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26 俺達。放浪を再会する。

「彼女とした約束は、今後その忘却魔法だっけ? それを使わない事って言ったんだね?」


 カーヤが自分に忘却魔法を使って昏倒した後、とりあえずカーヤの家に担ぎ込んで目が覚めるまでベットに寝かせて様子を見ることにした。

 因みにカゲは一緒に寝ている。どうやら添い寝ができるくらいだ。もう警戒心は皆無だと言える、クソガキは慣れるもの早くて羨ましいもんだ。

 俺はまだ油断すると震える。心でなんとか理解しようとしても身体はしっかりと深層に刻まれた恐怖を代弁するようにカタカタ反応する。


「そうだ。カーヤが罰がなければ、自分を罰してくれなければ、家族と呼ぶのに負い目が出る的な事を言ってたから、俺がその罰を決めてやったってわけ」


 それがまさかノータイムでの自分に忘却魔法だとは誰にも予想できまい。少なくとも俺は予想できなかった。などと自己弁護などしてみる。

 いや別に、マオの受売りとは言え一応自分で決断したあの時の判断が間違っていたとは思わない。

 ただ、自分の言葉が原因でのこの結果になにか引っかかるものがあるのも事実だ。なんかモヤモヤする。


「じゃあ、もういいよね。彼女が‥‥‥お姉ちゃんが目覚めたら遺恨なしでおはようって言おう兄ちゃん?」


 その事に関して俺を責めるかと思ったがそんなこともなく。責められることで償えるものもあるというのに、こいつはそれらにあくまでも無知なままだ。

 やはりコイツに罰の相談をしても、いい案は出てこなかっただろうなぁ。

 このダメ人間製造機め。


「あとさ、兄ちゃん。ありがとう」


 いきなりお礼を言われた。言いたい事がわからない、文脈が繋がらねえ。


「いや、僕とカゲが記憶を失ったあと、ひとりで頑張ったんでしょ? お蔭で兄ちゃんの事を忘れずにすんだよ。あとなんだかんだいい結果に収まった気がするからホントに良かった。だからありがとう」


 ああそういう事か。

 俺ががんばったワケ。それはなんでだろう?

 こんなクソみたいな異世界で1人になってしまったら詰みだからだろうか? それは理由としては大多数を占めている気はする。

 ただ、無我夢中でこんなことになったが、そもそも今後の危機回避の為に弟を助ける結果、危機に陥ってしまったのはなんか、なんつーか、本末さんが転倒してねーだろうか?


「いーんだよ。俺は兄ちゃんだぞ。いつも助けられてばかりじゃねぇ。たまには助ける側に回ることだってあらぁな、だからお兄様を讃えろ」


 明言化は出来そうもないが、まぁ今という結果がこうしてある。それでいいか。

 考えるとドツボにはまりそうなので考えるのをやめた。

 兄ちゃんらしく、年長者らしく、今回はがんばりました、でいっか。


「にーちゃ、アキシゲ。おねーちゃおきた」


 ふとカゲが俺と弟の裾を引っ張っていた。件のお姉ちゃんが目覚めたらしい。


「あいよ、じゃあいっちょ、起こしますか?」


 頭で渦巻いている色々な感情はいったんここで打ち切って、弟の言う通り、ここまでの覚悟を見せたお寝坊さんなお姉ちゃんとやらに今までの遺恨はすっぱり忘れて起こすとしよう。




「うぅん」


 ベッドではカーヤが身じろぎし今にも起きる所だった。

 うっすらと目を開けて、その視線の先には俺と弟とカゲいる。

 記憶を辿っているのだろう。かつてと圧倒的に違う人口密度に戸惑う。


「えーと‥‥‥おはよう、みんな?」


 家族を視認して、何かを想って、目を潤まして。ここまでのあらすじを思い出して。


「おはよう!!!」


 もう一度そう告げて、俺達をぎゅっと抱きしめた。

 いや、めっちゃ力強くて痛いんだが。ゴリラかよ。



 確認していみると、カーヤが自身に使用した魔法で記憶を忘却してしまったようだが、その範囲としてはピンポイントに忘却魔法の事だけだった。

 使い方を忘れてしまったというわけではなく、そんな魔法の存在そのものを忘れてしまっているようだった。

 ここまで細微なコントロールが出来ていたのなら、彼女は魔法使いとしては途方もない実力者であって、もしも通常魔法、ただ傷つける魔法を使用したとしたら、体内に優秀なブレインを内包していたとしても柔よく剛を制せないで一方的に蹂躙されて終わり、俺には完全に勝ち目がなかったとはマオの弁である。その情報は後出しでホントによかった。

