7-7 俺、コドモトカゲニンゲン、吐く。
「うおおおおおおおおおッ!!」
俺の悲鳴が森に響く。
只今上空何メートルかはわからなんが、ヒトが脚力で跳べる以上の高さを飛んでいた。
魔法とかいうこの世界のトンデモ怪奇現象。
俺は当然そんなん使えない。コドモトカゲニンゲンは素質とかはあるかもしれないが如何せん気絶中で落っことさないように必死に掴んでいる。
主人公青年の仕業だった。
避難するだかなんだか言うと突然俺の腕を掴んで。
「とびますよッ!」
とか一言だけ断りを入れてこっちの心の準備なんて露知らずいきなり高所にぶっ飛んだのだ。
そりゃあ悲鳴だってあげる。
喉から出たことのないようなメス声だってあげる。
引っ張られた腕がミチミチと悲鳴をあげる。
しょうがない、しょうがないのだ。
ゆるりゆるりと上昇が収まり体が下に落っこち始めた。
「おい!」
今しがた俺はこの主人公青年の魔法を飛行と称した。
「落っこちてるぞ!」
「ええ、飛行なく跳躍ですから」
だが実際は主人公青年が告げたように跳躍であって、つまりは落下するということだ。
すっげえ衝撃が体を通り抜けていく。俺の腕はしっかりと主人公青年が掴んでいるからたぶん大丈夫。
腕が千切れなければだけど。
気絶しているコドモトカゲニンゲンも俺が押さえている、まぁ大丈夫だろう。
うっかり離してしまわなければだけど。
「うおおおおおおおお、気持ち悪ぃぃ!!!」
問題はジェットコースターも裸足で逃げ出すほどの立体的な揺さぶりだ。
頭ががっくんがっくん揺さぶられるたびに何かが、具体的には昨日食った内容物が逆流してくる。
「降ろしてぇえええええええ!!」
そりゃあ悲鳴だってあげるアゲイン。
「すいません、もうちょっとでつくので我慢してください!」
つく? どこに? 地獄かよ?
ずん。と主人公青年が着地した。
俺にその衝撃はこなかった、うまいこと主人公青年が配慮してくれたのかもしれない。
ただ、頭蓋ががっくんと揺さぶられた。
「おぇえええええええええ」
内容物が出た。
びちゃびちゃと地面を汚す。
「もう一回行きますよ?」
主人公青年が膝を沈める。
「は? 吐くんだが? ってか吐いたが?」
「すいませんっ。我慢してください!」
瞬間。さっきの落下とは逆の方向へものっそい力がかかった。
「ヴぉえッ!!」
また吐いた。俺の内容物が宙に舞っている、きったねえ。
ふと掴んでいるコドモトカゲニンゲンがちらっと目線の端っこに映った。
「キメェ‥‥‥」
上下でたらめにあったらこっちら力が働くものだから気絶しているはずなのに閉じた瞳が開いてて、眼球だけ上向きに固まっている。
気絶していて自分の意志で瞳の開け閉めが出来ないためだろうか乾燥に対応する本能の為だろうめっちゃだばだば涙が流れている。
「そしてきったねえ」
気絶していたとしても食道にかかるGは容赦なくコドモトカゲニンゲンに襲い掛かったようで、むしろ気絶していたから我慢することもなく口端が吐瀉物で汚れていた。
つまり、気絶したまま吐いていた。
弟とバチバチクソ幼女の戦闘が凄惨な地獄であるならば、今この場もある意味きったねえ地獄であると言えた。
「ここでなら安全でしょうし、ある程度はあの戦いを観測できますよ」
そうしてようやく解放されたのは、やたらと高所の木の上だった。
ちょっとした風に体を押されて落っこちそうになる。
うっかり下を見て後悔した。落っこちたら死ぬ。
「いやっ。却下だっ!!」
主人公青年は当たり前みたいに不安定な足場に順応して立っている。
「そうですか? よく見えるのに」
見えるのに、じゃねーよ。
「落っこちるよッ、つーかこんなんじゃクソガキ落っことすよ!」
気絶中のコドモトカゲニンゲンを落っことさないように改めて強く掴む。
「わかりました。では移動しますよッ」
俺の却下を以外とすんなりと受け入れて俺の腕を掴んで。
「えッ!!」
俺の覚悟を待たぬまま、圧倒的な膂力で有無を言わさず引きずり回されるのだった。




