきっと俺はこういう人間なのだろう。

 自分にプラスになることをしてくれた人間に言うべきお礼を素直に言えない小さな人間。それではいけないのだろう。ダメだと思っているのならば是正しなければいけない。


(なぁオニイチャン。貴様はそんなにこのパーティにおいての自分の価値を証明しなくてはいけないと色々画策しているが、それはそんなに重要な事なのか?)


 だが、俺と言うあまりにも矮小な器には過ぎたブレインことマオはそんな俺のお礼云々など意にも反さないで俺がこんなに頑張らざるを得ない理由。一生懸命に虚勢を張らなくてはいけない今に異を唱えてくる。

 きっとヒトはあるがままでいい。とかそんなんを言いたいのだろう。

 ヒトはあるがままで、多少の偽装は出来るかもしれないが、結局自分と言う一己からは逃げられないとかそんなんを言いたいのだろう。


(私は貴様との関わりはあの妹分と弟より遥かに少ないが、何分こんな運命共同体だ。あの二人には見えない私のほうが見えているものだってある)


 聞いた話では俺達の旅において、カーヤとマオは大体同時期に加わって、それ以前にカゲちゃんと秋重くんがいたらしい。

 共にあった時間はそんな2人には遥かに及ばない。だけど、寄生だか共生関係なのだ。常時一緒にいざるを得ないのだ。

 わずかに関わった俺ですらこのマオという存在は膨大な見識で正しく物事を判断できる傑物だというのはわかっている。

 そんな傑物が自分は自分のままでいいと言っているのだ。きっとそれが正解なのだろう。

 けれど、俺はそんなに自分を俯瞰で判断することができない。いつだって視点は一人称で、それ以上広い視点など望めそうもない。ちっちゃなお兄ちゃんです。


(コミュニティである以上、得手不得手で役割というのはいつの間にか分担されているものだと思うが、現状がこうなのだ。きっとこれが現状一番うまく収まったカタチなのだろう。

 向上心は確かに必要だが、思い詰めるほど焦る必要はないと思うぞ。出来る事をやれ、なにも出来ないのなら一つずつ出来る事を増やせ。助けてくれる者はいるのだ、別に駆け足で出来る必要もない。別に誰に頼ってもいい、皆教えてくれる、もちろん私だってそうだ)


 はぁ。思わずため息が出る。

 みんなは優しいから、別に俺が足手まといな事に関してそれを咎めることはしないだろう。気にしているのは俺だけ。だと思う。一応病人なので気は使われている。

 でもそれは嫌なのだ。このまま現状に甘えてグズグズと腐っていくのは嫌なのだ。

 次の骨を手に取り削り作業を再開する。


「ゆっくり…でも確実に…だろ?」


 頭の中に巣食う相棒に確認する。


(そうだな、できる速度でいい、無理な背伸びなどしなくていい、しかし確実にやれ)


 本当に俺には過ぎたブレインだ、一体全体どういう経緯で俺なんかに巣食う事になったのかは思い出せないがそれでも一蓮托生。

 精々色々な事を学ばされてもらおう。


「ところでマオさんや。もし仮にこの釣り針が出来たとして、釣り糸はどうやって都合したらいいかな?」


(そうだな。人の髪は意外と強固だと聞いたことがあるぞ。それか、植物の繊維から調達する方法か―――)


 さすがは頼りになりすぎるブレインことマオさんである。あっという間にいくつも案が出てくる。

 しかし、それらの案であるが―――。


「以外と手間がかかるな…」


(仕方なかろう。せっかく作っても一瞬で魚に引きちぎられたら目も当てられないだろう? あとで泣きたくなかったら手間を省くなオニイチャンとやら?)


 そうなのである。それは極めて正論である。


「でも、めんどいな」


 正論ですぐに変われるほど出来た人間ではない俺なのだった。

 たぶんこれは記憶を失おうが失うまいが変わらない。


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