4-2 コドモトカゲニンゲン、考える。
それにしても、最近思うのはコドモトカゲニンゲンのスタンスの変化である。
以前は自分よりも大きなニンゲンにただただビクビクするのみだったのに。加虐を恐れるばかりだったのに。
ただただ虚ろに地面を見つめるだけだったのに、いつのまにか弟を見上げる回数が増えた気がする。
目を合わせる回数が増えた気がする。
多少はコミュニケーションが取れるようになった気がする。
「なあガキんちょ」
ふと、俺とコドモトカゲニンゲンのコミュニケーションがどの程度とれるのかが気になって話しかけた。
「ん?」
訝しげにこちらを見上げるクソガキ。
信頼はされていないが、それでも敵ではないとわかっているような顔。
まあ正解だ。
とりあえず敵ではない。いつかのようにコイツを殺害するような輩とは違う。
ただ加虐しないかというとそれは微妙。
イラッとしたら殴るかもしれない。例えば発作で睡眠を著しく妨げられた時とか。
一応わかってはいるのだ。このクソガキだって好きで発作抱えているわけではないのだ。
ただ、あの甲高い叫び声はなんつーか、イラッと心に刺さるのだ。
それが一定以上刺さると優しい中年おじさんの仮面が剥がれてしまうのだ。
きっと俺は子供を持てるような人格者ではないのだろう。
まぁいいや。それよりも今はコドモトカゲニンゲンとのコミュニケーションだ。
「お前は、魔法とかつかえねーの?」
魔法。
恐らくこの世界のなんらかの法則を利用して行う俺達の世界でいうところの科学の代替品。
その異世界の法則とやらがわかれば俺達にももしかしたら魔法が使えるのかもしれない。
そんな期待を込めて問いを投げかける。
この世界のトンデモ法則を理解することはこの異世界で生き残る為にも必須事項だろう。
あと、俺もすっげえ魔法とかぶっ放してみてーってのが偽らざる俺の本心だったりする。
「‥‥‥」
コドモトカゲニンゲンは首をふるふると振った。
言葉少ないガキンチョの否定の意志表示だ。
喋れやぁ。ってちょっとイラッときた。
「じゃあ魔法ってなんなんだ?」
身のなるような答えが帰ってくる望みは薄いだろうが一応尋ねる。
「‥‥‥」
コドモトカゲニンゲンは考えているようだった。
「‥‥‥‥‥‥」
自分の手をじぃっと見つめて握ったり開いたりを繰り返す。
「うまく、いえない‥‥‥」
そしてようやく絞り出した答えはこんなんで、ちょっとイラッとした。
「兄ちゃん、怖い顔してるよ?」
俺の不機嫌顔から振るわれるであろう暴力を制止する弟。
相も変わらず俺の心でも読めるんだろうかと疑ってしまうような勘の良さだ。
それにしてもうまく言えないときたもんだ。
ただちょっと冷静になって考えてみればそんなもんかもしれない。
俺も科学をいますぐ説明しろと言われれても答えられないし。
「悪かったよ」
仕方なくコドモトカゲニンゲンに謝る。
俺が考える嫌な大人像に燦々と黒々と輝く、謝るべきときに謝らない大人にはなりたくなかった。
「‥‥‥ん」
そんな俺の懇親の謝罪に対するコドモトカゲニンゲンの返答はたったこれだけでちょっとイラッとした。
だが、俺は大人である。水に流そう。
「兄ちゃん!」
なのになんで弟よ。俺をそんな顔で見る? そんな顔してるか俺?
仕方なくコドモトカゲニンゲンの機嫌でも取ろうと頭を撫でようと手を伸ばした。
「‥‥‥‥‥‥」
無言で弟の後ろにトテトテ隠れやがった。
「くっっっそ、ガキ!」
もうなんかすべてにイラッとした。
「兄ちゃん!!」
フラストレーションの逃がし場所を見つけられないなんの実りもない午後のひと時が過ぎていく。




