2-8 現地民が加わったというはなし。
「時々発作のように呪詛が聞こえる、それはしばらく続いてそれは絶えずに心を蝕む。それがこの子が自殺する理由かぁ。どうしたらいいのかね兄ちゃん?」
「いや、それよりお兄ちゃんは呪詛とか蝕むとか真顔で言っちゃう弟にちょっと引いてます」
「え、言うでしょ? 呪詛とか魔法とか真紅の鋭撃とか世界樹の扉とか」
「言わねーよ。聞いたことねーよ。そんな厨二ワードの数々は!」
なんだよ。今どきの高校生はそんなワードを日常的に使うのか?
だったらおじさんはもうついていける気がしないぞ。
「大丈夫だよ兄ちゃん。ついてこれなくても世界は勝手に前に進んでいくんだから」
やめてくれ。そんなポエミーなセリフを惜しげもなくぶっこまないでいただきたい。あとナチュラルに心を読むのはやめていただきたい。
「それよりも今はこの子だよ。ホントにどうしたらいいだろうね?」
どうしてこの弟くんはノータイムでなんとかしちゃおうと考えるのか?
こんなのは些事だ、とるに足らない事だ。
それこそいっこいっこ真面目に対処していたら人生なんてあっという間に終わってしまうような、いわばやる必要のないことである。
確かにコドモトカゲニンゲンを蘇生させたのは無自覚ではあったが弟であるというのも事実である。
だけどそれらを加味したうえでも思う。
「ど~もしなくていいんじゃね、俺達には耳元でじゅ‥‥‥じゅそを延々がなられたことなんてないし、発作的に自虐に走る気持ちも理解できない。ただ生きているからしょうがなく生きようとするまっとうな人間だぜ?」
それこそ高齢化社会とか、年金問題とかよくわからね~し俺個人ではどうにもできないような出来事なんていくらでも転がっている。
今回のコレだってそうだ。
「でも、それじゃあ、どうすれば‥‥‥」
それでもまだ弟は納得していない。
眼前のコレはまだ救えるモノだと思い込んでいる。
まったく青臭くて吐き気を催すような唾棄すべき理想論だ。
ただ‥‥‥。
「焦んな。そんなすぐに答えなんて出ね~って。そんな時は考えるんだ」
困ったことに俺もそんな弟の青っちろい理想論というのが存外きらいではないのだ。自分でその青っちろい理想論とやらを体現しようとはまったく思わないが、目の前でそれをやられると弱いのだ。
このコドモトカゲニンゲンが生きようが死のうがそれは存外どうでもよいが、青臭い理想論というのは案外心に響くものなのだ。
「でも発作的に自殺とかしちゃうんだよ?」
発作的に自殺。完全に危ね~ヤツではあるが今の所の自殺パターンとしては衝動に任せて走り回り何か衝突して死亡したり、過呼吸だかで舌を噛んで死亡したりとこの二つしかない。いや、何パターンもあったらそれはそれでいやだが。
「要は今回みたいに押さえつければとりあえず死なれることはないだろ」
コドモトカゲニンゲンのメンタルをケアする術は今の所さっぱりおもいつかない。
一般人Aである俺は当然カウンセラーなんてスペシャル技能は持ち合わせてなどいない。
ただ死なれない為とするならば対策は前記の通り、動けないように抑えつければいいのだ。
ベットに縛り付けて動けないようにする、ドラマとかで見たことがあるが重度の精神疾患者に対するそれと同じである。
「‥‥‥それしかないか‥‥‥」
弟は実に無念そうだ。
結局は解決策ではなく妥協案しか思い浮かばないのだからしょうがないと言えばしょうがない。
まぁ、ぶっちゃけるともっと簡単な解決策として「この面倒でしかないコドモトカゲニンゲンのことは一切合切忘れてしまってどっかに捨ててくる」があるのだがそれは絶対に通らないだろう。
「言っとくが、コイツを押さえつけるのはお前の役目だからな」
俺だと最悪、跳ね飛ばされる。
いくらニンゲンに寄ったとは言え、コドモとは言え、もともとがトカゲニンゲンなのだ、生粋の戦闘種族の膂力を発揮されでもしたら俺は耐え切れない自信がある。
「わかったよ兄ちゃん。ところで縄とかあったっけ?」
「なわ? たしかどっかの村でもらったやつがあったと思ったな」
多分コドモトカゲニンゲンを縛り付けるのに使うのだろう。子供を縛るってなんか禁忌的な響きだ。主にポリス的な意味で。
カバンをごそごそ漁ると、いつかの報酬としてもらい受けた丈夫そうな縄が見つかった。
「ほい、縄」
弟はそれを受け取ると両端からひっぱり強度を確認し始めた。
「うん、これならすぐには切れない。よしっ!」
その縄を自分の腹に結んで、もうかたっぽをコドモトカゲニンゲンの腹に結んだのだった。
「これで暴れ出してもすぐに対処できる!」
あ、これアレだ。赤ん坊とかが勝手にどっかに行かないようにするアレだ。
ビジュアル的になんだろう。子持ち狼か?
「どう、兄ちゃん?」
いや、どうって聞かれても‥‥‥。
「まぁ、いいんじゃないか」
なにがどういいのか? 俺にもさっぱりわからないが、なんかそう答えてしまった。
弟がなんでそんなに張り切っているのかはわからないが
こんな感じでこの異世界放浪旅にも現地民が加わったのであった。
コドモトカゲニンゲンが加わる経緯はここでおしまいです。




