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15 俺。戦いを決意する。

「作戦は?」


 せっかくマオという同居人兼ブレインを得たのだ、縋ることになんの抵抗もない。

 なんつーか、人外じみた生命力で宇宙生命体じみたトンデモ生命体であるのは間違いがない。

 授けてくれる作戦もその存在じみたトンデモであると思われる。

 それならきっとこの姉を自称する少女の意表をつけると、まぁそんな計算だ。他人任せの作戦だ。


(ああ、それだが、現状一番確実なのはだまし討ちだな)


 だけど俺の想像に反して作戦はものっそい地味だった。


「いや、そんなん俺でも思いつくわ。もっとなんかないのか? こう詰将棋みたいな緻密で完璧な作戦は?」


(そう言われてもだな……。正直言うと最初はどれだけ内包している魔力量が少なくともうまく廻して真正面から圧倒してやるくらいには思っていたのだが、まさか潜在魔力が0の生命体がいるというのは知らなかった。いやぁ、どれかけ生きていても知らないという事はあるのだなと教えられたよ、ハハハ)


 魔力とやらが何を形容している専門用語なのかはわからない。ただそれを問いただすのはそれほど優先度が高くない。


(そうなると、だまし討ちが一番成功率が高いとなるわけだ。言っておくがこのだまし討ちは当然だがバレないためにお前の演技力が鍵となるのだぞオニイチャンとやら?)


 要約すると、少女になんらかの手段で背を向けさせて落っこちている枝で頭を強打し、倒れ込んだら更に滅多打ちを加えるという作戦というのも憚れるほどシンプルな物だった。

 こんな見た目可憐な少女を棒で滅多打ちにする、正直まともな精神ではやってられない作戦だ。


「さ、帰ろ。みんな待ってるよ?」


 とうとう追いつかれた。ドクンと心臓がいつもより一音大きく跳ねたのがわかる。

 少女が俺の手を取ろうと手を伸ばした。

 勝手に追いて行ってしまった叱責などない。それが年上を自称する寛大さなのか児戯に対する母性じみたものなのかは表情からはわからない。

 だってずっと微笑、心中など察せない。

 だまし討ちをする。具体的には背後から殴打する。それらの嫌悪感などはいったん置いておけ。演じろ、庇護されるみっともない弟くん30代住所不定無職を。


「ごめんなさいお姉ちゃん。また迷っちゃって」


 いややっぱ恥ずかしいわ。

 表情はうまい事変えられる自信がないから俯いて申し訳なさを演出する。


(悪くないぞオニイチャン。演技できそうにないと顔を伏せたのも結果うまく映っている。なんだ、このままならうまくいきそうではないか)


 マオはべた褒めしてくれるが、それは本当に及第点なのか或いは俺の羞恥心を失くすために鼓舞してくれているのかはわからないが、これ以上心を殺して恥ずかしい演技をするためにはこれが及第点だと信じるしかない。

 そんな俺の演技を受けて自称お姉ちゃんはどうだろうか?

 ゆっくりと顔をあげて確認してみると。


「うん、もう勝手にどこかへ行っちゃ嫌だからね? さぁお姉ちゃんと帰ろう?」


 面と向かってお姉ちゃんと呼ばれたためかご満悦だった。なんかぴょこぴょこ跳ねる仕草はやたらと可愛らしい。

 このまま俺が羞恥心に押しつぶされずに演じ続ければイケる。

 少女が俺の手を握って、少女を先頭に歩き出す。


「ねぇお姉ちゃん、今日の夕ご飯はなに?」

「今日は皆大好きシチューですよ」

「ねぇお姉ちゃん、真っ暗だけどお家までの帰り道わかるの?」

「はい、お姉ちゃんはお姉ちゃんだからわかるんですよ」

「ねぇお姉ちゃん、この森にはいっぱい獣がいるんだね?」

「そうですねぇ、でもおとなしい獣ばかりで基本的に襲い掛かってくるなんてことはないと思いますよ」


 なるべく自然にふるまうべくいくつも会話を重ねる。

 暗い森の中を二人の歩く音だけが響く。さっきまで俺一人だったら獣が躊躇なく襲い掛かってきたものだが、あいつら近づいてもこない。

 俺よりも本能に忠実な獣はきっとこの少女の危険性を言葉に出来なくとも理解できているのだろう。


「あ、いい感じの枝だ。剣みたい、カッケェ!!!」


 少女の頭を殴打するのにちょうどいいくらいの木の枝を見つけたので、無邪気なガキを演じて拾う。なんとなしに拾わなくてはいけないが、これが計画のキモの一つだ。


「もぅ、手が汚れちゃうでしょ? なんで男の子って剣とか好きなんでしょうね?」


 大丈夫か? 不自然ではなかったか?

