8-3 家族が増えたはなし(一章終わり)
パチリパチリと薪が爆ぜる音で目が覚めた。
「あ、兄ちゃん起きた」
珍しく、弟が火の番をしていた、それにしても焚き木でかくね? 顔の側面がめっちゃ熱い。
「炎でかすぎ、キャンプファイヤーかよ」
なんかうまいこと組まれていて、その中で踊る炎は火柱と形容してもいいような高さだった。これを個人で組んだということに呆れしかでない。
「いやぁ、なんか組んでるうちに楽しくなってきちゃって。なんか木とかいっぱい倒れてたしさ」
ホントにため息しかでない。
これがさっきまで疲労困憊だったヤツだというが信じられない。
「あ、クソガキはどうなった?」
そこまで言って、コドモトカゲニンゲンにカゲという名前を与えた事を思い出した。
カゲ本人よりも俺達がそれに慣れなければいけない。
「兄ちゃんの横で寝ているよ」
隣で寝てました。
薄く寝息を立てて、無い胸がわずかに上下して、まごう事なく寝ておる。
「で、結局、最後なんて言って頭突きしたの?」
弟には俺の命名宣言より頭突きがメインに見えたようだ。
「いや、お前の名前は カゲ ってんだよっつって頭突きした」
「へぇ、彼女カゲっていうんだ」
「いや、テキトーに名付けた。名前がわからなくて暴れているなら与えちゃえばいいんじゃね? って我ながら浅はかな試みだったわ」
「でも結果、うまくいったみたいだよね。兄ちゃんの頭突きの後、なにか呟きながら気絶しちゃったからね、それにしても――」
弟がニヤリと笑った。
焚き木をバックにしているせいか大層意地悪く映る。こういう時だけは全然、主人公っぽくない。ただのクソガキに見える。
「兄ちゃんが他のヒトを名前で呼ぶなんて珍しいね」
「あ? そうか?」
「そうだよ。兄ちゃんが僕の事をちゃんと秋重って呼ぶのだってそんなにないのにさ」
俺はヒトの名前を言うのが苦手だ。
理由は定かではないが、それでも無理矢理理由づけるとしたら、それにはなんだか、繋がりと言うヤツを意識せざるをえないからだ。
絆とかいうよくわからないものを意識せざるを得ない。
原則ヒトを信じられないと厨二病のまま大人になってしまったコドモオトナニンゲンである俺にとってはどうにもすわりが悪いのである。
それでも、名前で呼ばざるを得ない人間が一人増えてしまった。
つまりそれはそういうことなのだろう。
「はぁ、しんど…」
ため息も我慢できないし、我慢するつもりもない。
だってめんどいのだ。
「兄ちゃんってさ。他人がシンジラレマセ~ン、とか言う割に土壇場でやらかすよね?」
「はぁっ!?」
弟は弟で俺の事を自分なりに分析しているみたいだ。いや大外れですけど。正反対ですけど!
「物まね似てねーよ下手くそ。いいから寝ろ。疲れんだろ!」
その腹立つニヤニヤ笑いをやめろ弟。底意地の悪さが出てるぞ。
こいつは対俺の時だけ変にイキイキしてやしないだろうか。うっざいわぁ。
「へいへい寝ますよ。なんだかやっぱりすっごい疲れてるみたいでさ。実はもう意識が落ちそうなん…」
言葉が最後まで続くことは無く、寝息が聞こえてきた。
弟が組んだキャンプファイヤーが良く燃えている。
野生動物はこれなら来ないか? 寝ていいか?
でも以外と野生動物が全て炎でなんとかなるかというとそうでもなくて、炎につられて夜盗が来る可能性も捨てきれないわけで。
移動が正解なのだろう。ただもうホントに今日は動けない。
パチリパチリと爆ぜ上がる炎につられて空を見る。星がきれいだ。
ふと、知覚したのはコレが夢だということだ。
内容はそれほど重要ではない。日本でいつも通りなんかしらやらかしてアワアワする俺にとって救いようのない日常だ。
いや、本当にそれはどーでもいい。
夢見ながら焦りと共に思ったのは、俺、寝ちゃった。に尽きる。
皆満身創痍なのだ。俺が寝てしまったら誰が見張りをするというのだ。
それを想った瞬間。意識が強制的に覚醒した。
夢から力づくでたたき起こされたようなものだ。脳がぐわんぐわんする。気持ちわりィ。
「あ、おきた!」
コドモトカゲ…カゲが俺の覚醒を確認し、こっちにパタパタと駆けてきた。
相変わらず薪がうず高く積まれていて、炎がそれよりも高くあがっている。
「寝ちまったみたいだ。すまねぇ」
なんでカゲに謝らなければいけないのかわからないが寝てしまった事自体は過失なので謝る。
「だいじょうぶ。ぐっすりだったよ?」
ぐっすり? 冷や汗がタラりと頬を伝った。
「なぁ、俺はどれくらい寝てた?」
カゲは腕を組んで考えだした。え? なに? 考えなきゃいけないほど俺は寝ていたのか?
