6-3 俺、自分の価値を考える。
そのうち弟から発生した振動と眼前の襲撃者の振動が完全に一致したようで口から命としか形容できない光る風船がふわ~っと排出された。
魂を放出した口は半開きで、感傷か生理現象かはわからないが涙を一筋流したまま事切れた。くっそあっけないものである。
強奪者。褒められた人種では決してなかったがそれでも奴らにも奴らなりの家族というカタチがあったのだろう。あ~くっだらない。
「あ~~、命ってキレイだな~」
弟に向かって流れていく命がテレビで見た灯篭流しみたいとてもきれい。
なんかそんなクソみたいな感想しか出てこない。
まぁ、ただ今回のことでわかったこともある。
弟はコドモトカゲニンゲンが害されるとブチ切れる。
あと意外と大切なお兄様である俺がそばにいても遠慮なく大技ぶっ放す。巻き込まれて俺が死んだらどうすんだ?
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
弟の獣のような咆哮が響く。
いくつかの命を押し込まれたコドモトカゲニンゲンが薄く発光していた。そしてそんな発光しているコドモトカゲニンゲンをしっかりと抱きしめる。
もう離さないように、ぎゅっとしっかりと。
まるで天地創造の絵画のようだ、描かれたものは命の冒涜でしかないのに、なぜかそれからは清らかな物を感じてしまうような。
相反する要素をなぜか善行として強制的に深層に叩きつけてくる何かがある。
芸術なんてさっぱりの俺にそれを抱かせるような何かがある。
そんで、そんなぼーとく的なふーけいを見ていてふと思う浮かぶことがあった。
弟にとって俺の価値というのは一体どれくらいなのだろう?
こんな異世界に一緒に拉致られた以上、同じ心情を共有できる唯一無二の存在であることは間違いがない。
そして兄弟。これまた唯一無二の存在である。
唯一無二がダブっている。それぐらいかけがえのない存在ではないだろうか?
「けど、最近俺の扱い雑じゃね?」
そう、これに尽きるのだ。
なにかというとコドモトカゲニンゲンの介護につきっきりで、べったりで、庇護しまくりで‥‥‥。ん?
「‥‥‥ん、んん?」
あれ、もしかして俺、嫉妬してね?
嫉妬。俺のこの感情はもしかして嫉妬というものではねーだろうか?
最後にこんな感情を患ったのはいつだったか?
思い出そうとするけれど、ダメだ。かつてこういう感情に囚われたことがあうことは思い出せるのだが、それが明確にいつだったかは思い出せない。
案外最近だったかもしれないし、それこそ弟が生まれた時にありがちな両親を盗られたと思う子供の時かもしれない。
それにしてもこの嫉妬とかいう感情はもう三十路のおじさんが抱くモノとしてはいささかみっともないものであり、恥ずべきものであるのだが果たしてみっともないと蓋をしてそのまま放置してしまっていいものなのだろうか?
なにせ命の危機とかいう状況がわりと起こりえる異世界だ。
こんなことはまた起きる。それこそコドモトカゲニンゲンに限ったことでもなく弟はそれこそオンリーワンである麗しいお兄様を差し置いて無辜の民を救おうと献身を貫くだろう。
そのたびにこれを患い、俺はそれに蓋をし続けられるだろうか? いつか大事な場面でプッツンしてしまわないだろうか?
いっそさっさと闇堕ちとかしてしまったほうが心の健康上よいのではないか?
「―――バカか俺は‥‥‥」
いや、堕ちるような闇なんて大層なモンはねーな。つーかもう堕ちてんじゃねーかって思うことすらある。
今が瓶の底だ。
こんな異世界なんて大嫌いだし。
気に食わないヤツラ全員死ねとかいつも思ってるし。
最近は発作も減ったが、いっつも世話を焼かされ続けるコドモトカゲニンゲンには結構殺意を抱くし。
どんな局面でも暴力である程度は荒事も治められるくせにそれをギリギリまで渋る弟にも辟易してるし。
いつの間にか空が白んできた。
どうやら朝がきたらしい。
敵さんはおそらく全滅。仮に生き残りがいたとしてもこれで対していた弟がどれだけ化け物か理解できただろう、もう襲い掛かってくることもないと思われる。
不都合な真実なんてもう弟には伝わらないと思われる。
まわりには弟を中心に放射状になぎ倒された木々が散乱している。
あと、無残な死骸がいっぱい転がっている。
俺達がいた世界でいうところの正当防衛が成立しそうなくらいではあるが、弟はそれでもこんな惨劇を見たら心を痛めるだろう。
「しっかたねえな」
気絶しているうちに弟とコドモトカゲニンゲンをこんな場所からさっさと動かそう。
あと、襲撃者が突然いなくなった言い訳とかも考えよう。
ぼちぼちぶっ倒れている二人の方へ向かう。
コドモトカゲニンゲンはいくつかの命をぶっこまれてすやすやと眠っておるわ。
なんかイラッとしてムニムニと両頬を引っ張った。
弟といえば大技ぶっ放して、なんやかんやストレスをぶっ放してご満悦だったのか穏やかな寝顔しておるわ。
なんかイラッとしてゴツンと頭を小突いた。
まあ、今回はこれで勘弁したるわ。
「よっこら‥‥‥セックス!!」
寒い親父ギャグを叫びながら気合いを入れて、ふたりを背負ってずるずるとこんな惨劇を後にするのだった。
「あ~っ。マジで重っいなぁ~~クソがぁっ」




