7-13 コドモトカゲニンゲン、俺を担ぐ。
弟の胃の中に落っこちたと第三者に説明しずらい状況である。
他人に現状を説明するような場面がもしも訪れたとしてなんて説明するか? なんてくだらないことを考えている。それぐらいにひたすら歩くしかやることがない。
歩き始めたばかりの時は、起こるだろうハプニングに警戒してビクビクしていが、特に何もないままひたすらに歩き続ける。
出口だか入口だか方向もよくわからないので口か尻から出るべくコドモトカゲニンゲンとひたすらに歩いていた。
確信はないが恐らく1~2キロくらいは歩いたと思う。
「ぜぇ、ぜぇ、クソがぁ。景色‥‥‥変わんねえ」
思わず悪態を呟く。
出来の悪い悪夢みたいだ。変わらない景色と周りに浮いている木々だとか小動物だとか漂う魂じみた白い球体が悪夢めいた現状に拍車をかけている。
手を繋いだままのコドモトカゲニンゲンを見ると別に問題ないようだ、無言でひたすらに歩いていた。
時々こちらを案じる様に見上げ。無事を確認し、また歩き出す。
なんだい? お前は俺の保護者かい? とか思った。
「はぁ、疲れた」
1時間くらいは歩いただろうか?
疲労感がヤベェ。
いくらなんでもおかしい。自分にそんなに体力があるほうではなかったのは理解しているがそれにしてもこんなクソ異世界に来てから、それなりに歩くに歩いて実体験として自分の限界と言うヤツもそれなりに理解している、はずだ。
そんな実体験と照らし合わせてもこの疲労感は異常だった。
思わず膝をつく。ぽたりぽたりと玉のような汗が地面に落ちた。
「だいじょぶ?」
一方、俺の手のひらを握っているコドモトカゲニンゲンは元気だ。
俺を心配そうに見下ろしている。こうなると本当に保護者じみてきて幼女に心配される三十路おじさんはちょっと情けなくなってくる。
「大丈夫だよ、クソガキッと。うおッ!!」
いつまでもこんな所でうずくまっているわけにはいかない。俺は年上なのだ、お兄ちゃんなのだ。万全であることを示さなければコドモトカゲニンゲンが不安がる。
よっこらセックスと立ち上がろうとして、またズシャリと前のめりにすっ転んだ。
顎をしこたま打ち付けて目から星が出るような錯覚を覚える。
「ははは、手がすべっちゃった」
もう一回立ち上がろうとして、ピクリとも身体が動かなかった。
こんなん焦る。
今度は全力を出して身体に力を込めるが、芋虫みたいにちょっとだけ動くだけだった。
さっきまでのコドモトカゲニンゲンみたいだった。立場はさっきと逆だ。
さっきまで元気だったけど今は死に体の俺。さっきまで動けなかったけど今やピンピンしているコドモトカゲニンゲン。
コドモトカゲニンゲンのさっきまでの超回復を若いから、なんてのんきに考えていたが、その予想はきっと外れている。そういう次元の回復じゃない。
ようやくそこでコレのカラクリに思考を割くことになった。
たぶんコドモトカゲニンゲンは弟に突っ込まれた命を散財して半不死身なわけだが、恐らくこの弟の腹の中で直接他の命を押し込まれていると思われる。
これまでクソみたいに粗末に死んでは死なせてあげないなんて獣と化した弟の所業が脳内を駆け巡る。
たぶん、今回の回復はそういう類の物なのだろう。自分でたどり着いた結論ではあるがホントに意味がわからん。ニンゲンの進化を1人だけわけわからん方向へぶっちぎりやがって。
その仮説で当てはめると、俺のあり得ないほどの疲労感の正体は簡単だ。
弟の腹の中でゆっくりと命を吸収だか消化だかされている。何回か命を魂じみた白い球体として盗られそうになったことがあったが、いずれも未遂。俺の生への執着心がまだ勝っていた。
今回はヤバい。直接、弟の土俵で相手の無い長期戦を強いられている。
俺、お兄ちゃんなんだけど?
この異世界における唯一の肉親なんですけど!?
手心とか、お兄ちゃん補正とか一切ねえな。問答無用で消化しようとしていやがる。
こっから出たらとりあえず一発はたかせろ。
だから。ここを出るまででいいから。これからの人生で使う命を先取りしてもいいから。
「動けぇえぇえぇえぇぇぇぇぇえ」
自分の身体に喝をいれる。くっそ一切動かねえでやんの。
がんばれどもがんばれども身体が動かない。
「だいじょぶ?」
再度コドモトカゲニンゲンが問いかける。俺を庇護者みたいに見るんじゃねぇ。
「だいじょばねぇよ!!」
どうする? このまま無抵抗に消化されるなんてのは絶対に御免だ。
焦る。食虫植物に落っこちたハエの気分だ。
「はこぶよ」
コドモトカゲニンゲンが何かを決意したらしく、動かない俺の身体の下に潜り込んだ。
ハコブヨ? なにそれ呪文?
俺の身体が浮かんだ。すっげえこのハコブヨって魔法。
「ん?」
「ぐぐぐ‥‥‥」
呪文なわけなく、コドモトカゲニンゲンが俺を担いでいるだけだった。
ここで無数の命から得た力の為か、二倍くらいはあるであろう俺をかろうじて持ち上げる。
「いく」
あくまでも言葉は少なく、どういうわけか俺を見捨てて行くという選択肢はないようで俺をおぶって進む。
本来であれば体重的に重い俺を負ぶっていくのはキツイはずだが、表情からはそのキツさは感じられない。
さっきのバチバチクソ幼女との戦闘の時みたいにある程度リミッターを外せるのかもしれない。
背負られていながら苦言を呈して申し訳ないが俺の方が背が高いのでどうやっても俺の足を引きずって行くことになる。もうちょいうまく運べないものだろうか。
「ねえクソガキさん? もうちょいうまく運べないものかね? 足が引きずられて痛いんですが」
「あ、ごめんさい」
素直に謝るコドモトカゲニンゲン。なんだか素直すぎて俺が今までこのクソガキにした非道が思い出されて後ろめたくなる。
「まぁいいんだ。しょうがない。それよりも前に進もう。とりあえずあの浮いてる白い球体達について行こう」
「わかった」
俺は今までこのコドモトカゲニンゲンに対しては損得勘定のみで接してきたと思う。俺はそういう人間だ。改めようとは思っても結局変わらない。
変われないじゃなくて本質的に変わる気がない。魂に刻まれた生き方なのだろう。割とクズである。
このコドモトカゲニンゲンはどうなのだろう?
俺自身を案じているから見捨てないのだろうか? それとも俺を失った時の秋重を案じているから俺を見捨てないのだろうか?
たぶん後者だろうなぁ。俺そんなにコイツに良く接してこなかったしなぁ。
ただ、それでもこうやって俺を見捨てないコイツにそれなりに感じるものがあるのも事実だ。
これからはもうちょっと優しくしてやろう。
いつまで続くかわからないし、次があるかはわからないが、そんな感情が湧き出ていた。




