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7-18 俺、ふてぶてしく笑う。

「あ、そうだ。逃げなきゃ」


 何から? わからんが、これだけの惨劇だ。

 バチバチクソ幼女。主人公青年。相対したのはこの2名ではあるが、これ以上の後続が控えていたらもう抵抗しようがない。

 後続が控えていたらもう逃げようもないのだが、逃げることしかできないので逃げる。


「よっこらしょ、やっぱ重ぇな」


 コドモトカゲニンゲンと弟をなんとか担ぎ上げて歩き出そうとするが。


「あでっ!」


 二人の重さに耐え切れずずっこけてしまった。

 俺も限界みたいだった。思い出したように脚がガクガクと震えはじめる。掌が弛緩して握り拳が作れない。

 弟とコドモトカゲニンゲンが上に乗っかったまま動けない。もう払いのける元気もない。

 ただ意識だけが妙な昂揚感で覚醒状態だ。

 

 突如、遠方でごぅ、と炎があがった。

 たぶん主人公青年の炎だろう。

 さっきの黒弟の突進くらいじゃ死ななかったみたいだ。いや絶命足り得る一撃だと思ったんだけどなぁ。

 逃げなきゃ。これに尽きる。

 明確な危機が近づいてくるのがわかったのだ。

 逃げなきゃ死ぬ。いや、弟とコドモトカゲニンゲンは命のストックがある限りそうそう死なないだろうけど俺のライフは最初から1しかないのだ。


「動けぇ!!」


 歯を食いしばり体に力を込めるが、やっぱりさっぱり身体はびた一文として動かない。

 どうする?

 いっそ死んだフリとかで切り抜けるか?

 俺は一番下だし、ワンチャンいけないだろうか?


「いけねーだろーなぁ」


 秒で却下する。

 なにか妙案はないだろうか。

 ぼんぼんぼん、と空気が爆ぜる音が響く。そしてそれが徐々に近づいてくる。

 アホみたいに速い。

 あとどれくらい考える猶予がある?10分?5分?

 いずれにせよ決して楽観はできない。

 なにか、なにか‥‥‥。妙案は?


 そして1分もたたずとして、天空から青い炎を翼みたいに展開して、一本の鉾のように一直線に真っ直ぐ突っ込んできた。

 着地の瞬間、世界が震える。地面をひどく抉り、砂煙を馬鹿みたいに巻き上げて、主人公青年が戻ってきたのだった。




「アナタがやったんですか?」


 開口一番、主人公青年がそう言った。鬼を見たことがないけど鬼みたいな形相だった。めちゃくちゃ恐い。


「‥‥‥」


 俺は結局死んだフリをすることにした。

 通じる可能性が微弱でもあるなら試してみようと思ったのだ。


「焼くぞ?」


「すいません、起きてます。焼かないでっ!」


 まぁそりゃダメだった。

 主人公青年が剛炎を掌から発生させられている以上、勝機がない俺は秒で折れるしかない。もう敬語も使ってくれない。キレているのは明白だった。


「お前がやったのか?」


 口調もさっきより乱暴だ。ただこっちのほうが地の気がする。きっとさっきまでが余所行きだったのだろう、俺の勝手な想像だけど。


「何をやったのかって具体的に言ってもらわないとわからないんだけど‥‥‥」


 多分主人公青年は俺より年下だろう。けど下手なこと言うと焼かれそうなので下手に出るしかない。俺は全く動けねーし。


「お前がその化け物を止めたのかって聞いてんだよ」


 黒弟を止めたのはコドモトカゲニンゲンだ。俺は最後に結果だけを掻っ攫ったに過ぎない。突っ立っているうちになんか終わっていたに過ぎない。


「止めたのは俺の上で気絶してるクソガキだよ。んで俺はそのクソガキを止めたんだよ」


「どうやって止めた?」


 ガンガン聞いてくるなコイツ。


「そ、それはアレだよ。アレアレ。俺の隠されたパワーとか第二形態とか奥の手だとかだよ。きっと‥‥‥だぶん?」


「もういい」


 ごぅっと炎が主人公青年の両腕から迸った。

 ヒトを焼くには過剰なほどの剛炎が二本、柱となって高く高くそびえ立つ。

 直視しているとガンガン目が乾いて、唇からすごい勢いで潤いが飛んでいく。ただ目を逸らそうものなら即座に炎をぶち込まれそうなのでそれも叶わない。

 もういい。とはもう聞くことがない。ということだろう。


「いいのか?」


 真っ直ぐに主人公青年の目を見て呟く、がんばってふてぶてしく、憎らしく、弱っている素振りなんて微塵も感じさせないように。

 潰れたカエルなこの身ではあるが、心構えだけは天上から見下すように。


「もう聞くことは無い、もういいよ」


 もう俺には興味はないのだろう。

 だから、きっとこれは主人公青年にとっての後始末。

 色んなことがあって、色んな目にあって、しんどい一日だったに違いない。

 それもようやく終わりが見えてきた。今日はよく眠れるに違いない。


「いや、聞きたい事じゃなくてさ」


 だけど、まだ終わっちゃいない。終わらせてなんてあげない。

 今日もお前の眠りは後悔とか後ろめたさとかにうなされる物にしてやるよ。一生苦しめこの野郎。

 俺が武力では絶対に敵わない炎の権化に届くもの。それを必死こいて行使する。


「バチバチクソ幼女、殺しちゃうよ?」


 主人公青年の眉がピクリと動いた。なんてわかりやすい動揺だ。こういう謀略にはきっと向いてないのだろう。わかりやすすぎてもう大好きっ。

 俺が唯一行使できるのは言葉だけ。空っぽの虚言だけだ。

 俺が主人公青年に突きつけられる現実。それは俺が伸ばした手がしっかりとバチバチクソ幼女を掴んでいて。気絶している弟とコドモトカゲニンゲンの手もそこに添えられているという事だ。

 主人公青年がこっちに向かって飛んで来るまでのわずかな時間、俺が必死こいてひねり出したのは、未だに気絶しているバチバチクソ幼女を人質にすることだった。

 短いタイムリミットに向けて弟とコドモトカゲニンゲンを背に乗っけたまま必死に這いつくばってなんとかバチバチクソ幼女の元までたどり着いたのだった。

 ホントギリギリだったけど‥‥‥。

 ちなみにだがこの行き当たりばったり作戦だが、バチバチクソ幼女が起きたら即座に破綻である。本当に胃がチリチリする。

 あとは野となれ山となれ、ケースバイケースで成り行きに身を任せて出たとこ勝負でどうにでもなれ作戦で行くしかないのだった。



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