7-14 俺、活路を見いだす。
コドモトカゲニンゲンに担がれて進む。
担がれて休んでいる以上、体力を消耗するはずもないのに、時間経過と共に俺の体力というかライフというか命はがんがん無くなっていくのがわかる。
消化されかかっている。
進みながら周りを見るとわかる。
ここは本来生きているものがくるような所ではない。
ここにあるものはすべて死んでいるもの。咀嚼されて嚥下されて胃袋にぶち込まれたもの。消化待ちだ。
例外はたぶん。俺とコドモトカゲニンゲンだけ。
さらにいうならコドモトカゲニンゲンは弟の命で生かされている以上、乱暴にまとめてしまうのならば弟の備品的な扱いになると思う。
そうなると完全に部外者というか異物は俺だけとなる。肉親だしお兄様である、というのは残念ながら加味されないようだ。
他人を担ぎなれていないコドモトカゲニンゲンの俺キャリーとお世辞にもうまいものとは言えない。体格差もすごいしなぁ。段差があればダイレクトに俺に衝撃が伝わってくる。足はずっと引きずられたままだし。
それでも俺を落っことすことはしない。
危うくなると、うんしょ。と上体をゆすっては俺を担ぎなおす。
平坦な箇所だけかと思ったが色々な箇所があった。
どこまで続くんだよって思うような階段みたいな場所もあったし。心臓破りの坂って名前が付きそうなほどのくそ斜面があったりもした。
なんだか、トリックアートの中にいる気分だ。
そんで今、ひらすらに降っている。
どこまで行けばいいのだろうか。地獄とか?
ハハハ、と笑おうと思ったがもうそんな余裕がねぇ。もう俺に出来ることは意識が途切れないようにひたすらに無駄な思考を巡らせることくらいだ。
「あっ」
コドモトカゲニンゲンがなにかにつっかかって転んだ。
当然、担がれている俺は投げ出される。
一瞬の浮遊感のち肩から落っこちた衝撃で悟った、痛いにゃ痛いが今はそんな痛みすら生の実感になっている、そんな普段なら御免こうむりたい感傷すら愛おしい。
そのまま勾配に従ってごろごろと転がりだす。
もう自分でその勢いを止めることもできない。
「まって!」
後ろでコドモトカゲニンゲンの焦る声が聞こえる。
ごろごろごろごろ転がっていく。どこまで行けばいいのだろうか?
景色が円形に激しく流れていく。気持ち悪ぃ。
「まって、まって!」
相変わらず後ろから聞こえてくるコドモトカゲニンゲンの声。
なんだこれ? おむすびころりんかな?
「うヴぇ‥‥‥」
こんなにも転がり続けるからガラスの三半規管を持つ俺の胃袋とか横隔膜とかがえづきはじめた、吐きそう。
俺の口内から内容物が飛び出そうとアップを始めるのを傍に、どこにあるかも知らない名もわからない器官から、魂としか形容できないものが飛び出さんとこっちもスタンバリ始めるのを感じた。
内容物はもういい、吐いてもいい。しょうがない。この異世界で日常的に吐く生き方をしているし、ニンゲンの尊厳とかもう彼方に投げていい。でも魂、これだけはダメだ。絶対に離しちゃいけない。
これを手放したら俺は召される。弟の糧にされる。
どこのだれかもしれないヤツに殺されるよりは、搾取されるよりはいいか?
いや、よくねーよ。あぶねー。今諦めようとしてた。衰弱した体に魂が引っ張られているようだ。
忘れてはならないのは死にたくない、なんて生き物として当たり前の生存本能。
どれくらいか転がって、ようやく坂が終わったのか仰向きの形で停止することが出来た。
魂はなんとか死守したが、ゲロは吐いた。きったねえ。
吐瀉物の酸っぱい臭いを傍に感じながらなんとか死と戦っているが、その死という相手には根負けという概念はないし、相対する俺にはガンガンタイムリミットが迫っているし、ここからの逆転劇があるのならば誰か教えてほしい。
俺が生にしがみつけているのはまだかろうじて死への恐怖感があるから故だ。その想いも秒で瞬でガシガシ削り取られていく。
たぶん、目を瞑ったらよく眠れる。もう起きれねーけど
なんとかしなきゃいけないのに、何をしたらいいのか思慮を割くこともできない。
考えてしまうのはこんなくだらねー事だけ。
ようやくコドモトカゲニンゲンが追いついたようで視界の端っこに映った。
ひどく必死に走ったのだろう、呼吸がひどく歪だ。一生懸命でホント、今までの俺のコドモトカゲニンゲンに対する雑な扱いが悔やまれる。
もっと親身に接してやればよかった。
「‥‥‥かはっ」
短く咳き込む。
ふわりと、俺から白い魂じみたものが浮かび出た。
焦って手を伸ばすが、無情にもするりとすり抜けて宙へ上がっていく。
今、何かが、致命的に、終わったのを感じた。
もう目を閉じて、それで終い。
あ~あ。抵抗したけどダメだったわ。己の危機でも体に残されたパワーなんてものは無い。
身じろぎひとつできない。
「あ~あ、ダメだわこれ」
ヘヘヘと笑うのが精いっぱい。
「だめじゃない!」
そしてうっすら閉じようとした目に映ったのは、俺の魂をむずって摑まえたコドモトカゲニンゲンがーーー。
「もどって!!」
その白い塊を強引に開いた俺の口に叩きこむ瞬間だった。
拳を強引に口の中に押し込むのだ。そりゃあ、目も見開く。
「…お、おお!!」
だが、魂が俺の中に戻ったことでわずかに活力が戻ったのを感じる。
魂が戻ったから活力が回復した?
魂を喰ったから?
魂ならそこらかしこにいくらでも浮いている。
「コレを喰えばいいのか」
考えれば弟は誰かから奪い取った魂で無茶苦茶やっているのだから、それを俺も利用させいてもらえばいいのだ。簡単じゃん!
ゴールはまだ見えないが、走破する手段が見つかった気がする。
「おい!」
俺を心配そうに見つめるコドモトカゲニンゲンに。
「そのそこらへんにういてるやつ全部俺に押し込め!」
そう告げるのだった。




