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22 弟。くそみたいな提案をする。

「オラァァ!!!」 

 

 思い切り弟の頭蓋と心臓位置に発電を喰らわせた。

 常人なら間違いなく昇天。ただ化け物である弟にこれくらいの雷撃は致命傷にはなりえないだろう。

 これくらいだったらいつだかのバチバチクソ幼女の雷撃魔法の方がヤベェ威力だったし。

 目的は記憶を取り戻させることだ。別に命が欲しいわけではない。

 誰が血の繋がった弟の命を欲しがる兄がいるというのか。

 雷撃を喰らった弟がぐらりと崩れ落ちるからそれをそっと支える。


「思い出したかよ秋重」


 なんとか倒れ込む弟を抱き止めたが勢いを削ぎ切ったわけはなく、油断すると共に倒れ込んでしまいそうだ。


「ああ兄ちゃん。思い出したよ、本当にこの度はご迷惑をおかけいたしました」


 だが、そのまま倒れ込むこともなく、今度は俺が弟に支えられた。挙句に軽口をたたくような余裕もあるようだ。満身創痍の俺とは対照的。


「それよりも兄ちゃん、なんか焦げ臭くない?」


 それよりもッ!?

 今までの出来事をそれよりも、と来たもんだ。ちょっとイラッとするのもしょうがないと思うんだ。

 この怒りには正当性がある。

 どれだけ、これまでどれだけ苦労したかわかってんのかコイツ?

 二回も記憶喪失になったんだぞ?


「テメエ、ここまでの苦労をそれよりもなんて些事で済ませる‥‥‥って確かに臭ェえな」


 今まで気が付かなかったのが不自然なほどに圧倒的に焦げ臭い。


「兄ちゃん!!! 手めっちゃ焦げてる!!!」


「は? 手が焦げてるってんな馬鹿な‥‥‥うわッ、なんじゃこりゃ!!!」


 臭いの発生源は俺の手だった。

 なんつーか、焦げてて、いやもうここまでくると炭化しているといっても過言ではなく、指が変なカタチで硬直してて動かせなくて、痛みを感じないのが不自然で…こんなん血の気が引くしかない。


(思い切り発電したからな、そうなるな。まぁ、残った魔力を痛み止めと治癒に回しているからそのうち完治するだろう)


 マオの声が頭の中で響く。ぶっとばしてやりたくなるくらいになんとも呑気な声だ。

 ただ、一応は俺の為に動いてくれている手前、非常にブチキレにくい。

 しかし、痛み止めに治療。魔力というトンデモの万能性にも驚かされる。

 なにがどういう理屈でどうなって発電に使用できる魔力というトンデモを治療に回せるというのだろうか?

 万能すぎねーか魔力?


(それよりも魔女だ。随分離れてしまったからな。もう回復されていると思うぞ)


 感動の再開が一気に冷えた。

 そうだった。俺は今記憶を司り弄る魔女と対峙していたのだった。

 その対決の過程で大切なものを一個取り戻しただけだった。まだ全然勝利していない。


「おい秋重。姉ちゃんを自称するあの痛い魔女やっつけんぞ」


 俺達のパーティである最大戦力である秋重を取り戻した。

 もうこれだけで百人力だ。


「ん、兄ちゃん。倒すの、なんで?」


 だと言うのに弟はこんな事を言う。いきなりブレーキを踏まれたようで拍子抜けしてしまう。

 明らかに被害者であるというのに、あの魔女の幼い容姿に絆されているのだろうか?

 本当に甘い。反吐が出るくらいに甘い。


「お前なぁ。アイツはお前とカゲと俺の記憶を奪ったんだぞ。それは俺が体験を以って保障できる。どう考えても悪意がなければそんなことしねーだろ? だからアイツは敵なんだよ」


 何度も、今まで積み重ねてきた記憶を根底から引っこ抜かれる。

 自分が自分を為す今までを無かったことにされる。

 これは尊厳の凌辱だ。

 俺が指さした先。魔女はもう立ち上がっていた。

 先ほど負わせた両腕の損壊、顔の出血。それらは止まっていた。

 なんという超回復。今更じんじん痛んできた俺の両手の回復力とは雲泥の差だ。


「ねぇ。アシュリー君、アッシュ君、もう一回家族になろ?」


 あんなことをされたというのにまだ俺達と家族になろうなんて戯言をほざく。ほざける余裕がある。

 本当にどの口が言えるというのだろうか。面の皮厚すぎねーか。


(見た目こそは回復しているが、あれだけの怪我だったんだ。おそらくまだ本調子ではありえない。さっさと畳み掛けて終わりにしよう。一応魔女が魔力を放ったら即座に知らせるからそれだけは注意しろ)


 マオはそう見立てるらしい。

 だとしたら、あっちもギリギリなのだ。なのになんでまだそんな事を、家族になろうなんて言えるのか?


