表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/212

7-19 主人公青年。交渉のテーブルにつく。

「‥‥‥」


 主人公青年は無言で苦虫をかみ殺したみたいにこっちを見下している。意外と効いているようだ。

 ならば一気に押し切るしかねえ。


「なぁ、ここでお互い手打ちにしねぇか? 俺はみんな揃ってもう見逃してほしいだけだし、そっちだってこの幼女救いたいんじゃないの? 大体先に手を出してきたのはそっちだろ? おかしくない? 言わばこっちが被害者じゃね? 加害者が被害者ヅラしてキレんのおかしくない? どんだけ面の皮厚いの? ホントだったら慰謝料とか欲しいくらいなんだけど? 慰謝料ってわかる? でもこっちも手を出したから大人である俺は喧嘩両成敗で収めてやるって言ってんだよ? もうこうなると両方とも損してねー気もするけどリスクヘッジしろよ。ここが互いの引き際だってそうに違いないって、俺寛大じゃね? 勘弁してくださいよ。なあおいどうなんだよ?」


 どこの部分が刺さったのか思い至る部分もあるようで、両手から発せられている炎が少しずつ萎んでいった。

 あとはこの主人公青年の良心に任せるしかない。

 無言の時間が続く、思慮顔と萎んでいく二柱の炎からなんとなく感情が察せる。これはイケる。

 ならば更に押すべきか? これ以上煽ると逆上とかしないだろうか? 次手を考えてこっちも押し黙る。さあ何が正解か。


「はぁ、わかりました。確かに先に手を出したのはこっちでしたね」


 先に手を出した結果、双方大やけどの惨事になってしまった。

 主人公年自身かバチバチクソ幼女か、もしかしたら敵方であるコドモトカゲニンゲンか弟あたりのダメージに心を痛めているのか。計り知れないが、しんどそうな生き方だけはにじみ出ている。ご愁傷様だ。


「確かに彼女の行動は早急でしたが、この世界にとって異世界人というのはそれだけ脅威になりえるという事も理解してください。あなたたちは異世界人でしょう? この状況から際せるように下手をするとあっさり世界を滅ぼされかねないような状況にもなりえるんです」


 いや、そんなこと言われても知らんし。一生懸命に生きてるだけだし。

 イメージとしては外来種に生存競争で負ける在来種的で合ってる?


「アナタの弟とその少女は危険だ。それこそ条件が揃えば世界中の命を吸い尽くしてしまいかねない」


 それについては概ね同意だ。

 俺たちがもともといた世界だって、若干弟をもて余していた感があったのだ。そんなんをいきなり異世界に放流されてたまったもんじゃないという心境はなんとなく察せる。

 確かに察せるが許容はできない。


「確かにそれはあるかもしんないけど、弟のこのクソガキも意味もなく暴れるような暴れん坊じゃねーんだ。ちょっと他人の痛みに敏感プッツンしちゃうだけなんだよ。俺の身内を馬鹿にするのも大概にしろよふざけんな」


 シリアスが終わったかのようにきょとんとした顔する主人公青年。なんか変なこと言った?


「信頼してるんですね」


 俺達を見下ろす主人公青年の目にはもう敵意のようなものは感じとれなかった。


「もちろん、して‥‥‥るよ?」


「なんでそこは言い切らないんですか?」


 信頼? なにその恥ずかしい言葉。はい、してます。って堂々と言えるほうが胡散臭くねぇか。


「いいんだよ、そんなことは。とにかく俺達を見逃せよ」


 まだ何かを考えている主人公青年だったが、結論が出たようで、深く息を吐いた。


「わかりましたよ。今回は見逃します。ただまた暴れ出すようならそれこそ僕たちの命を鑑みずに全力で排除しなくてはいけない。それは僕たちの仕事です。それは理解してください」


