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7-4 異世界で一番の危機。

 弟が何か叫んでいる。

 それと映るのは弟の必死の形相。何にそんなに必死だろうというのだろうか?

 いつもの庇護対象であるコドモトカゲニンゲンは弟に引き寄せられているから安全だ。

 ―――あ、ヤベェのは俺か。

 刹那の思考。一瞬が無限にも引き延ばされた感覚。

 走馬灯かよ。

 眼前にはものすごい速度で俺に岩が迫っていた。こぶし位の岩だ。

 恐らく何者かによる投石と思われる。

 多分、当たり場所が悪ければ即死レベルの岩。

 恐怖は無い。ただただ呆気にとられるしかない。

 散々死にたくないって叫んでは来たが、あれはきっとまだどっかに余裕があるから恐怖を感じることができたのだ。

 死がこんなにも近いとそんなん感じない。すべてはひどく呆気く映るのだ。


「兄ちゃん。なに悟った表情してる? まだ生きてるんだよ。足掻いてくれ」


 などと高説垂れてみたが、俺は生を確信していた。

 っつーのも俺にはオンリーだかナンバーだかワンである弟が付いているのだ。

 死ぬわけねー。


「ふっ」


 まばたきよりも早く俺に迫る岩を粉砕する弟のさまになりすぎる姿に微笑しかでてこない。


「いや、ふっ。じゃないでしょ兄ちゃん。今確実に死にかけてたよ‥‥‥」


「まあこうして生きてるわけですが、さすおと」


「なに、そのさすおとって?」


「いや。さすが弟。の略。なんかのネットスラング?で見た」


 いつまでも話が進まない。


「ねえ、あのひとむししていいの?」


 コドモトカゲニンゲンも俺達の会話の内容は理解できずともそれがぶった切っていい会話かどうかはなんとなく雰囲気で理解していたようで、ちょこんと握った弟の裾を引っ張った。

 そこでようやく俺達はコドモトカゲニンゲンが指さした方を見た。

 

 女がいた。

 まず衣服は今までの村とかで見たようなくっそ雑な植物の繊維だとか動物の皮をちょっと加工しただけのものではなく、この異世界の最高峰の裁縫技術で繕ったであろう華美ではないが機能的に優れているもの。

 俺達が着ている大量生産の衣服とは違った、けど決して劣っているとは思えない衣服だった。つーか負けている感さえある。

 なんか宗教的な意味合いがありそうな複雑な刺繍とか文様とか施してあるし。

 容姿としては俺達のいた世界で言うところの北欧系というヤツだろうか?

 瞳の光彩は日本人離れして人形みたいだしあとなんか美辞麗句並べてもいいような整った容姿ではあるのだが俺のボキャブラリー不足もあるのでかえって嘘くさくなりそうなのでまぁ、将来は美人確定だなって感じ。

 あとそう将来は美人確定ってところからもわかるだろうが、女は若かった。幼い、に片足突っ込んでいるような歳であると思われる。

 あと目を引くのは風にたなびく位の長い髪だった。

 色は淡く輝く金色。先ほどの瞳の光彩と同様に人形じみていた。

 そしてその髪の半分は色素の抜けた灰色。その色があまりにも不自然で恐らく染めたとかではないと思われる。

 たぶん、筆舌に尽くし難いようなひどい目にあったのだ。パッと思いつくのは‥‥‥レイプとか?

 まぁ以上が眼前の村人Aとかで済ましてはいけないような女の第一印象だった。


「‥‥‥」


 そしてその女は不機嫌そうに腕を組んでこちらを睨んでいる。

 可憐といってもいいような整った顔ではあるのだが、眉間に深く皺が刻まれている。恐らくしかめっ面するのが好きなんだろうね。

 すっげえ無言で睨みつけてくる。

 いっそ射殺すレベルの眼光だ。

 まぁ先ほどの投石がこの女によるものなのは間違いがない以上。こちらに対する殺意はもう疑いようがない。


「これ、お前の?」


 ふと、幼女が懐から何かを取り出して聞いてきた。

 本来であれば鈴を転がすような可愛らしい声なのだろう。

 ただしかめっつら同様にひたすらに怒気を孕んだ響き。


「あ、それ俺のライター」


 探していたライターだった。


「拾ってくれたのか、サンキュー!」


 なんだ、もしかしてしかめっつらで無愛想なだけでいいヒトなのだろうか?


「‥‥‥そうか、お前のか」


「そうそう、落として困ってたんだよ。ありがとうな。返してくれ」


 あとはそれをこっちに放ってもらってそれで終わり。

 なにか謝礼が必要ならば俺達が持っている限りの物をくれてやるのも吝かではなかった。

 ただなにが気に食わないのか相変わらずしかめっ面でライターを放ってこない。

 なんだか変な間の時間が流れる。

 幼女がゆっくりともうかたっぽの手のひらをこちらに向ける。何をするつもりなのか?

 まさかあの不機嫌まんまな顔で「ハオ!」とか「ジャンボ!」とかインディアンみたいな気さくな挨拶でも始めるたら逆に面白いなぁなんてぼけ~っと眺めていた。

 瞬間、何気なく掲げた手のひら、余計な力など一切入っていないように見えた手のひらにバチバチと音がした。紫電が走ったのが見えた。


「あっや―――」


 あ、やっべぇ。と果たして俺が言おうとしたことが弟に伝わったのか?

 女が放った紫電は俺の言葉よりも早く弟を貫いていた。と思う。

 なにせ言葉よりも早いのだ、目視なんてできやしない。

 なぜ紫電は弟を貫いたと判断したのか。と聞かれれば弟が遥か後方に吹っ飛ばされていて岩場に叩きつけられていた、という結果があるからだ。

 しかも威力はそれで終わることはなく、弟が叩きつけられた岩場は崩壊して落石して弟が埋まってしまった。


「うっそだろ‥‥‥」


 もう絶句である。

 一瞬で弟が吹っ飛ばされた。反応は一切できなかった。

 最強戦力である弟が敵わない以上、俺とコドモトカゲニンゲンは絶対に敵わない。

 逃げるか?

 弟を置いて?

 いや、それは出来ない。

 お兄ちゃんだから、とかそんな殊勝な心がけだからではない。

 呑気に俺達を逃がしてくれはしないだろうし、女の放つ紫電に比べたら俺達の挙動はすべてが遅すぎる。

 と、なればどうする?


「なぁ、俺達は敵じゃない!」


 なれば、残された俺達弱者は口先三寸で切り抜けるしかない。

 命乞いとか土下座とか靴舐めアクションでなんとかするしかないのだ。


「なんで俺達を襲うんだ!? 俺達はただの旅人だっ。特段高価なものなんて持ってないし、それでも俺達を助けてくれるなら金品なんて、そんなライターなんて好きなだけくれてやるから!」


 だから命ばかりはと、必死に懇願する。

 ただ幼女は次弾を放つべくてのひらを掲げるのみだった。


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