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7-10 弟、進化する。

「おいおい、好青年の仮面が剥がれてんぞ」


 主人公青年の羽交い絞めが痛い。各関節になんかうまく極まっているが、首にしっかりと極まっているヤツが一番ヤバい。

 意味のない虚勢しか吐けない。


「なんですかアレは?」


 主人公青年の言葉尻と首に込められる力が強くなっていく。


「あばばばばばば」


 こんなんしか出ない。

 いや、喋ることになんの抵抗もない。俺の知っていることならなんでも答えよう。だからお願い、離して。


「あばばばばばばば」


 ヤバいヤバい、意識が飛び立つ。どっかに飛び立つ。


「あっ」


 ようやく、俺がギリギリなのに気づき、解放する主人公青年。

 酸素を一生懸命取り込みながらべちゃりと地面に伏す俺。


「ぜはァ、ぜはァ。死ぬかと思った。あがっ!」


 ようやく解放されたと思ったら今度は上から踏みつけられるカタチで抑えつけられた。

 酸素的にはさっきよりだいぶ楽だ。


「次、答えをはぐらかしたら腕を折ります」


 踏みつけている足を俺の右腕に移した。

 あくまでも声は静かだがドスが効いている。恐らくマジなのだろう


「わかったわかった、言うから。腕は許してッ! 」


 まぁ、そんなこと言われたら秒で折れるよね普通。


「あのクソガキはたぶん半不死身なんだよ。そのまま殺し続ければいつか死ぬと思う」


「半不死身。歪な‥‥‥」


 主人公青年の率直な感想。俺もそれには同意だ。

 バチバチクソ幼女とコドモトカゲニンゲンは相も変わらず殺し合いを続けている。

 何度も何度も雷撃で貫かれそれでも尚も止まらない赤い眼の化け物。

 さっきまで大技連発だったバチバチクソ幼女もなるべく省エネ戦法に切り替えたようだ。

 最小限で数を殺す。

 コドモトカゲニンゲンの命のリミットを使い切るべく殺し続ける。


「命のリミットはあと何回ですか!?」


 踏まれている俺の腕にギリギリと圧がかかる。

 正直に言うと、わからん。だけど、それを言うと腕を折られそう。


「たぶんだけど、千回くらい?」


 あ、ヤベ。テキトー過ぎる? 折られるやもと踏まれている腕に力を込める。

 しかし、腕は折られる事は無く。

 

 主人公青年はある一点を見つめていた。表情は驚愕に固まっている。

 戦闘中であるはずのバチバチクソ幼女はある一点を見つめていた。表情は驚愕に固まっている。

 そしてこれまた戦闘中であるはずのコドモトカゲニンゲンもある一点を見つめていた。表情は安堵で固まっている。

 それで俺もそっちを見た。まぁそうだろうなと納得した。

 そこには、さきほどバチバチクソ幼女が確かに殺したはずの弟がゆっくりとこちらへ歩いてきていたのだった。



 弟がゆっくりとこちらへ歩いてくる。

 足取りは重く。首を左右にブランブラン振って、首が座っていらっしゃらないのかな?

