7-9 俺、なんでか煽る。
他人はどうだかしらないが、俺は怒涛の勢いとかに晒されるとちょっと前の事が割とどーでもよくなる派だ。
映画とかドラマを見ててもアレ?って思ったこともエンディングにはもうそんなことどーでもよくなっている。
しかし、今回は、今回ばかりはそれは許容できない
なぜ、こんなことになってしまったのか?
なぜ、こんな化け物に殺されなければいけないのか?
「なんでって?」
こんな事をしておいて、なんでそんなきょとんとした表情ができるのか?
「なんでだっけ?」
そしてとなりの主人公青年に尋ねる。
「今更だな‥‥‥だけどそうだね。言ってなかった。僕たちはアナタ達みたいな異世界人を監視するのが仕事なんですよ」
異世界人。この世界には本来いるはずのないイレギュラー。俺達の事だろう。
「正直、いつもは監視がメインで今回のような戦闘は本来しないはずなんですが…」
そう言ってばつが悪そうに隣のバチバチクソ幼女を見た。
「あたしはその異世界人ってのが大っ嫌いなんだよ! 全部死ねばいいっ!!」
そう吐き捨てる。ついでに血を含んだ唾を吐き捨てた。
その瞳にはギラギラだかグツグツだか、使命感だとかいう前向きとは到底思えないような敵意が滲んでいる。
なんだよ、その理由。くっっだらねぇ。
バチバチクソ幼女にもそうなってしまったなりのエピソードがあるのだろう。
ただ俺はそんなん知らんし。
俺にもようやく滲んできたのはきっと怒りだろう。
「ビビってんの?」
ふと俺が言った言葉。
なんでそんな言葉が出たかはわからない。ビビってんのはむしろ俺である。俺の声帯は俺の脳みそと仲が致命的に悪いに違いない
「異世界人に脅えてんのかって聞いてんだよ!」
もう俺の脳みそを介さずに勝手に喋らないでくれ俺の声帯ちゃん。などと嫌な汗はダラダラ流れるがどっかでは言ってやったぜ。とドヤ顔したがる俺がいるのも確かだった。
バチバチクソ幼女のこめかみに青筋が走っていく。
「あんだよ。図星かよ!」
俺の声帯はそれを確認してもう勝手に煽る煽る。
アフターケアなんてもう不可能でもうこうなればヤケクソである。
ちらっと横の主人公青年が見えた。
絶望的な戦力差でなんで煽るのか? 理解できないと呆れているであろうことが容易に想像できる顔をしている。
俺だってそんな顔をしたい。
でももう無理なのだ。賽を投げちゃったのだから。
湧いた怒りが勝手にやっちゃったのだ。
俺の命だけ大事に! が人生の抱負であるはずなのになぜこんな蛮行を行ってしまったのか?
弟とコドモトカゲニンゲンを想っての事だろうか?
違ぇーだろうなァ。そんな殊勝なニンゲン様じゃないし。
ズンッ。とバチバチクソ幼女が放電した。
空気に緊張感が張り詰める。
「……」
それにしてもこの幼女、無言である。
俺を見下す視線は殺意バリ増しのくせに、出荷目前の豚を見るように冷たい。
いや、出荷寸前の豚を見た事ねーけど。
これは死んだな。俺が。
実は俺には隠れた能力があって、まだ変身を二回くらい残している‥‥‥なんてことはない。
いつでも等身大で精一杯生きてます。
となると、俺が助かる為には俺以外の何かが必要不可欠だ。
主人公青年の助けはもう望み薄。
そうなると、コドモトカゲニンゲンの蘇りの隙に逃げ出すのがベターではなかろうか。
いや、俺にも微弱ながら湧いた怒りとかいう感情がある。
なんとか、隙見てぶん殴れないだろうか、と考えも巡らせるがバチバチクソ幼女とばっちり目が合ってしまっている。
あの目はどれだけ惨たらしく殺せばフラストレーションを晴らせるか考えを巡らせている顔だ。
だから、俺が感じている鬱憤を晴らす権利はお前にやろうコドモトカゲニンゲン。
もぞもぞとコドモトカゲニンゲンの死骸だったものが動く。
やはりあのくらいでは死ねなかったらしい。
ゆっくりと目を見開く。その目には‥‥‥瞳孔が真っ赤。
少なくとも今までのコドモトカゲニンゲンとは違う。
「――――ッッ!!!」
変な高音をどこかの器官から発しながらノーモーションで襲い掛かった。
バチバチクソ幼女は一瞬驚いた表情をしたが、それだけ。
また雷撃を発し。一瞬でコドモトカゲニンゲンを貫いた。
アホめ、なんで声出したし。無言で闇討ち上等だろ。
コドモトカゲニンゲンのアホクソ行動に呆れたが、それに呆気にとられて動けなかった自分のアホさ加減にも呆れた。
「なんだったんだよ…」
バチバチクソ幼女も呆れている。先ほどと同様に焦げた肉塊と化したコドモトカゲニンゲンを横目で流し見し。
「ガァァァァァァ!!!!」
一瞬で修復したコドモトカゲニンゲンを見て驚愕した。
パニックを起こすほどではない、だが想像から外れた物であったのは間違いない。
無言で再度、コドモトカゲニンゲンに雷撃を放ち黒焦げにする。が、一瞬で再生しまた襲い掛かられる。
なんども襲い掛かって、届かず雷撃を喰らってまた復活する。
そんないたちごっこ。
こうなると退くのがいいのだろうけど、プライドみたいなものがあるのだろう。バチバチクソ幼女は退かない。
満身創痍でそれでも目だけはギラギラと殺意に溢れて、雷撃を放ち続ける。
あ。この隙にとりあえず逃げなくては。
ここでようやく逃亡という手段を思い出した間抜けな俺はゆっくりと後退し始める。
あわよくば誰にも気づかれませんように。
「どこへ行こうとしてるんです?」
そんなに甘くは無かった。
あっさりと主人公青年につかまり。
「なんなんですか、アレは?」
羽交い絞めにされてしまうなさけないお兄ちゃんなのだった。