「ふつか‥‥‥くらい?」
2日! そんなにぶっ飛んだ日にちではなかったが、2日。2日かぁ。
なんだかんだ俺も満身創痍だったんだなぁ。わかってはいたが、きっつぃなぁ。
日を跨いで寝続けたのは初めてではなかろうか?
「ねぇ?」
カゲが俺に問いかけてきた。
俺に目を合わせて、意を決したように。
「わたしのなまえってなに?」
なんだその問い?
この前言ったじゃん、お前はカゲだって。
そう言ってこの件は終わり。のはずだ。
ただ、カゲの目はそれだけで終わらせてはいけないと無言でを訴えてくる。
名前。由来。ぶっちゃけ適当に名付けた。けれども、それが今後のこいつの根幹になりえる可能性がある。
どんな理由があろうとも名付けたのは俺だ。
きっとこれはテキトーに済ましてはいけないのだろう。
しかたねー。とコドモトカゲニンゲンの、カゲの肩を掴んで目を合わせて言った。
「お前の名前はカゲだ、俺と秋重の家族のカゲだ」
目は合っている。ただカゲは無言だ。何を考えているやらはさっぱりわからん。
沈黙が続く。くっさいセリフを言ってしまった、耐え切れねー。誰か助けてぇ‥‥‥。
「あ、兄ちゃん起きたんだー。2日間ぶっ続けで寝てたんだよー。もー心配しちゃってカゲと栄養がありそうなものを集めてこようって順番にこの周りを散策してたんだよ」
俺の願いが届いたのか。弟がひょっこりと現れた。
本当に心配してたのかよってくらい、のんびりとした口調だった。
言われて周りを見てみると、この異世界生活で学んだ食べれるものがけっこう置いてある。
宴会でもはじめんのかよって具合だ。
弟はこっちに来てカゲの頭を撫でた。
カゲもカゲでされるがままに目を細めて撫でを受け入れている。
言葉は通じずともこの二人は意志疎通がある程度できるようだ。すげぇな。
なんだか眩しいものを見ているようで直視が難しい。思わず目を細めるしかない汚れた心のお兄ちゃんこと俺である。
「だいじょうぶ?」
「兄ちゃん、どしたの?」
弟とカゲが俺を案じて同時に声をかけてきた。
他人を案じれる素晴らしいヤツラだ。俺の家族だ。
こんな異世界に拉致られてきてイキモノの汚さをこれでもかって実感させられて、みんな死ねって思ったりしたこともあったけど、こうして俺達の常識に汚染されて俺達の家族になるようなヤツだっている。わかりあえるヤツだってこうしている。
こんな異世界に連れてこられた理由はわからない。理由なんてないのかもしれない。
ただ生きている以上は色んな意味で前に進むしかないのだろう、とそんな明確性のないふわっとした感想を抱いたりする。
「あ、兄ちゃん。動物狩ってきたきたから肉が食べれるよ!」
そう言って、ウサギの化け物みたいなデカい肉を取り出しながら言う。
「じゃあ、カゲ、兄ちゃん。肉を捌くのはお願いね」
は?
「てめぇ、生き物を殺すなら最後までやれよ! それが責任ってもんだろう?」
「うん。だからおいしく食べてあげるためにお願い、ねぇカゲ?」
言葉も通じねぇ癖もカゲの方を見てこんなトンデモ理論をぶちまける。
「うん!!」
カゲもカゲで役目を与えられて嬉しいのか、肉を受け取って仰々しく頷いた。
「やろう?にーちゃ!」
目が爛々と輝いていやがる。
‥‥‥やっぱ、こんな世界、嫌いだわ。そう思った。
あ、あと、カゲが俺の事をにーちゃと呼ぶようになりました。おそらく弟が俺の事を兄ちゃんと呼ぶのを響きだけマネしたものと思われる。
ここで1章が終わりです。次から2章です。
とりあえずここまで読んでくれてありがとうございました。