 遠くからこっちへ向かってくるもんだからクッソ遅ぇ。

 俯いたまま、満身創痍気味でのそのそ歩いてくる。

 なぜだか脚が泥だらけで、こんこんと足元から泥が湧き出てきていた。もうその人外性を一切隠すことなくのそのそ歩いてくる。

 弟が通った跡にてらてら鈍く輝く泥がずぅっと続く。

 ナメクジが通った跡みたいだな、と弟が効いたら怒りそうな感想が浮かんだ。

 弟は低い唸り声を上げながらゆっくりと前傾姿勢になった。いや、まだ結構遠いんだけど、こっち来るの疲れちゃったのではなかろうか。

 そんな中途半端な位置で疲れるんならコソコソ隠れて不意打ちしろや。お前もコドモトカゲニンゲンと一緒で真面目か。

 一瞬で臨戦態勢を整えたバチバチクソ幼女が雷撃を放つ。本当に一瞬も隙がねーなこの幼女。

 瞬で雷撃が迫る。見てからの回避は不可能。

 あ、光った。と思ったら遅れて音が来る。

 それで凡人である俺はようやく攻撃が来たのがわかるのだ。

 不可避の一撃。先ほど弟の敗因はそれの不対処ゆえだろう。

 なにぶんこの異世界の戦闘では最強すぎて対策というものを一切強いられなかった弟と言う名の獣だ。大いに面食らったに違いない。

 舐めプは大概にしてほしいものである。


「ちっ」


 確かに雷撃は弟を捉えていた、らしい。けれどもバチバチクソ幼女がしたのは忌々しそうな舌打ち。

 なんでだろ? と弟を見ると‥‥‥。なんか変身してやがる。

 刺々しい黒い殻に覆われ昆虫を思わせるのに、流線型のフォルムと長い尻尾のせいでケモノにも見える。

 一言で締めるとするならば、大変キモい。

 恐らくではあるが、先ほどの戦闘を経てビーストオブ弟が学んだことは雷撃は避けられない、そして大層痛い。ならば痛くなくなるまで固くなればいい。そんな所かな?

 なんつーか。あの黒いキモい外殻はその結果の変身? 進化? まぁそんな印象だった。

 ここまであくまでゆっくりと前傾していった弟だったが、次の前進は一瞬。

 ボン、と地面を跳ね上げ。気が付くとバチバチクソ幼女が吹っ飛んでいた。

 吹き飛ばされて岩場に激突する。さっき弟がやられた意趣返しであるかのような構図。


「ヤムチャ毎回こんなん見せられてたのかぁ。大変だわぁ」


 俺の感想。実にマヌケである。

 そのままビーストオブ弟は一瞬でバチバチクソ幼女のもとへ跳んで行った。その様は形容するならば黒い弾丸だ。迷惑など鑑みず障害物なぞ知らぬと真っ直ぐに跳ぶ。その結果、直線状にあるいろんなものが壊れる。

 そしてそのままバチバチクソ幼女を掴んでゆっくりと上に持ち上げた。バチバチクソ幼女にはまだ衰えぬ闘志があるがそれも虚勢に見えてしまう。

 そのまま弟のされるがままではないバチバチクソ幼女がひたすらに発雷するが、効いてんだかやせ我慢してんだか、なんせあのフルフェイスへルムみたいな真っ黒外殻である。表情はわからない。


「やめろぉ!!」


 弟を劫火が包む。主人公青年だった。

 俺に構っている場合ではないと判断し、弟と対峙する。

 主人公青年の戦意に呼応するように勢いを増す剛炎。早く駆けさせろとひたすらに渦巻く。

 バチバチクソ幼女は雷に特化していたが、どうやら主人公青年は炎に特化しているようだ。

 なにそれ。今までの異世界生活において誰よりもファンタジーしてる。

 だけども弟はそっちには目もくれず、バチバチクソ幼女を思い切り地面に叩きつけた。

 衝撃音と紛れて聞こえるバチバチクソ幼女の悲鳴。

 いや、なんつーか。さっきまで確かにバチバチクソ幼女に対して怒りを抱いていたのは紛れもなく事実ではあるが、わからせてぇとか思っていたが、これで溜飲が下がったかというとそんなことはない。

 痛々しい悲鳴に心がきゅっとなった。

 思わずコドモトカゲニンゲンを回収して視界を覆う。


「がうっ」


 まだ、若干赤い目をギラギラさせたコドモトカゲニンゲンが噛みついてきた。

 ガチの噛みつきだ、ギザギザの歯が肉に食い込みかける。俺の肉が噛み千切られなかったのはきっと先ほどのバチバチクソ幼女との戦闘で消耗していたからだろう。


「痛ェよガキンチョ!」


 思わず、グーで思いっきり殴ってしまった。


「あれ、わたし?」


 それで元に戻った。


「テメエ!!」


 あっちはあっちでもうなりふり構わない主人公青年が剛炎を纏って弟に突っ込んでいく。

 こうなると俺とコドモトカゲニンゲンは置き去りである。


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