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6 夜盗に襲われたはなし。

「あ~クッソ!!」


 頭を掻き毟り叫ぶ。

 コドモトカゲニンゲンの発作がナリを潜めて多少なりとも眠りが安定してきたというのにまた睡眠を妨害する輩が現れたのだ。

 恐らく夜盗のようなものだと思われる。

 とある夜に襲われ弟がそれはそれはキレイに撃退して、それで終わると思っていたのに、ヤツラは諦めなかった。

 執拗に襲い掛かってきたのだ。

 それこそ弟に正攻法では敵わないとわかるや否や搦め手でこちらに襲い掛かってくる。

 具体的にはこうして絶えずちょっかいをかけて睡眠を妨害してくるのだった。

 こっちから追いかければ逃げて一定距離を保ったまま嫌がらせてくる。

 夜な夜な狙ってんだかわからない矢がどこからか飛んでくる。

 不快な風切り音が不定期に鳴り響きその都度どこかに矢が突き立つという現実はどう贔屓目に見てもストレス以外の何者でもなく、もし万が一命中でもしたら、良くて怪我悪くて死亡である。

 そりゃあストレスも禁じ得ないというものだろう。

 飛び道具に対する対処法を一切もたない一般ピーポーである俺とコドモトカゲニンゲンは常に弟の陰に隠れるように行動せざるを得ない。

 もうちょい詳しく描写すると、コドモトカゲニンゲンは常に弟に片手で抱きしめられていて、俺は弟の後ろで服の端っこをちょこんと掴んでいる状況。

 かわいい女の子とかメインヒロインに服の端っこをちょこんとつまんでついてきてもらうという状況であれば思春期真っ盛りの弟のテンションもふつふつと上がろうものだろうが、いかんせんそれをやっているのが30すぎのおっさんというビジュアル的にもキッツイものがある。

 あと、俺も自分で自分が情けない。

 なんで俺は美少女じゃあないんだ、とか思ったりも‥‥‥しねえな別に。おっさんでいいや。


「はぁ‥‥‥」


 正直腑に落ちない。

 やつらには俺達が金持ちにでも映っているのだろうか?

 こんなにも時間をかけて、それに見合うリターンがあるとでも思っているのだろうか?

 たまたま俺達の最大戦力の弟は殺さない主義なだけで、それこそ弟の気分とかちょっと打ちどころが悪ければ最悪惨たらしく死ぬというのに、それだけの戦力差があるのはわかっているはずなのに、それでもこんなにも執拗にちょっかいをかけてくる。

 こうなるとやはりなにか目的があるのだろう、とは推測ができる。


「なぁ、アイツらの目的ってなんだろうな?」


 弟に尋ねると、どうやらこのくらいの睡眠不足は未だ戦力低下には至らないようでまだ余裕なのが見て取れた。

 つか、これくらいならコドモトカゲニンゲンの発作に悩まされた日々の寝不足の方がきつかったか?


「そうだねぇ、金目のモノなんじゃない?」


 軽口だがそれでも周囲の警戒は怠らずに答えた。

 正直、そんな警戒ずっとするくらいならさっさとこの盗賊らを皆殺しかもう襲い掛かれないように五体不満足にしてやればいいのに、さすがに相手方もこちらに姿をさらすような真似はせずにひたすらに嫌がらせに徹していた。