 少女を窺うと齢30超えおっさんが少年の目をして棒切れを拾うという行動は、少年にありがちな行動として映ったらしく。


「家に着くまでには捨てるんですよ」


 おっけ。セーフらしかった。

 あとはどこかでこの少女の後頭部を、スイカ割よろしくかち割るだけ。


(緊張しているなオニイチャンとやら? まぁ理解できなくもないが、あの少女に覚られたら作戦は失敗だ、慎重にことを進めろよ? 薄氷を渡るように慎重に、大胆に、だぞ)


 マオが頭の中で囁く。

 わかってる。わかっているさ。

 棒切れを握りしめる手に力が入る、あとめっっちゃ手汗がでる。気が付くと呼吸が歪になっていた。

 そうして少年のように棒切れを振り回しながらもうしばらく歩いた。


「もうすぐでお家に着きますよ」


 覚悟は決まっているつもりだったが、なかなか行動に起こせない。

 そしてなんだかんだでここまで来てしまった。帰宅などしてしまったらどんな妨害が入るかもわからない。

 多勢対俺一人では勝ち目など皆無だ。

 タイムリミットだ、もうここでやらなくてはいけない。


(まもなくの帰宅で少女も少し気が緩んでいる。恐らくこれが最初で最後のチャンスだ)


 わかっている。

 棒切れを振り回し、無邪気なガキを演じながらポケットからスマホを取り出す。


「あいたっ」


 俺が転んだ。当然ワザとだ。その勢いを利用しスマホを前方に放り投げる。


「痛い痛―い、お姉ちゃん痛いぃ」


 出来るだけガキっぽく痛がってみせるが、演技にリアリティを求めた結果、結構マジで転ぶ演技をしたので顔面を、おもに鼻を強打して痛いのはマジだ。


「もうほらそんなに棒を振り回すからぁ。もうすぐお家だから気が抜けちゃったのね。ほら立てる?」


 少女が手を差し伸べる。

 俺を慮っている、ちょっとやんちゃな弟を窘めている。でもソレ以上に弟を想っている。

 それが伝わってくるような表情だ。

 何回ブレんだい俺の心? でもブレんのはこれで最後だ。最後にしてみせる。

 一回だけでいい。倫理観ちゃんよ、ちょっとあっちの方を向いていてくれ。


「うん、ありがとう」


 少女の手を取り立ち上がる。

 体格差が結構あるのだが難なく俺を助け起こす少女、見た目によらず結構力がある。

 真正面から棒切れで強打できんじゃね? と頭をかすめることも何度かあったが、以外とこれは苦戦するかも、或いは真正面からでは負ける可能性すらある。

 やはり背後からの強襲は間違いではない。


「あれ、僕のスマホが無い」


 なんて白々しい。ちょっと演技として不自然ではなかろうかと冷や汗が出た。

 スマホは前方3メートル当たり地点に転がっている。

 俺の歩数にして5歩くらい。


「あ、あった。お姉ちゃん拾ってぇ?」


 きょろきょろと周りを見渡す演技をはさんで出来るだけ大仰にスマホを指さす。

 もう引き返せない。スマホを示した指がかすかに震えていた。


「あぁ、すまほってあの小っちゃい箱の事ですね。今拾ってあげますからちょっと待ってて下さいね」


 弟のわがままを聞いてくれてスマホの方へ歩き出す自称姉の背中を見つめながら握っている枝により力を込める。


(さあ、いよいよだ。罪悪感に苛まれているかもしれないが、それは後にしておけ。オニイチャンが相手取るのは少女のカタチをしたもっと歪な何かだ)


 わかっている。

 わかってるからわざわざ言葉にしないでくれ。意識しちまう。


「ありましたよ。ほらもう落しちゃ―――」


 少女が屈んで俺のスマホを拾うと腰を曲げた。

 俺から目を逸らす瞬間はもうここしかない。

 俺は棒を振り上げて、逡巡したが、色んな事に目をつむって、物理的にも目をつむって棒切れを振り下ろした。


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