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2 俺、弟を探して魔王に出会う。

「ぶっ」


 弟の落下地点へと駆けていく俺とカゲ。

 森に入っていきなり俺はずっこけた。

 上を見ながら走ったのだから当然だ。むしろよくこけねぇなあのクソガキ。


「オイ、ひとりで突っ走るなクソガキ!」


 俺の忠告なんぞ露と聞かずにカゲは走っていく。どんどこ進んでいく。

 この世界の唯一の拠り所である弟の危機なのだ。互いを互いに優先した結果、自己を蔑ろにするのが大好きな弟とその信者であるコドモトカゲニンゲンであるカゲ。

 だからきっとカゲはどんなことがあっても止まることはない。

 それこそ死であってもカゲを止める理由にはならないだろう。色々な諸事情でアイツ死なねーし。


「はぁ、置いてかれちまったよ」


 空を見ると落下中の弟の高度はもうかなり低い。落下までもう秒読みだろう。

 そのうち、樹海の木々に呑まれてバキバキと木々をへし折りながらそのうち爆音で落下した。

 あの土煙が収まったらもう弟がどこに落下したかわからなくなる。

 もっと急ぐべきだろう、焦るべきだろう。

 ただ、俺の心境としては。


「はぁはぁはぁ、もうめっちゃ疲れた、おじさん疲れた」


 これに尽きるのだった。

 大体弟だぞ、さっき魔王を蹂躙していた弟大明神だぞ。

 上空500メートル(想定)くらいから落っこちたって死にゃあせんだろ。

 そんなんで死んでたらもっと前の修羅場で死んでる。

 まぁ弟は追う。追うしかない。俺の力量的に世間を渡っていくことなどできはしないのだ。

 愚痴ったところで結局のところ選択肢など無い。

 だから一息ついて目方をつけた方向へと歩いていくしかないのだ。


「はぁ行くか‥‥‥」


 ため息一つして歩き出す。

 最近ため息ばっかりついている気がするなぁ。

 重い足取りで一歩を踏み出す。

 近くで何らかの野生動物の唸り声が聞こえてきた。

 時刻はそろそろ暗くなる頃。森の中はうっそうと茂る木々のせいで外より尚暗い。


「うん、明日から捜索しよう、そうしよう」


 身の危険しか感じねえので、我が身かわいい俺はいったん森から離れるのだった。





「はぁ‥‥‥」


 またため息なんぞついてしまった。

 もう逃げる幸せも残っちゃいねえ。

 弟が落っこちた森をのろのろと、進む。

 弟VS魔王決着からもう早5日。もう弟が落っこちた場所がようわからんなくなってしまったダメなお兄ちゃんは今日も今日とて弟を探している。

 もう5日も経っている。まぁたかだか上空500メートル(推定)から落っこちたくらいではあの弟が死ぬわけがないというのは確信があったので別にそこらへんは焦りがない。

 あるのは別の焦り。弟が落下地点からどこかへ行ってしまう。ひいてはそのまま今生の別れになってしまうという点である。

 これはマズイ。

 俺の存在に関わる。

 だが、俺がいくら焦ろうとも世界はそんなん知ったこっちゃねえと無情に時間を進めるのだった。

 気合で野生動物パラダイスの森を闊歩出来るような超人性が皆無な俺は早めに今日の探索に見切りをつけてキャンプすることにした。

 本来、俺という最弱生物が毎日を必死に生きている生態系に横から介入する術なんぞない。

 日没までには毎日森から出るのが常である。

 だが、俺にはそれをしなくていい理由があった。正確にはそんなことをしなくてもよくなった理由である。


「それで今日もなんの成果も挙げられなかったというわけか? ホントにあの化け物の兄なのか貴様は?」


 その理由がこれである。これは俺の一日の苦労をそう酷評する。

 なんか図星で悔しいので言い返すことにする。


「うっさい結果主義者め。てめえはもうちょい過程というものを評価しろ」


 最弱生物である俺がこんな森の真ん中で得たセーフティゾーン。


「大体てめえも、魔王とか意気込んで弟にやられて全部無駄だったじゃねえかよ」


 それは、5日前に弟がこんな森に落下する原因になった。


「貴様ァッ」


「ひぃっ!」


 半身が千切れて、ぶっとい枝にどてっぱら突き刺されて地面に貼り付け喰らって動けなくなってそれでも生きている魔王が虎視眈々とエサになりそうな獲物を狙っている場所なのだからだった。





