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7 長くてダルくてしんどい1日の始まり。

 昨日のコドモトカゲニンゲンのドたまに矢が突き刺さり弟ブチ切れ羽虫を払うように賊を蹴散らした事件から一日。

 俺は二人をおぶっての移動疲れから岩場でぐったりしていた。

 脚がプルプル生まれたての小鹿みたいに震える。

 なんも考えずふと癖でポケットに手を突っ込んで気付いた。


「ライターが‥‥‥無ぇ」


 日本から持ってきたファイアースターターリーサルウエポンである俺愛用のライターが無い。


「えっ!!」


 弟が驚愕の表情でこちらを見た。

 いや、俺が野生動物に襲われて殺されそうになった時もそんな表情しなかったじゃん。

 え、なに? 弟の順位付けってもしかしてライター>麗しのお兄様なの?

 …いややめよう。これ以上掘り返すとお兄ちゃんなんか泣いちゃいそうだ


「落としたっぽい?」


 弟が俺の安否を案じるよりも深く鎮痛にライターの有無を尋ねてくる。


「そうみたいだ。たぶん、昨日の山賊に襲われた所からここに向かう途中のどっかだと思う」


 落し得る場面がそこ区間くらいしか思いつかない。

 弟とコドモトカゲニンゲンを必死におぶってぜぇぜぇ息吐きながら運搬したあの時なら、なにかを落としても気が付かない自信がある。


「ああ、昨日のいつの間にか兄ちゃん以外眠らされちゃったあそこかぁ」


 本当は弟が賊を全員ブチ殺したのだが、弟の本能が精神を全うに保つためかいつものようにそれらの場面をキレイサッパリ頭から抜きさっていた。

 コドモトカゲニンゲンにしてもあの時は脳天に矢が突き刺さって絶命していた以上なにも覚えていなかったようで。

 その二人の空白の時間を都合よくねつ造させてもらっている。

 スーパーカッコいい俺が、突如眠ってしまった二人を抱えてアメコミヒーローばりにあの場を脱出した。寝ちゃったのは恐らく魔法によるものである。魔法にかからなかった俺すげええええ、とかちょっと話は盛らせてもらっている。

 そうでもしないとお兄ちゃんの威厳が保てそうにないのだ。

 狭量ではない。だって二人を運んだのは事実だしぃ。ウソは言ってないしぃ。ちょっと盛っただけだしぃ。


「でもライター拾いに戻るとして、昨日の山賊がまた襲ってきたらどうしよう? 僕とこの子はその睡眠魔法だっけ? それに対抗できないみたいだし」


 弟の心配は至極当然のものだと思う。

 仮に、俺の盛った話が全部事実だとしたら、強制的に眠らされたらそれだけで詰みだ。金品を奪われるだけならともかく殺されでもしたらたまったもんじゃない。


「大丈夫だと思うぜ。まさか昨日逃げたヤツラがすぐに戻ってくるなんて思わないだろ?」


 だが、それらが杞憂に終わるのがわかっているから俺はこんな能天気な提案ができるのだ。


「そうかもね。それにライターは今後の旅でも必要なものだし、どっちにしても行くしかないか」


 そう結局そうするしかないのだ。

 ただ一つ問題がある。


「なぁ弟よ。俺の足を見てくれ、めっちゃプルプルしてるだろ。もう動けませんって悲鳴をあげてるだろ? もうちょい休んでからにしないか?」


「兄ちゃんの足が大変なのはわかったけど、ライターがないと今後も困るよ? 夜にどうやって火を起こすのさ? 手に入った食材をどうやって焼いたり煮たりするのさ? 誰かに拾われる前にライターを回収しなくちゃ」


 そうやって俺の体調と今後の異世界生活を天秤にかけて、朗らかにこちらに笑いかけながら。


「だから、行こう?」


 俺にとっての苦行を強いてくるのだ。

えー、少なくとも疲労困憊の今は行きたくねぇーなぁ。


「んで、行くとして弟よ、俺達はどっちへ向かえばいいんだい?」


 正直、弟とコドモトカゲニンゲンを必死こいて背負って来た為どこをどう歩いてきたかなんて覚えていなかったりするので抵抗の意味を込めてこんな事を言ってみる。


「いや、それは兄ちゃんしかわからんでしょ…」


「ふむふむ、なるほどなるほど、そうなるとアレだ。詰みだわこれアハハァ」


 多難すぎる前途に笑うしかない。


「あははぁ、じゃないでしょ兄ちゃん」


 まあ確かに笑っている場合ではない。

 ただ現在進行形で笑っている俺の膝が司令塔である俺の脳みそに必死に動きたくないでござると訴えている。

 司令塔としてもここはもう一晩くらい休憩したいところではある。

 なんかもーぜんっぜん頭働かない。

 それでもそんなスッカスカな頭で必死に考えるのはどうやって弟を言いくるめてもう一晩休憩するかというこれに尽きた。


「なんかぁ~あと一晩くらい休んだら~、いー考えとか~浮かぶかも~?」


 チラっと弟を窺うと、あと一押しで行ける。そんな微妙な表情をしていた。

 さて、なんて言おう? なんて言えば弟は納得する?


「ねえ?」


 巡らない頭で必死こいて思考を走らせているとふと、コドモトカゲニンゲンが弟のすそを引っ張っていた。


「どうしたの?」


言葉が通じやしないのにそれでも弟が語りかける。


「…これ」


コドモトカゲニンゲンもコドモトカゲニンゲンで言葉が通じないというのに弟を見上げて言語で意志を伝えて、足元を指さした。

 そこには何かを擦った跡がずぅっと続いている。

 さぁっと俺の頭から血の気が引いた。

 と、いうのも彼方からずぅっと続く地面を擦った跡の解がわかったからだ。


「これって、もしかして兄ちゃんが通った跡じゃない? これを辿ればいけるんじゃない?」


 弟がこういった解を導くことが容易に予想できたからだ。

 こうなると、もう俺にはコイツ等を抑える手段が思いつかない。


「あ、はい、そーですね。俺がお前らを必死こいて引きずってきた跡ですね。これを辿ればあの現場へ着けますね。はぁ」


「よし、じゃあ行こうか」


 弟はコドモトカゲニンゲンの手を握って歩き出す。

 こうなるともうついていくしかない俺も歩き出すしかない。

 こんな感じで俺の残った体力を考慮されずに昨晩の地獄へ再び向かうことになってしまったわけである。


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