3-7 俺、コミュニケーションがしんどい。
「はぁ‥‥‥」
思わずため息を吐く。
せっかくファンタジーっぽくなってきたと思ったらいきなり金の問題が立ち塞がったことに対する嫌悪感と―――。
「なぁ、おっちゃん。ちょっと聞きたいんだけどさ?」
俺達の一個前に並んでいる知らないおっちゃんに話しかけなければいけないというめんどくせー感が入り混じったため息だ。
幸いにして、俺たちの前に並んでいたおっちゃんはとっつきやすいおっちゃんだった。
結構な時間並ばされていて退屈を持て余していたというのもこっちにしてもれば追い風だったかもしれない。
まぁとにかく、それなりに情報を仕入れることができた。
少しずつ入国待ちの列が前へと進んでいく中、それなりの時間をかけてわかったことといえば。
俺の持っていた歪んだ硬貨は一応、この周辺で使用できるものであるということ。
それらの硬貨は、日本でいうところの1円玉とか100円玉とかそれくらいのクソ雑魚硬貨だということ。
そして入国に必要なのはやっぱり金であるということ。
んで、俺の手持ちの金では全然入国資金としては足りないという絶望的な事実だった。
「で、どうだったの兄ちゃん?」
この世界の言語がわからない弟が俺の得た情報を知りたがっている。
瞳はめっちゃキラキラしていて、やっと異世界ファンタジーじみた光景に心躍っているのがすごくよくわかる。俺も10分前まではそんな感じだったし。
「いいか、よく聞け弟よ」
察してくれ。とできるだけ声のトーンを落として絶望を演出するかのように話し始める。
「うんうん!!」
くっそ、全然うっきうきじゃねえか。微塵も俺の言いたいことを察してはくれねえじゃねえか。
「世の中で一番大事なことはなんだと思う?」
「うん?」
なぜ話がまったく関係ない方向へ脱線しているのか。
そこから俺の話す内容が意に沿えるようなものではないのを察してほしいのだが。
「さて、なんだと思う?」
「一番大事なもの? 愛とか勇気とか―――」
よりにもよってなんとも評しづらいものをあげてきたな弟よ。そんなんに価値なんてなんもねえよ。
これ以上聞いていると俺の心の汚れっぷりが露呈するだけので、弟の言を遮るようにこの世界の真理を叫ぶ。
「うっさい、金だよっ!!!」
まったく嘘偽りのないこの世の心理を世界の端っこで叫ぶ。
「えっ‥‥‥それって‥‥‥」
ここまで来て弟もようやく俺の言いたいことを察してくれようである。
「足りないの? 入国金? どれくらい?」
曇った表情でハウマッチ? と来たもんだ。
「日本円相当で5万円くらい。ちなみに今の所持金は600円くらい」
大人二名、子供一名。
遊園地にだって入れないほどの小銭でどうやったらいいというのだろうか?
絶望である。
さらに結構な時間を入国待ちの列に費やしてしまっているというのもなんとも絶望感を増す結果になっていた。
だが、決断しなければならない。
どこかで身を引かなければならないならそれはすっぱりと身を引かなければならない。中途半端が一番いけないのだ。
列に並んで無駄にした時間は確かに惜しいが、タイムイズマネーなんて御高説垂れれるほどタイトに生きちゃいないのだ。
むしろ、この異世界における旅になんら目的もないのだ。
時間なんぞ腐るほどある。
ならば失った時間を惜しむのは筋違いではないのか、むしろ得難い教訓を得たということで納得できないだろうか?
そうして前に進むことはできないだろうか?
そんなんで納得していただけますか、俺?