 命を鑑みず? なにそれとんだブラック企業じゃん。異世界には労働基準法とか絶対ないだろうし本当に大変だね。


「それでは、彼女の手を離してもらえませんか?」


 俺がバチバチクソ幼女の手を離して、主人公青年がそれを回収して、そのままお別れして終わり。

 そのはずだ。ただ俺は手を離すのを躊躇していた。

 唯一の交渉材料をあっさりと手放す事に難色を示していた。

 そうなんだよな。手を離さなきゃ話は進まないんだよなぁ。

 ただ、手を離した途端に掌返しされて燃やされてもヤダしなぁ。

 火傷しただけであんなに痛いのに、疼いて眠れないのに、それの何倍もヤベェのはヤバい。俺の語彙力もヤバい。


「わかってる、わぁってるよ、離すからちょっと待ってろ…」


 理屈はわかってる。あとこの主人公青年は誠実で一度口にしたことをそうそう曲げるような不義理をそうそう行わないということも理解している。

 自分に嘘をつくことが得意ではない、ウソをついた後に自分の胃とかが暴れちゃうような損な人間だということはこのたかだか数時間でわかっていた。

 ただ、俺と言う猜疑心に肉付けをしたような人間の事はソレ以上にわかっている。

 善意で武装したヤツが一番苦手です。無い裏とかを勘ぐってしまう。


「もう無理矢理引っ張って離しますよ?」


 うーうー唸って進展が見込めない事に業を煮やし主人公青年はバチバチクソ幼女の腕を掴んで引っ張った。

 そうなると一瞬で俺がうーうー言っていたのはなんだったのかというくらいあっさりと物事が進む。


「はぁ…」


 なんで幼女を引っ張るだけでこんなに気疲れしなくてはいけないのか、そんなのが伝わるような主人公青年のため息が空に飛んでいく。

 ようやく事態が進んだ。

 情けない話だが、俺にとってはこんな感じで無理矢理話しが進んでいく方が楽でいい。逆らう余地がないくらいに圧倒的に流されていくほうが楽でいい。


「幼女引き取ったらさっさとどことなり行けよ、振り返らずに大地踏みしめて行っちまえ」


 こうなるともう俺がやることは明白で、なるべく早急にここを離れるかこの二人をここから離すかだが、俺はもう動けないのでこの二人をここから去らせるしかない。

 だから立場的に下の癖にこんな横柄な言葉も出てくる。がんばって絞り出しもする。


「はぁ。じゃあまた会わない事を願いますよ」


 主人公青年がまたため息をついた。

 ため息をつき慣れている。きっと彼の胃はいっつもムカムカしているのだろう、ご愁傷様。


「ああ、そうだな。ってあぁ!」


 ふと、なんでこんな所まで戻ってきたのかのを思い出した。


「なんですか? まだなにかあるんですか?」


 俺の奇声に驚いて主人公青年がもう勘弁してくれって顔をした。

 いや、俺だってさっさとこんなことを終わらせたのだ。


「俺のライター返せよ!」


 そうだった。こんなことになった元凶、こんな所で落っこちやがったライターをせめて回収しないと、こんなに疲れてなんにも報いがないなんて悲しすぎる。

 なんでこんな厄介な所で落ちやがったんだライター、お前のせいで俺達は今こんなに苦労している‥‥‥落としたのは俺か?

 じゃあ、今回の元凶って‥‥‥。いや、やめようこれ以上考えると泣きたくなる。


「ライター、ああ火を起こすやつですか? そう言えばこの娘が拾ったって言って弄って遊んでましたね」


 そう言って、主人公青年はノータイムでバチバチクソ幼女の服の中に手を滑らしてもぞもぞとライターを探し始めた。


「えぇ、そんな簡単に女の子の服の中に手を突っ込んであんなコトやそんなコトできちゃう系男子なの? 引くわー」


 もしかしたら異世界的倫理観だったら、これくらい普通なのだろうか?

 いつまでも日本的倫理観を捨てきれない俺がこの世界的にはズレているのだろうか?


「あっ! いや、これはっ。違うんです!」


 俺のツッコみを聞いて、主人公青年の手がピタリと止まった。あとすっごい赤面した。

 俺の倫理感が異世界的倫理と合致していたようだ。よかった。


「違うんです。緊急事態ですから、これは仕方ないんです」


 なにが違うというのか。めっちゃ早口でまくしたてる。もう焦りしか感じない。


「もうわかったから、さっさとライター返してくれよ」


 なんか弄りがいがあって、こんな事態でなければ小一時間ほど弄っていたいが、そうもいかない、バチバチクソ幼女が目覚めでもしたら自分のダメージなんて度外視で襲い掛かってきそうだ。


「はぁ、そうですね。あ、あったこれですね」


 バチバチクソ幼女の服の中をどう弄ったかはわからないが、ライターはあっさりと見つかって、人質の手を離すのを渋りに渋った俺とは違って、あっさりとライターをこっちに放ってきた。

 そうして俺の目の前のポトリと落ちるライター。おおようやく返ってきた。事態が事態なだけに大冒険した後のお宝ゲット感さえある。


「動けるようになった勝手に拾ってください」


 これでようやく、こんな危険人物共を引き留めている理由がすべてなくなった、はずだ。

 他になんか聞いとく事は‥‥‥ねぇか。

 主人公青年は炎だとか爆発の力を使って飛ぶのだろう。理屈はよくわからんけど。

 抱えたバチバチクソ幼女を落っことさないようにおんぶ紐みたいなもので背中に括り付けた。


「じゃあ、今度こそ行きますからね。もう他にないですか?」


 何度も引き留めるもんだから、先手を打って聞いてきた。


「もうねぇよ、その台風クソガキとこっちの爆弾弟が目を覚ます前に行ってくれ」


 それで、ようやく飛んでいく覚悟が決まったのか、主人公青年が掌を地面に向け、姿勢を低く取った。


「いいですか、次に自主的に妙な事しでかしたら殺しますからね?」


 きっと主人公青年だってものすごい徒労があるだろう。だけど薄く笑ってバチバチクソ幼女を背負って、ボンって爆発をうまいこと繰りながら飛んで行った。


「口だけは一応笑ってたな。目は笑ってなかったわ、はぁ、あ、ため息うつったわ」


これで本当にようやく一区切り、終わり。

 この異世界生活で一番しんどかった日がとりあえず片付いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