 ぱちぱちと薪が爆ぜる。

 何度目かの未開の森で迎える夜だ。

 本来感じるべき命の危機は特に感じない。


「ねえいまどんなきもちねえ?」


 この森最弱である俺が生きていられる理由であり、本来であれば崇拝するべき相手である魔王。

 それを煽って弟が見つからない鬱憤を少しでも晴らそうなんて器の小さなことをしていた。


「そうだな。貴様の弟ともう一度戦いたいな」


 腹になんかぶっとい枝が突き刺さっているくせにこの魔王とかいう人種はそれでもまだ自身の命の危機を微塵も感じていないようだった。

 晴天である。本来であれば星空でも仰ぎ見えそうだが、こうも木々が高く高く自己主張すればそれも叶わない。

 ただ、それでも魔王は空を仰ぎ見てしみじみ呟く。


「勝算はあるのかよ?」


 あと、俺の嫌味は通じていないようだった。からかいがいがないヤツだ。


「‥‥‥本来であれば、戦いに赴く前には勝利条件を満たして行くべきだろうな」


 頭上でドンパチやっていたのを遠目で見ていただけだから。

 まさか会話するような機会が訪れるとは思っていなかったから。

 魔王という存在はただただ戦うことがアンデンティティとかレゾンゲートルとか言い出しそうな本能のままに戦うヒトなのかと思っていた。


「ただな。純粋に楽しかったのだ。あの時ばかりはただただ童心に帰ってなにも背負わずに戦えた」


 そうくすぐったそうに笑う。おっさんがはみかみながら笑うなんて字面にしてみればそれなりにきついはずなのに比較的にイケオジである魔王だからか、なかなか絵になっていた。


「だからこの枝を抜いてくれんか?」


 いきなり真顔になるな。温度差で風邪ひきそうになる。


「だから言ってんだろ。俺にはそんな巨枝引き抜くようなチカラはない。弟が見つかったら再戦を頼んでやるからここに魔獣が来ないように殺気張り巡らせてくれ」


 正直、こんな化け物を解き放つつもりはさらさらない。

 弟を見つけたら、そっこーぶっ殺して終わりだ。

 問題は俺にはそんなことが実力的には出来ないし、弟という人種は無抵抗なヤツを無条件で害せないというところだが、それをどう言い包めるかは出たとこ勝負だ。

 とりあえず弟を見つけることが第一目標である。


「そうか。貴様が弟を見つければこの枝も引き抜けるし、もう一度戦えるし、いいことづくめだな。がんばるのだオニイチャンとやらよ」


 果たして俺の言葉をどこまで信じているのか。

 この魔王という輩であるが、少し話したりした程度ではあるが俺の浅い器では測れないような大物であるのはもうわかっている。

 きっと純粋な力だけはなく、知性であっても俺は足元にも及ばないであろう。

 魔王というのはゲームでのイメージで君臨していりゃあいい暴君みたいなイメージだったけど、たぶんコイツは違う。

 いつかの時代にどこかの場所で数多の民を従えた君主なのだろう。

 きっと俺のウソは看破されている。

 それでもこの魔王とかいうやつは俺を糾弾するでもなくこうして俺のレベルに合わせてくれている。願いが叶わぬと思いつつだ。

 そこに如何な智謀とか策略とかがあるのかはわからないが、掌の上だとわかっているから掌で精々躍らせてもらおう。利用できるのならば利用させてもらおう。


「ああ、わかったよ。じゃあそろそろ寝るわ」


 魔王に夜の晩をまかせて眠ることにした。

 この魔王の規格外な存在自体が魔獣にとっては近寄り難いものらしく、死にかけのくせに動物避けとしては最上であることはもうわかっている。


「ああ、精々いい夢を見るがよい」


 そんな思わせぶりに何かを含ませて俺の器を計っているのか?

 お前が見積もっているより千倍浅いぞ俺の器は。そう思いながら俺は眠るのだった。


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