3-5 コドモトカゲニンゲン、耐える。
口を横一文字に結んで歯を食いしばって。ついでに俺の腕を必死に掴んで。
口からは歯を食いしばるギリギリという音が聞こえてくる。
掴まれている俺の腕からはムリムリと指が肉に食い込んでいく感触がある。
いや、ホントマジすげー痛いんですけど‥‥‥。
次第にその腕の痛みに耐え切れなくなってきた。
「いや、いだいだいだいだいだいだ痛い!! いてえよっボケッ!」
その手を振り払わんと必死に振るが離れやしない。
恐らくはソレ以上の痛みと戦っているコドモトカゲニンゲンも必死にそれを掴む。
「フーッ!! フッーーーー!!」
荒い呼吸でとにかく怨嗟の声に耐えて耐えてとにかく耐えている。
ここまでくるとそれはもう闘争といっても差し支えない。
「いたっ いてぇっ 離せよッッ!!!」
このクソガキッ。一人で苦しめよ。俺を巻き込むんじゃねー。
締め上げる腕を離そうと俺も戦っている。
「でてって‥‥‥よぉっ!」
悶え苦しみそれでも必死に戦うコドモトカゲニンゲンは怨嗟の声をごまかそうと地面に頭を打ちつけて耐えていた。
そんな所業をしばらく続けて、ようやく声が収まったようで俺の腕に込められた力が緩んでコドモトカゲニンゲンから寝息が聞こえてきた。
時間にして‥‥‥30分くらいだろうか。
こうしてとうとうコドモトカゲニンゲンは耐え切ったのだ。
掴まれた俺の腕もつかまれた指の形に真っ青なあざが出来ていた。
怨嗟の声とやらは恐らく俺の腕に出来た痣よりも痛いものであると思われる。
こんなにちっこい体でこのクソガキは一人で耐え切ったのだ。
「すっげえな‥‥‥クソガキ」
思い返してみれば、最近コドモトカゲニンゲンの額に擦り傷が絶えないなぁとか思っていたのだがなるほど、こうして夜な夜な耐えていたのだ。
生意気にも必死で大人に甘えることもなく。
理由は明白である。
今回の発作に対し俺は弟を起こそうと手を伸ばした。
このコドモトカゲニンゲンはそれを大丈夫と止めたのだ。
一瞬だけ弟の方を見たのからも結果は明らか。
要は弟を気遣ったのだ。
言葉が通じない弟とコドモトカゲニンゲン。この二人にはもうコミュニケーションの手段として言葉はそれほど重要ではないのかもしれない。
まぁちょっとしたトラブルはあったがまた夜は静寂が戻ってきた。
ぱちりぱちりと薪が爆ぜる音だけ流れていく。
弟にこれは報告するべきか? と逡巡し、速攻でやめとくかと結論を出す。
くっそ必死なコドモトカゲニンゲンの目。
射殺すようなそんな目に圧されたのだ。
「そして、今夜も何事もないのでした。と、それでいいのかね」
にしても掴まれていた腕がいたい。
今度こうなったらクソガキの頭を小突いてやろうと心に決めた。




