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7-15 俺、ムキムキマッチョになってテンションがあがる。

「おい、それ俺に放り込め!」


 口径摂取が正しいのかわからないがとりあえず口を開けて、誰の或いは何かのかも知れない魂を俺に寄こせとがなる。

 生存の為にツバメとかのヒナがエサをねだるように必死に口を開いて、ピーチクパーチクとコドモトカゲニンゲンからの餌付けを待つ。ヒナとの明確な違いと言えば貰う側の俺がとにかくうるさく。図々しい事だろう。


「さっさと放り込め、もうじゃんじゃん放り込め! 全部あるったけ放り込め!!」


「わかった!」


 素直なコドモトカゲニンゲンは、片っ端からふわふわ浮いている産地の知れない魂を抱えては俺の口の放り込む。

 放り込まれた魂に噛んだ感触は無い。ならば当然、味もない。まずくはないが、ソレ以上にうまくはない。

 果たして、口の中に入ったがそれでも食道を経て胃の中に納まってくれるのだろうか?

 そもそもが元来俺には触れられなかった代物だ。

 弟の獣としての側面を一部継承した事で命を弄べるようになったコドモトカゲニンゲンに許された特殊能力だ。はたして一般以下ピーポーである俺に消化できるのだろうか?


「もぐもぐもぐもぐ!」


 しかし出来るできないはこの際置いておいて、それでもやるしかない。

 普段の食事だって、他の命を戴く行為だ。これだってそれと相違ないはずだ。

 ならば出来る、出来るはず。やれば出来る!

 自分を騙して鼓舞して誤魔化してひたすらに魂を噛み砕き、胃袋へ押し込むべく行為に勤しむ。だがこの魂とかいうやつはひたすら噛んでも感触はないし、呑みこんでも、唾以外のものを感じない。

 なんて歪なおままごとだ。


「もぐもぐもぐ。もっとがんがん放り込めッ!」


「うん!! ぜんぶたべて!!」


 コドモトカゲニンゲンが明らかに自身の身体よりも多い魂を抱えている。

 わんこそば。蒸気機関に石炭を放り込む。そんな形容が当てはまるようにひたすらに俺に魂を放り込む。

 誰かの、或いは何か、に内包された生命の情報をひたすらに摂取し続ける。


「―――――」

「‥‥‥何か言ったか?」


 ふと、どこからか声が聞こえた。なんて言っているかはわからない。


「いってないよ?」


 コドモトカゲニンゲンは俺に魂を放り込むのに夢中で無言だった。ならばこの声はなんなのか?

 その声がだんだんと大きくなっていく。

 そして、その声は単体ではないことに気付いた。更にその声は悲鳴だったり怒号だったり咆哮だったり、いずれにしても意味のない音の集合だということにも気付いた。

 更にその声は俺の頭の中で響いていることも気付いた。


「あがッ!」


 突然、体の奥から活力がマグマみたいに湧き出てくるのがわかった。萎んでいる風船にガンガン空気を送り込むように瞬で体積が増えていくのがわかる。

 ボゴンボゴンと身体の隅々まで暴力的なまでの活力が駆け巡っていく。


「痛ェえええええええええ!」


 俺の身体中に走っていたのは活力だけではなく、成長痛を何倍にも増幅したかのような、体の内側をいくつもの針で刺されるような痛みが稲妻のようにひたすらに駆け巡る。

 痛い、めっちゃ痛い。


「でも、生きてるッ!!」


 さっきまで全然動かなかった体が動く。

 手をついて、体重を預けて、ゆっくりと立ち上がる。

 痛みはやせ我慢するしかない。必死にごまかして鼓舞して。


「あがっ!!」


 さあ行こう! と歩き出そうとした途端、今度は頭の中の声が一気に声量を増した。

 せっかく立ち上がったのに、また蹲っていた。

 意味のない叫び。まるで暴音のオーケストラだ。指揮者が滅茶苦茶に指揮棒振って、皆が好きなように爆音を奏でている。

 発狂とかしたい。でも体が丈夫になったせいかそれも出来ない。


―――あっちこっちからだれかもわからないこえがぼうふうみたいにきこえてくるんだ。


 いつかのコドモトカゲニンゲンの言を思い出した。

 ああ、これがずっと続くのか、確かにこれから逃れる為に死ぬのは選択肢の一つとしてはあり得るかもしれないな。


「黙れ」


 床に頭突きした。


「黙れッ」


 もう一発。


「黙れッ!!!!」


 もう一発。額からなにか温いものが垂れたのを感じる。どうやら出血したようだ。

 死ぬか?