「アリダスちゃんも、お兄ちゃん達に帰ってきてほしいよね?」


 ただ、一気に襲い掛かれなかった。

 いつの間にか、と言うか俺と秋重がバトっていた時にでも、カゲを手中に収めていたからだ。

 俺達に見せつけるようにカゲを誇示し、自分は後ろから抱きしめている。暗に盾にしているようにも見える。人質にしているように見えた。

 カゲは困ったように俺達と魔女を見比べている。


「アキシゲ、にーちゃ?」


 抱きしめられているカゲは不安げに俺と弟を呼んだ。

 俺をにーちゃと呼ぶのならどうやら記憶は戻っているようだ。それは一つ朗報だが、ソレ以上に訃報が大きすぎる。


「兄ちゃん。ここは僕に任せてくれないかな?」


 弟が一歩前へ出て告げる。

 いや、初めからそのつもりだが? え、なに? コイツはこの後に及んで俺が戦えると思っているのだろうか? 両手すっごい焦げてますけど? いやそんなん抜きにそもそも俺は圧倒的にバトルに向いてませんけど? スライムとかゴブリンとかあらゆるゲームの最弱種族に例えられるくらいには弱いですけど?

 俺を戦力としてカウントしている事に驚愕しながらも、ようやく弟がやる気になったようだ。

 ちょっと前まで乗り気ではなさそうだったが、カゲが人質に取られている。それが火をつける要因になったのだろう。

 魔女の人質取りは悪手としか言いようがない。ご愁傷様である。

 ここからは理不尽な暴力だけが説得力となる無慈悲な蹂躙タイム。

 ああ、ここまで本当に長かった。マオと弟が激戦を繰り広げて、森に落っこちて、必死に探して、見つけたと思ったら記憶喪失で、元凶たる魔女に合って、俺も記憶喪失にされて、なんだかんだでこうして決着までこぎつけた。

 こうしてちょっと感傷に浸るのもしょうがないと思うんだ。


「じゃあ兄ちゃん、通訳して」


 だと言うのに、弟が次に放った言葉はこんなんで。思わず口をアングリと開けてしまって、ちょっと理解が出来ない。


「通訳? なんで?」


 さっさとぶっ殺して終わりだろこんなん。


「頼むよ兄ちゃん。確かに僕の記憶がスポーンと抜けている期間があって。兄ちゃんがそれを魔法のせい、あのヒトのせいだって言うんならきっとそうなんだろう。でもさ、記憶喪失で自分の境遇も言葉もわからなくて不安しかなかったあの時間をなんとか過ごせたのもあのヒト、姉さんが僕をずっと気にかけてくれていたからなんだ。だから頼むよ」


 自分で記憶を奪っておいて、手厚い看護で懐柔する。なんてクソみたいなマッチポンプだ。

 一つのシステムとして成立してしまっているクソみたいな常習性に怒りすら覚える。

 ただ、こうなると弟はひたすらに頑固で時間に余裕がない現状では説得はムリだと思われる。


(どうしたオニイチャン。苦虫を噛み潰したような顔をして? 人質の事を気にしているのか?)


 カゲには申し訳ないが、そこは大した問題じゃない。 

 言ったら後で軽蔑されそうだが、カゲの特殊技能である命のストックがまだくっそ余ってるだろうから一回くらいの死ならなんとかなると思ってる。

 はいわかってます、命の消費を勘定に入れてる時点でクソ野郎ですよ。


「弟がこの後に及んで説得するって言ってるから驚愕してるんだ」


 マオは絶句した。良かった、弟の説得を奇行だと思っているヤツがまだいてくれたんだ。

 弟はあまりにも呼吸みたいに誰かを救うもんだから毒されていたが、その在り方は一騎当千の賢王たるマオをしても歪に映るようだ。


(魔女の回復までッ、時間がッッ、無いとッッ、言っておろうがッッッ!!!)


 頭の中で怒鳴んなよ、うるさすぎて頭が頭痛で痛い。

 なんか色々弟の懐柔案を考えているが、今ので全部吹っ飛んだ。


「仕方ねえ、ただ無理だと思ったらすぐにぶん殴って黙らせろ。いいか? ぶん殴れよ。それが通訳を引き受ける条件だ」


 もうめんどくさ。

 なんか色々考えるのめんどくさい。

 頭の中では同居人たるマオがずっとがなっているし、秋重は俺をずっと見つめているし。

 さっさと交渉決裂してぶん殴って終わらせる方向にならないかなぁ。

 俺はさらに弟より一歩前へ出て。


「おい魔女。今から旧アッシュ君こと、現秋重君。俺の弟がお前に言いたいことがあるっていうから聞け」


 もう考えるもの億劫な脳死プレイで魔女にそう告げた。


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