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7-17 俺、世界の中心でやっちまったと叫ぶ。

 とりあえず危機が去った。安堵から息を長く吐き出す。


「あんがとよ、マイスイートブラザーマン!」


 黒弟に軽口をたたいてバチバチクソ幼女を抱えていない方の手を振る。伝わってんのかな?


「グルルルルゥ!」


 あぁ、伝わってねえなコレ。

 黒い外殻に覆われ弟の表情は窺えない。ただ赤く光る双眸から伝わってくるのは殺気みたいな決してクリーンなものではない。

 危機は全然、去っていなかった。黒弟にとっては獲物が主人公青年から俺に変わっただけ。

 延髄が雑巾絞りされるようにギリギリと締め付けられるような感覚。もうちょいうまく伝えられればいいが、そうとしか表現しようのない。

 きっとこれが肉食獣に捕食の意を明確に叩きつけられたエモノが感じる物だろう。


「ちょっ! やめっ! 危ねっ!」


 びゅん、と黒弟が腕を薙いだ。

 そこから蛆虫じみた泥が薄く研ぎ澄まされた刃のようにこちらに飛んでくる。

 当たったらそのまま切り刻まれるのか或いはまたあの異空間みたいな胃の中に叩きこまれるのか、いずれにしろロクなもんじゃない。

 思い切り横っ飛びして回避する。

 俺の身体能力はものすごい勢いでしぼんでいく風船のようにどんどん減衰していく。

 恐らくだがあと30秒もしないでいつもの最弱お兄様に戻ってしまうだろう。

 なんとか泥を避けて、黒弟の方を見ると泥を足元に展開して陸上のクラウチングスターターみないな形状を形成していた。

 多分一瞬後にぶっ飛んで来る。

 回避は、もう無理。なら、どうする?

 思考がまったくまとまらない。

 ただ、黒弟が突っ込んでくるから思わず構える。


「ヴァアアアアアアア!」


 黒弟の咆哮に合わせて。


「うわああああああああ!!」


 悲鳴なのか気合なのか、まぁなんか叫ぶ。精一杯叫ぶ。

 次の瞬間、黒い線がこっちに迫ってくるのがぼんやり見えたから、無意識にぎゅっと結んだ拳を前に突き出した。


「だめ、アキシゲッ!」


 黒弟らしい弾丸じみた黒い線がこっちに迫ってくる速度に比べればあまりに遅すぎる。

 この行為になんの意味があるのか? 見出したのか?

 自分の身を投げ出すことで何かが起こると思っているのか?

 あまりにもゆっくりと俺と黒弟の前に身を投げ出したのはコドモトカゲニンゲンだった。

 ゆっくりすぎてマヌケに見える。

 マヌケにも身をさし出したコドモトカゲニンゲンに、マヌケにも急に減速しコドモトカゲニンゲンをそっと抱きしめた黒弟に、マヌケにも突き出した拳がもうこれ全っ然止めらなくてコドモトカゲニンゲンと黒弟のどてっ腹を貫いた俺の拳とか。

 もう全部が全部なにもかもあまりにもマヌケに見えた。


「はぁ?」


 絵面がやべえ。

 感触は先ほど、散々肉壁を貫いてきたからそれほどの嫌悪感はない。ちょっと気持ち悪いくらい。

 ただ俺のつぶらなお目々にばっちり映っている。献身から俺と弟をかばったコドモトカゲニンゲンを、正気を失いながらも慈愛を以ってコドモトカゲニンゲンをそっと抱きしめた弟を、なんも考えなしに突き出した俺の拳が貫いているのがばっちりと映っていた。


「はぁっ!?」


 やっちまった。

 語彙が無いことが悔やまれるくらい今の感想がこれしかない。

 意味もなく弁解しようと周りを見渡すが当たり前に周りにはだれもいない。そりゃあそうだ。

 腕を引き抜くとコドモトカゲニンゲンと弟がずるりと落っこちた。

 しっかりとお互いがお互いを抱きしめて、大切な物をもう離さないようにと。

 ぷぅ~、と静寂が支配するこの空間にマヌケな音が響く。俺の屁だった。

 そして、いきなり身体ががくんと弛緩した。たぶん、屁じゃなくて俺に押し込まれた最後の魂が出てった音だったようだ。こうなるともういつもの最弱お兄様だ。


「あ、そうか、たましい」


 そうだ、弟とコドモトカゲニンゲンには押し込まれた無数の誰かの命がある。一回の致命傷くらいでは死にはしないはずだ

 見ると、二人とももう体に空いた穴が塞がっていた。そして寝息のような薄い呼吸も聞こえた。


「あっぶねえええ! セーフ!」


 自分で言って果たして何がセーフだというのか?

 結果論として殺してないからセーフなのか?それは正直わからない。

 ただ自分の心の均衡を保つためにセーフと言葉にする。

 きっとこれは必要な事だ。

 一端これから目を逸らすことは必要な事だ。

 これ以上考えると、心がくしゃってなってしまいそうだった。

 ため息をついて、周りを見渡す。

 ひどく変貌してしまった地形。激減してしまったイノチ。

 魔法というトンデモと弟の異能というトンデモがぶつかった結果がコレだ。こんなことが何度もあったらこの世界はいずれ耐え切れずに壊れてしまうのではなかろうか?

 或いは世界はそんなに軟ではないのかもしれない。

 ただこんなことがポンポン起こると俺が耐えられない。キッツイわぁ。


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