 いや、バカバカしい、せっかく生を拾ったのだ。絶対に死なない。

 相変わらず頭の中で声がずっと響いている、死にたくなるくらいにはうるさい。

 でも死なない、死んでやるもんか。

 身体の痛み。頭の中の声。ずっとは無視はできない。


「おい、ガキ。行くぞ、こんなトコさっさと突破すんだよ」


 だけど前に進むしかない。

 痛みの無視、というか代替行為。それはひたすらに走る。


「うん、いこう」


 一歩、行ける。進める。歩くなんてあまりにも当たり前の行為に思考を割くなんてことはしたことがなかったが、今ならばわかる。それはこんなにも尊い行為だ。

 だん、と一歩。

 だだん、と二歩。

 徐々に足の振りを早く、歩幅を大きく。


「行くぜぇ、うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ゴリラのドラミングよろしく、奇声をあげて胸を叩いて、鼓舞の意味で奇声をあげて走り出した。



 奇声をあげながら走る。走り続ける。

 つーか跳躍している。一歩が5メートルくらい。そのうちに物理法則を若干シカトし始めて壁に足をついて横やら上やら使って立体的に超人的に駆ける。

 正直気持ちいい。昂揚感がスゲエ。

 もう何でもできるような。悪役とかが力を得た途端にイキり出すのも理解できる。だってこんなにも気持ちいい!


「まって、はやい!」


 途中でついてこれなくなったトカゲコドモニンゲンが悲鳴をあげた。

 傍から見ればコドモトカゲニンゲンもヒトをぶっちぎった動きをしていたのだが、それ以上に俺の全挙動のほうが遥かに人間をブッチしていて大層キモいと思われる。


「よしっ。掴まれぃ」


 むんずとコドモトカゲニンゲンを掴んで肩車をした。


「そのままそこらじゅうに浮かんでる白いふわふわ全部俺に放り込めっ」

「わかった」


 俺がひたすらに走って、コドモトカゲニンゲンがどこかだれかの魂を燃料として俺に放り込む。役割を明確にして弟迷宮突破を目指す。


「はい、はいっ、はいっ!」


 リズムよくコドモトカゲニンゲンが魂を掴んでは俺の口に放り込む。


「もぐ、もぐっ、もぐっ!」


 それを俺もリズムよく嚥下する。わんこ魂である。

 

 すげえ早い、もう景色が目で追うのが難しいくらいの速度で流れている。

 時々、俺に放り込まれた他の魂に内包されている生への渇望やら死への恐怖やらが頭の中でがなり俺の脳をぶっ壊しにかかってくるが。


「ヴァアアアアアアアア!!!」


 頭痛をごまかす様にひたすらに怒号をあげる。もうこうなると俺も獣と言っても差し支えないのではないのだろうか?


「がおー!」


 俺の上に乗っかっているコドモトカゲニンゲンがマネして吼えている。なんとも迫力不足だが、なんか大人をマネする子供ってどうしてこんなに微笑ましいのだろうね?


「まがりかど!」


 遥か前方を指さしてコドモトカゲニンゲンが叫ぶ。

 500メートル先くらい、直角の曲がり角が見えた。


「‥‥‥あ」


 ふと、頭によぎったことがある。


「どうやってまがるの?」


 おんなじことを思ったらしく、コドモトカゲニンゲンが尋ねる。


「無理じゃね?」


 一瞬で500メートルという距離は溶けて、壁激突までもう100メートルもない。


 どうする?

 思考に割ける時間は無い。止まる手段は無い。当然曲がる手段もない。

 だったら。


「このまま突き破っちまおう!」


 ここが弟の腹の中だというのなら。肉壁をぶっ貫いて外に出る。

 どこかもわからない出口を探すよりも、一直線に掘り進む。

 パッと考えなしに口から出た言葉ではあるが、割と妙案ではなかろうか?


「うんっ、わかった!」


 そのまま、人間ロケットと化した俺とコドモトカゲニンゲンは肉壁に突っ込んだ。

 突き破る為に先行させる腕はドリルをイメージして表面積を出来るだけ小さくすぼめて、両腕を真っ直ぐに突き出して。

 肉壁に振れた瞬間。ぶちゅっってすごいキモい感触が指先に感じられたがもう止まれない。


「行っけえええええええええ!」

「いけええええええええええ!」


 俺とコドモトカゲニンゲンの叫びが響いて、肉壁を力づくで削岩?削肉?しながら突き進むのだった。


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