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7-3 俺、お兄ちゃんだった事を思い出す。

 そうして、あんなに苦労して逃げたというのに、わりとすぐに戻ってきてしまった。

 色んなものがぐっちゃぐちゃに散らばる、人智を越えたなにかが暴れた跡のよう。


「兄ちゃんっ、ここなんでこんなに爆心地みたいになってんのさ!?」


 答。お前がやった。

 獣と化した弟の災害レベルの暴力がもたらした結果がこんなこの世の終わりみたいな光景で、無自覚にしてもそんな光景を作りだした本人の驚愕は俺から見ればどうにも滑稽に映る。


「山賊らがすっげえ魔法ぶっ放してくて避けんのマジ大変だったわ~、いやほんとマジで」


 咄嗟のウソとしては満点をあげてもいんじゃないだろうか。

 弟の心の平穏とやらを守る為、心の凪を保つ為、まぁ嘘つくよね。優しい嘘ってやつ?


「よくこんなの避けられたね‥‥‥地形とか変わってんじゃん!」


 珍しく、弟の目がキラキラしている。

 麗しい兄上様に尊敬の目を向けている。俺がお兄様できているなんていつぶりだろう? 


「まぁそれは、がんばったさ! 大事な二人を背負っていたからな!」


 気分が高揚する。

 なんていうか、うまく言えないが、久しぶりに報われた気がする。

 弟はスゲー。それは一目瞭然だが。それにしても心の弱さが時々露呈する場面が見受けられる。

 俺達の公序良俗、倫理観から外れたときに心がポッキリ逝く場面が散見されるきらいがある。

 その都度、バーサーカーと化して暴れるのだが、その事実を有耶無耶にしてきた。そんな努力が初めて評価された気がしたのだ。

 まぁ、これ努力って言っていいのか微妙なところであるが。


「すげーな兄ちゃん!」


 俺を見上げる弟は年相応で、そういやこいつまだ未成年だったわと思いださせるには充分だった。

 大人というものががただ歳を重ねただけの自分と地続きの存在であるという当たり前の事に気が付いていなかった時の俺と同じくらいの、年上、大人、先生、両親、それらの存在を必要以上に信用していたあの時の赤面必死な自分と同じくらいの年だったわ。

 そんなことを改めて気づかされた。

 そうだ、最近忘れられがちだが、俺は兄ちゃんなのだ。

 んで、コイツはいくらすごくっても弟なのだ。

 たまたま先に生まれただけの称号ではあるが、それでも確実に先には生まれたのだ。

 経験値もその分多いはずである。

 そうだ。俺はもうちょっと威厳をもたなければいけない。

 コイツの尊敬できる兄ちゃんとして。


「そんでそんで、どうやって、こんなスゲー魔法を躱しながら逃げたの?」


「そりゃあお前、色んな遮蔽物を巧みに利用してだな」


「マジかよ? 炸裂魔法ってどんなんだった? あんだけ地面が抉れてるんだからえげつない魔法だよね」


「お‥‥‥おお、すっごかったぞ、なんかピカッと光ったと思ったら爆音が響いてだなぁ」


「なんで、僕たちが起きていた時にそんな魔法使ってこなかったんだろうね?」


「そうさな‥‥‥きっと魔力消費が激しいんじゃないか? 眠った相手に確実に当てるつもりだったんじゃないかな」


「それならあの弓矢で事足りるんじゃないの? 山賊の目的は僕たちの衣服だったんでしょ? あんな強力な魔法が当たったらそれこそ服なんてビリビリになっちゃうと思うんだけど」


 あ、もうダメだ。目を逸らしちゃった。


「……ソウダネ、フシギダネ?」


 カッコいいお兄ちゃん宣言をしてはや数秒ではあるが、ヤベェもうボロが出そうである。

 このまま弟の質問を喰らい続けたらうっかり矛盾を言いそうで怖い。

 なんかうまいこと話をぶった切ってライター探しに戻らねばならない。

 極めて自然に、年上の威厳を失わないように。スマートに。

 ってどうやればいいんだよ?


「ねぇあれ、けむり?」


 そんな俺の心情なんぞ露も知らず、コドモトカゲニンゲンがあさってを見上げて指さす。

 だが俺にとっては渡りに船だった。

 せっかく空気も読めずに話題をぶった切ってくれたのだ。俺もそれに便乗することにする。


「煙だってよ、ほらあそこ‥‥‥ってなんだかたき火っぽくねぇか?」


 山火事のような散らばる煙じゃなくて、ゆっくりと縦に立ち上る煙。

 この世界にきてからしょっちゅうたき火しているからあの立ち上る煙には見覚えがある。

 あれは自然に発生した煙ではない。

 誰かが人為的に発生させたものである。

 弟もそれに気付いたのか。手早くコドモトカゲニンゲンを引き寄せ一気に警戒レベルを引き上げる。


「兄ちゃんもはやくこっちに来て!」


 いやぁ、そう言われても山賊は無力化できたと断言できる。

 なんてったって、ぶっ倒れた弟とコドモトカゲニンゲンをタラタラ背負って逃げる時も一切襲撃が無かったのだ。

 となればあの煙はどこのどなたさんがあげたものなのだろうか?

 あんだけ散らばっていた山賊の死体が見当たらないのも関係しているのか?

 野犬とかに食われただけかとおもっていた。


「なぁ弟よ、いったんここからトンズラこいて、しばらくしてアレがいなくなってからもっかいライター探ししねえか?」


 いや、たき火しているのがどこのどなたさんでもこの際いい。どーでもいい。

 要は敵なのか味方なのかそれに尽きる。

 そして、味方である確率は低い、もうそりゃあ宝くじ当たるよりも遥かに低い。

 挙句にこんな爆心地でのんきにたき火なんてしている輩なのだ。物好きか頭おかしいやつか確固たる使命を帯びたやつ、まあいずれにせ君子危うきに近寄らずだ。


「うん、そうだね僕もそれがいいと思うよ」


 弟も俺がでっち上げた回避不能の催眠魔法を警戒してか素直にうなずいた。


「よしそうと決まればゆっくりとアレに気付かれないようにバックれ―――」


「兄ちゃん危ないッッ!!」


 突如叫んだ弟の声に遮られて俺の言葉が最後まで発せられることはなかった。


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