 いやー舐めプに徹してくれて助かった。

 ただしカーヤのこれはあくまでも自己申告によるものなので盲目的に信じる事はできない。

 ただ、家族になったのだ、すべてを曝け出してほしいとまでは言わないが、ここは真実を語って欲しいというのが本音の所だ。


「じゃあ行くけど、忘れ物はない? ハンカチは持った? ちり紙はもった? 忘れてももうしばらく取りには戻ってこれないんだからね」


 カーヤが母性を全開に発揮して俺達の忘れ物チェックをしていた。

 一度こちらの懐に入ってしまえば、早く家族として馴染みたいからかもしれないがカーヤはひたすらに献身的だった。

 俺は甘やかされてダメにされる自信がある。弟も無自覚で他人をダメにする達人であるが、カーヤは自覚的に家族をダメにするダメ人間製造機だ。

 しかもカーヤに至っては自称年上らしいから、弟に甘えるという立場的にヤバい事を犯さずとも、自然の流れてで年上に甘えるというダメ人間一直線コースを歩める。まっすぐに淀みなく躊躇なく歩める。


「うん。だいじょぶ、おねーちゃ」


 カゲが律儀に持ち物を広げて一個ずつ指さしチェックをして告げる。カーヤは満足そうだった。


「大丈夫だと思うよ」


 弟もそれに倣って持ち物を広げる。弟とカーヤ感では言葉は通じないはずであるが、若干もうコミュニケーションが取れているからかカーヤは満足げだった。


「めんどくっせ、そういうのはねーちゃんに任せますわ」


 ダメお兄ちゃんこと俺は、そういう過去を振り返る的な事をする気が一切なく、今と未来を生きていくつもりなので指示には一切従わなかった。お姉ちゃんは不満そうだった。


「にーちゃ君。忘れても誰も貸してくれないんだからね!! ちゃんと確認して?」


 そんな感じで俺を嗜めた後に、しょうがないなぁ。とか言いながらなんだかんだやってくれるのだ。

 本当に俺をダメ人間にしにかかっている。もうなってる? 自覚は有り余る。

 


 俺達はカーヤの家を出てまた旅に出る事にした。

 俺とカゲは定住の地があるほうが良い。わざわざ自分から危険に飛び込んでいく事はしたくない、安定がいい派としてここで暮らせば良かったのだが。根っからの冒険青年である弟は異世界のまだ見ぬ情景に今にも走り出しそうで、カーヤは家族の皆と旅行に行くのに憧れていたとかわけわからん事を言い出すし、マオにはいずれここに住んでいるのが近隣の国に知れれば間違いなくお尋ね者だからさっさと離れた方がいいと提言され。結局旅に出る事にした。

 そう言えば、ちょっと前に近隣の国で侵略者としてマオと対峙した時に弟が大暴れした結果、国として再起不能なくらいに損害を出していたのを忘れていた。

 誰のせいと責任転嫁をひたすらにしてそれがマオと弟に、挙句には知り合いというだけで俺とカゲに行き着くというのは往々ありえそうだし、そうなると確かにこんな所に定住するメリットは薄いなぁ。という事に至ったのだった。


「じゃあ家族旅行に行くよ~」


 カーヤの音頭に合わせて森を後にする。

 カーヤ、マオ。入る時より二人増えた。また増えた。こんな感じでどこかで滞在するたびに旅は道ずれ世は情け方式にメンバーが増えていったらそのうち大所帯になってしまう可能性もある。

 いや、それも悪くねーか?

 そんな事を考えながら、冒険再開の一歩をみんなで踏み出したのだった。


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