7-8 コドモトカゲニンゲン、殺意に身を委ねる。
「もうさぁ、殺せよっおぇっ」
息も絶え絶えだった。あと嗚咽がとまらない。
「すいません」
あっちらこっちら連れまわされてようやく落ち着いた。
かなりの距離を連れ回されて、高所はムリだとようやくこの超人にも伝わったようで、とりあえず地面に足がつくというのが最低条件だと伝えることができた。
今俺達がいるのは小高い丘の上。
件の戦闘場面とがかなりの距離が離れているがそれでも戦闘音と衝撃は伝わってくる。
風切り音に混ざってあっちらこっちらで爆発音が響き渡っていた。
個人対個人と言うには戦闘範囲が広すぎる。
あいつら兵器かよ。
ああ、木から林になってそれからかなりの年月を経て森になったというのに、アイツらあっさり蹂躙しすぎだろ。
普段、自然に愛着があるわけではないが、それでも悠久の時を経てここまでの森になったというのに壊す時はこんなにあっさりと終わってしまう。
その無情には思わず呆れてしまう。
「そろそろ決着でしょうかね?」
主人公青年の言がきっかけのように、一段と大きく空気が震えた。
ビリビリと大気が震える
詳細は俺には見えない。遠いし。
それでも確かに決着が近いのは分かった。
砂嵐と雷エフェクトが定めたわけでもないのに中心に向かう。
恐らくそこが二人の化け物がぶつかる地点だ。
あんな威力がマトモにぶつかったらどれだけの被害が出るのか。
音が消えた。
その一瞬後。パンと、えらく味気ない音がした。
「ぶっっ!!」
更に一瞬後。衝撃が爆心地の中心から外へ殴りつけるように駆け抜けた。
もう目も開けてられない。
なんとかコドモトカゲニンゲンを離さないようにするのが精いっぱいだった。
ごろごろ転がって背中を巨木に打ち付けてなんとか止まった。
サンキュー大木。
うずくまることしかできない。早く止んでくれこのわけわからん衝撃。
「お疲れ様でした」
主人公青年が誰かに告げる。
誰かになんて確認するまでもない。
バチバチクソ幼女が相変わらず不機嫌そうにこっちに歩いてくるところだった。
「はァ、マジでしんどかった‥‥‥」
なんらかの意匠が施された衣服はボロボロで、片足引きずって、右腕が動かないみたいでぶらんぶらんしていて、見るからに満身創痍だった。
結構な大けがだ。なのに主人公青年の焦りは見受けられない。それこそ魔法とやらでなんとかするのかもしれない。
今なら勝てるか? とか一瞬思ったが、傍には主人公青年が控えている。無理だわ。
「あんだよテメエ」
バチバチクソ幼女と目があった。
身体は死に体だが、その眼力は相も変わらず射殺しそうなほど鋭いまま。
恥ずかしい話だが、年端もいかない幼女の眼力にビビッてしまっている。
「弟は‥‥‥弟はどうしたんだよ?」
なんとか絞りだせたのはこんな事。バカみたいなこと聞いてんなァ。自覚はある。
どうした?
ガチで殺し合っていて、かたっぽだけ帰ってきたのだ、結論なんて聞くまでもない。
普通ならば、だが。
「なんだそれ? そんなの聞く?」
呆れ顔でバチバチクソ幼女が告げる。
「殺したよ。手加減できるようなヤツじゃなかったから全力で。死体も残ってねぇと思うよ。残ってんのは汚っねぇ血だまりだけ」
たった一人の弟、血を分けた家族、その喪失である。発狂できたら家族として及第点なのだろう。
お兄ちゃん失格である。特に響くものはない。
なぜなら弟の死をこれっぽっちも信じていないからだ。
「ころした‥‥‥アキシゲ」
隣から聞こえた。
ふるふると震えながら呟いた言葉。
「アキシゲ‥‥‥しんだ」
決して頭の回転が速い娘ではない。それでも意味を噛み締める。
ついでにぎりりと奥歯を噛み砕かんくらいにうるさく歯を鳴らして。
「おまえが、ころしたッ!!」
殺意、というものを知覚したコドモトカゲニンゲンはそれに身を任せてバチバチクソ幼女へと襲い掛かる。
なんせ、バチバチクソ幼女も死に体である。幼いコドモトカゲニンゲンの強襲であるのならば主人公青年含め虚をつけるかもしれないし、ワンチャンあるか?
「おっそ、死ね」
ワンチャン。そんなんなかったわ。
あっさりと、それは至極あっさりと、空いたてのひらから発せられた紫電に貫かれて悲鳴を上げる暇もなくコドモトカゲニンゲンに直撃した。
さっき弟を吹っ飛ばした紫電とは違い、一瞬でコドモトカゲニンゲンを黒焦げにするほどの圧倒的な熱量をもった紫電。
一瞬後にはプスプスと煙があがり、かつてコドモトカゲニンゲンだった焦げた肉塊がバチバチクソ幼女に襲い掛かった勢いそのままに転がっていった。
どうみても瞬殺だった。オーバーキルだった
「あっ」
呆けた声が俺と主人公青年で重なる。
「ここまでする必要があったのか!?」
主人公青年がバチバチクソ幼女を糾弾する。
「このクソガキはあたしを殺すつもりで来たんだから殺されたってしょうがないだろ? それともお前はクソガキに殺されてあげなさい、なんて言うつもりかよ?」
「‥‥‥ぐ」
あっさりと論破されて黙り込んでしまう主人公青年。テメェもうちょいがんばれよ。
「さて、てめえは後を追わなくていいのか?」
俺に向き直り、衰えない殺意を向ける。
満身創痍の幼女に見下され、身体は全く動きやしねえ。
笑うしかないが、ビビッている。
だが、笑えない。変にアクションなんかしてこの幼女の気を損ねるとそれこそ殺される。
後なんて追いたいわけがない。死にたいわけがない。
大体なんで死ななくてはいけないのか?
俺達がなにをしたのか?
むしろ、こんな異世界に拉致された俺達は被害者ではないのか?
「ん?」
それでふと思った。
「なんで俺達、襲われてんの? ‥‥‥ですか?」
あまりにも怒涛の勢いだったのでのまれてしまっていた。
そもそもなんでグデグデ異世界生活モノから一転バトルモノにシフトしてしまったのか?
ジャンプとかにありがちなシフトチェンジに納得しかかっていた。
納得なんて断固してはいけなかったのだ。




