3-9 俺、コドモトカゲニンゲンの性別で驚愕する。
入国金が足りないのはもう割れている。入国できないのはもうわかっている。
なにも告げずにこの場から去るのがいいのではないだろうか?
お金が足りなかったよ~アハハ。とかおちゃらけていつもの間抜けなお兄ちゃんでいればそれでいいのではないのだろうか?
「いや、すいません。記入したのは確かなんですが、どうやらお金が足りません。入国は諦めます」
そうと決まれた行動するべきことは決まっている。
財布を覗き込んで、お金が足りないよアピールして笑いながらこの場を去るだけ。ほらこんなにも簡単だ。
だというのに。
「ちょっと、そこのお方?」
俺達の後ろのヤツが俺の心情なんて察してくれずに話かけてくるのだ。
「なんスか?」
もう入国不可能という事実は動かないのだ。入国管理の人の目線も痛いからさっさとこんなところからはオサラバしたい。
「お金がご入り用とのことだったのでね。どうでしょう? お金であれば私が都合してさしあげましょうか?」
だそうだ。胡散臭さしかねぇ。
「なんでそんなに世話を焼きたがるんだよ?」
そんな隠そうとしない俺の不信感もなんのその、ソイツは語りだす。
「いや、もちろん慈善事業などではございませんよ。私は商人でしてね、あなた方が連れている奴隷を売っていただけないかと思いましてね」
なるほど、奴隷商人のようだ。
体に染み込んだ胡散臭さはそこから臭ってくるのか。
「私は、商人としてモノの価値はわかっているつもりです。そこの奴隷‥‥‥人のカタチをしているというのにリザードマンの面影もある。非常に珍しい」
そりゃあ、このコドモトカゲニンゲンの生い立ちに比類するようなものがそうポンポン出てくるはずもない。
なんつったって、虐待によって殺されたトカゲニンゲンの身体に無理矢理何十人ものニンゲンの命を突っ込んでできた、生物学上なんと評したらいいかわからないオンリーワンなのだ。
「体躯は貧弱で労働力として使えるかといえば微妙なところ。それから、顔つきも並といったところ。だが、リザードマンとニンゲンのハーフとしか思えないような外見はいい、とてもいい。実に珍しい!」
コドモトカゲニンゲンを値踏みして、商品的価値を告げる商人の目は輝いていた。
骨董品に傾倒する好事家の薀蓄みたいなものなのだろうが、なんせ評されているのは歪な生命とはいえ、間違いなく一個の命である。
それに狂気を感じずにはいられない。
「珍しい! ニンゲンとリザードマンが子を為すことなんてできないはずなのに、そんな不可能を体現している、実に珍しい!! 人間の突然変異なのかはたまたリザードマンの異端児なのかはわからないが本当に珍しい!! 発生は謎しかないが、それも一つの商品価値を釣り上げる要因となりえる!!! さらには幼い、という点も好事家達にしてみれば商品価値を高めるにはプラスとなりえる!!!!」
コドモトカゲニンゲンを視姦しながら商品価値について声高らかに宣言する。
視姦されている本人は明らかな嫌悪感をもって商人を見上げているが商人はそんな目線を意にも解さない。
声高らかに叫びながら、口角を釣り上げ、自分を指さしながら、なにか能書きをたれるどこの誰かもわからない自分よりも大きな大人の存在は小さなコドモトカゲニンゲンにしてみれば恐怖でしかないらしく、弟の後ろに隠れて服をギュッと握りしめてフルフルと震えるばかりだ。
俺だって超こえぇよ。なんなんだよこのおっさん。
商人のテンションは最高潮で唾を飛ばしながらコドモトカゲニンゲンという商品の価値を力説し続ける。
こうなると身振り手振りだけでもこの商人がどれだけおかしいのかは言葉なんぞ理解できなくともわかるようで弟も警戒モードだ。
「ところでっ!! 商品価値の査定としてお伺いしたいのですが!!!」
「はひっ?」
「この仔はまだ処女ですかな?」
しょじょ? なにそれ?
「処女? 誰が?」
思わず聞きかえてしてしまった。
なんてったって話の中心はコドモトカゲニンゲンなのだ。
いくらこの商人のテンションがおかしいとはいえ、話の方向をまったく関係ない方向へシフトはしないだろう。
そうなると処女かと尋ねられたのはコドモトカゲニンゲンであるのは間違いがなくて‥‥‥。
「え、このガキンチョ。女の子なの?」
思わず弟に聞いてしまったりなんかしたりして。