「金目のモンなんかねえぞ。異世界的に価値がありそうなのはこのオイルライターくらいじゃないか?」


 ライターで火を起こす。

 それだってこの世界特有のトンデモ技術である「魔法」とやらで代用出来得る。

 リターンには見合わないと思う。


「なぁ、お前はなにか金目のモノ、思いつかねーか?」


 最近なんとかコミュニケーションが取れるようになってきたコドモトカゲニンゲンにも尋ねる。


「ん‥‥‥そのふく、めずらしいとおもう」


 時間をかけて出て来た言葉それだけ、また弟に抱きしめられるまま服に顔をうずめて黙ってしまった。いや、ホントに愛想のないガキンチョとのコミュニケーションは難しい。

 ただ、服か。それは思いつかなかった。

 たしかに俺達がいた世界の縫製技術はこのファンタジー世界にしてみれば抜きん出た技術なのかもしれない。

 例え、俺達が着ているのが1000円くらいで買えるレベルのものであったとしてもだ。

 確かに服の線はありそうだなぁ。


「なぁ弟よ。あいつら皆殺しにするわけにはいかんのか?」


「それはちょっとヤダなぁ、そもそもこれだけコソコソされちゃあ見つけられないし」


 弟がどこまで本気かは計りかねるが、

 なんだろうね。強者からするとこんなのは児戯にも等しいのかね? 俺には文字通り死活問題なんだけど、正当防衛を主張してぶっ殺してやりたいくらいんなんだけど。

 ふむ、どうするか?

 どうすれば弟の倫理の琴線に触れないようにこんなクソ脅威を取り除けるというのだろか。

 そうこう無駄な会話をしている内にまた近くの木々に矢が何本か突き刺さった。


「なあ弟よ。わかってるとは思うが、最強強靭無敵のお前とは違って俺とクソガキは矢の刺さり箇所によっては当たり前にあっさりとコロリと死ぬからな」


 暗に殺される前に殺せと言ってみる。


「いや、僕だって死ぬよ!!」


 自分だって人間だよ? と必死に主張してきやがる。

 いや、論点はそこじゃねえよ。


「はぁ、いっそのこと適当な村とかに逃げ込んでみるか?」


 遮蔽物をたくさん増やして、巻き添えもたくさん増やして、なんだかんだで有耶無耶にしてしまうのもこの際、吝かではないというか、むしろ一向に構わんというか。


「いやぁ、それはダメでしょ」


 弟にはっきりと拒絶されてしまった。


「イヤだとか、ダメだとか、お前は否定ばっかりだな、お兄ちゃん悲しくなるぞ」


「兄ちゃんの意見が極端すぎるんだって。もうちょっと…こう…ないの? いい感じの折衷案とか?」


「ねえよっ! あとなんだよ、いい感じの折衷案って? ふわっとしすぎだろ!? お前は俺に期待しすぎだろ!? 出ねえよ、そんなん。クソみてえにプリプリナイスアイデアが出たら苦労しねえよ! こんな所で行き詰ってねえよ!」


「兄ちゃん年上だろ! 重ねてきた歳月ってもんがあるだろ! プリプリひねり出せよ! それに基づいてパーフェクトプランをひり出してよ!」


 まったく意味の無い口げんかだ。

 根っこの部分ではわかってる、やる必要性ゼロだ。

 なんも建設的な意見なんて出てこねえ。

 ただこうなるともうお互いに引けなくて不毛な言い争いを繰り返す。

 ああだ、こうだと俺が言えば。

 そうだ、あれだと弟が反論する。

 こうなるとこれの収束方法は俺達にもうわからない。

 治めるためには第三者の介入が不可欠だ。

 ひゅんひゅんと風切り音が聞こえてきた。


「危ない、兄ちゃん!!」


 弟が叫び、飛んできた都合10本ほどの矢を叩き落とす。

 理屈は分からんが弟によって空中で軌道を変えられた矢があさっての方向で木やら地面に突き刺さった。


「あ‥‥‥あっぶねえ、サンキューな」


「いや、いまのは危なかったね」


 ちょっと走馬灯じみたものが見えた。

 生とやらのありがたみを再確認させられ、なんとなく自分のてのひらを眺める。

 心臓は俺の心情に比例しせわしなく働いている。

 ほっ、とため息が出た。

 ふと、視界の隅に何かが映った。

 弟の懐近くに矢が一本刺さっていた。


「あっっ」「あっっ」


 俺と弟の呟きがかぶった。

 弟が大切に抱きしめていた、コドモトカゲニンゲンの額に矢が突き刺さっていた。

 舌をだらんと垂らして白目拭いて四肢には一切の力が籠っていなくて。

 そのうち弟の身体からずるりとこぼれてべちゃりと地面に落っこちた。

 どう贔屓目に見ても絶命である。あっちゃー。


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