閑話「九龍」
中国のある地域のスラムに、一人の少年が生まれた。
母親も父親も不明。ただ路地裏に打ち捨てられていたところを、「教会」の当時部隊長、現トップである「鐵」と呼ばれる男に拾われた。
少年は教会で教育と彼等の仇敵であるらしい「吸血鬼」なるものの存在を教わり、自ら吸血鬼を撲滅させる意思を持つようにまでなった。
そして、彼が青年となった時、ある事件が起きる。
彼が所属する部隊の拠点がある街の隣町で、吸血鬼による大規模な襲撃が行われた。
情報機器などが行き渡っていない地域だった故、襲撃が世間に知らされることはなかったものの、被害が発覚するのが遅れ、その街は吸血鬼に占領された。
部隊全体が諦めの雰囲気の中、一人彼だけはその街を取り戻そうと息巻いていた。
しかし、隊長からの出動許可は最後まで降りなかったため、彼はその町を救うことができなかったハズだった。
彼は部隊の任務がない間に、単独で武具を持ち出して隣町へ襲撃を仕掛けに行った。
その後同隊員が物資の急な減少と彼が音信不通であることに気付き、全隊員が武装してその隣町まで向かった。
隊員達が町に着いた時、町は異様なほどの静寂に包まれていた。
彼は生きていた。
無数の吸血鬼の屍の上に座りながら、彼は使い終わったナイフの手入れをしていた。
彼は言った。
「殲滅は完了した。部隊に戻ろう」
この件により彼は部隊から降ろされ、教会で生きていくキャリアを終えた。
表向きは。
その後、彼は教会トップ、つまり教皇より中国で一番の実力と認められ、正式なコードネーム「九龍」が与えられた。更に、教会の最上位秘匿部隊への入隊が許可され、常に吸血鬼の命を奪い続けて来た。
最上位秘匿部隊、通称「暁」はある一体の吸血鬼を討伐するために創設された。
「吸血姫」スカーレット・サンセリテ
生前はフランスの貴族の娘だったと記録が残っているが、真偽は定かではない。
生前の情報は出生地以外のほとんどが不明、更に出生地も公式的な記録はすべて抹消されている。
更に異常なほど彼女の目撃情報は少なく、教会は捕捉することができなかった。
故に彼女に関する情報は謎が多く、教会も彼女の討伐に四世紀以上の時間を費やしてきたが、彼女は現在も健在である。
しかし、現教会トップの「鐵」が自身を中心として「暁」を結成する事で、初めて彼女の捕捉に成功した。
それから彼女の居場所は断続的ではあるが比較的安定して捕捉され、被害を抑えることに成功している。
また、一般人に対する吸血鬼の存在そのものを秘匿するため、記憶処理など被害に遭った人々へのアフターケアも体系化され、一般人の吸血鬼の実在という認識は薄れていった。
「主よ、この魂に憐れみを。」
主に祈りを捧げながら、私は眼前の吸血鬼の首をたたっ斬る。
「流石に、この地域での吸血鬼の出没頻度は低いようだな」
私は「暁」として楽な仕事を任せられることがなかったため、ここ数年の自分は、平和ボケしている気がしてならない。
「しかし、どうやらそう長続きはしないらしいな」
先の戦闘の最中に携帯端末に着信が入っていた。
「吸血鬼」が現在日本へ上陸した と
「ならばゆくしかあるまい」
ヤツとは何度も相対したことはあるが、どちらも技量を把握することしかできず、今度こそはと前々から思っていた。
「『九龍』の名に恥じぬ仕事をせんとな」
私は決意を固め、ヤツの上陸予定地へと向かった。




