7-2 一同、道を戻る。
俺が必死こいて二人を担いで進んできた軌跡を辿っていた。
辿れど辿れどライターは見つからない。
動線がこうもはっきり残っている以上、辿ればいずれは見つかるはずだ。
誰かに拾われてなければ、だけど。
目的物が見つからない以上、ちょっと焦りとか苛立ちが顔を出してくる。
弟はライターを落とした俺の過失を責めるつもりはないだろう。
ただ誰がそんな過失を気にするかと言うと他でもない俺だ。
先ほどまで頭が働いていなかったからかあまり気に留めなかったが、今なら思う。結構ヤバい状況なのではないだろうか?
「ねえ?」
ふと、服の裾を引っ張られた。
確認するまでもなくコドモトカゲニンゲンである。
「らいたーってあのひがでるちっちゃなはこ?」
思わず天を仰いだ。
「おとしたの?」
今更そこ?
え、なに? このクソガキさんはなんで今こんなことをしているのかわかっていないのか?
なんでもう今すぐ休みたい限界の身体にムチうってこんな苦行を強いられているのか理解していなのか?
「……はぁ」
ため息でワンクッション入れる。
いや、確かに目的をつげていないのはこちらの過失だ。
わかってる。わかってるさ。
ただ、必死こいてなにかしている横でその目的を理解できてないで見当違いの事をピーチクパーチク叫ばれる。
苛立ちに拍車をかけるには充分だろ?
「兄ちゃん」
急に弟が声をかけてきた。けっこうマジ顔である。
「イライラしたって、この子にあたったってライターは見つからないよ?」
ホントにこんな時はやたらと察しがいいのな。
「この子は兄ちゃんになんて言ったの?」
会話の中心に自分がいるとなんとなく察しているのかコドモトカゲニンゲンもこちらを見上げている。
「必死こいてライター探してるところでアホっ面でなに探してるの? って勝手に煽られたと思い込んで勝手にイラッとした」
頭ではわかっている。コドモトカゲニンゲンはヒトを煽るようなことを言うほど言語が達者ではないし、人心に聡いわけでもない。
ただ心に浮かんだ怒りを理屈ではないのだ。
それを吐き散らかすのは理知的は無いとわかっている。
「兄ちゃんだってわかっているでしょ? この子はそんな事しないよ」
そしてこの狭量な兄が理屈では、理屈だけは、理解している、ということをこの主人公である弟は理解している
「それよりもさ。この子が自主的に僕たちに興味を向けてくれた事を喜んだ方がよくない?」
物は捉えようだと、怒りと喜びなら後者のほうが良いと考え方をスライドさせてくる。
弟はコドモトカゲニンゲンをひたすらに撫でて言葉は通じないのにお礼を告げる。コドモトカゲニンゲンもちょっと迷惑そうだかそれでもまんざらでもなさそうである。
ついてくるだけの関係から、同じく旅をする関係へ。
こちらからいくらアプローチしても向こうに興味が無ければ不毛な一方通行でしかない。
最初はそれこそその不毛な一方通行とやらだっただろう。
けれども通じない言語でもひたすら語りかけ心を開いて。
そのうち向こうからも語りかけてくるようになる。
生肉の前で不甲斐なくアワワワ慌てる大人二人に手を貸してくれるようになる。
これはその第一歩である。だからそれを喜ぼう? と弟は俺に告げる。
なんちゅうポジティブシンキングなんだ。呆れるわ。
だけど弟とコドモトカゲニンゲンを見ていると確かにさっきまで噴きこぼれの鍋みたいに浮かんでいた怒りが霧散していた。
キチンと目的を伝えてそれに準じてもらう。
きっとこのクソガキとはもうそれが出来る…はずだ多分。
「そうだな、確かに俺はお前になんで来た道を戻っているかを伝えてなかったな」
そう言ってコドモトカゲニンゲンの前に立って目線を合わせて。
ライターという探し物の形状と機能や、探している理由と無くなった際のデメリットなどをできるだけ噛み砕いて伝えた。
コドモトカゲニンゲンは何度か了解の意味で頭を盾に振る。すべてを理解できるような天才ではないが最低限の目的も理解できないような馬鹿もない。そう感じる。
そして、ライター探しを再開した。
探す目が四つから六つになったのだ、それは速度もあがる。
見つかりはしないがそれでも先ほどよりもハイスピードで進む…いや戻るか。
「んで、結局ここまで戻ってきてしまったわけだ」
言葉にしたように、ライターは見つからず昨日の場所まで戻ってきてしまった。
結果だけ見れば、あんなに必死こいて二人を負ぶってきたというのに戻ってきてしまった。
俺の昨晩の行動に意味はあったのだろうか? と陰ながらにへこむ。
我が人生に無駄な事なんて何一つとして無かったかといえばそんなことはなく、むしろ他人から見れば無駄なことで凝り固まったモノではあるが、それでも無駄が好きだとかそんなことは一切ない。むしろ排除したいしそんなん。
だが、よかれと思ってやったことがどうにも空回り、或いは逆効果だったりすることは常で、ようは生き方が下手くそなのだ、きっと。




