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滝瀬さん家と四則演算  作者: 浅野エミイ


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3-1 滝瀬兄弟の日常~図書館にて~

 翡翠くんというか、滝瀬兄弟がモモンガー……。私は何かと色々ショックで茫然自失だ。翡翠くんのベッドの下に敷かれた布団に座ると、頭を抱える。


「そろそろ寝よう。電気消すよ?」


「あっ、うん」




 うなづくと、翡翠くんは部屋の電気を消す。私はタオルケットにくるまると、少しだけ緊張した。もし、翡翠くんに私が女だってバレたらーーきっとこうやって家で匿うなんてできなかったよね。はぁ、余計なことを考えないで、さっさと寝てしまおう。明日から夏休み。滝瀬兄弟は夏休みに遠出はしないって話だったけど、私はどうやって過ごそうか。




「翡翠くん、明日なんだけど」


「何。さっさと寝なよ」




 あっさりと返されたが、明日の予定のことだ。電気の消えた部屋で声だけが響いているような気がする。




「図書館に行かない? 夏休みの宿題もあるし」


「……考えとく」


「俺ひとりで行ってもいいけど」


「もー……キミ、僕たちが護衛するからって、調子乗ってない?」


「嫌ならいいけど」


「わかったってば。行くよ。だからもう寝て」


「うん、おやすみ」




 私は仰向けに寝転がって挨拶する。しばらく無言でいたら、寝息が聞こえてきた。翡翠くん、眠かったのか。私もさっさと寝てしまおう。クーラーの効いた部屋で、タオルケットを被った。




 翌朝ーー




「翡翠! 朝だよ~! 真珠もおはよう!」


「……ぅん、なんだよ」




 部屋ににぎやかなやつがノックもしないで入ってきた。鐘くんだ。眠い目を擦りながら布団から出る。翡翠くんはまだタオルケットを頭から被ったままだ。




「ーーおはよう、鐘くん。朝から元気だね」


「今日の朝ご飯はフレンチトーストだって」


「鐘、キミきちんと寝たの? 徹夜のテンションじゃん」


「バレたか」




 翡翠くんにツッコまれた鐘くんは、私が出た布団に倒れ込む。




「やっぱ夏休みは徹夜してゲームするっしょ?」


「まぁ……それも休みの過ごし方かもね」




 私が同意すると、翡翠くんは横になった鐘くんの頭を叩いた。




「あのね、僕たちが規則正しい生活しなかったら、正義の味方としての自警活動ができないでしょ?」


「それだったらオレ、昨日はサイバー空間の中で頑張ってたけど。夏の出会い厨に学生が被害に遭わないようにね。警察だってサイバー課がいるじゃん」




 なるほどね。ネット空間でも自治活動してるんだ。納得していたが、翡翠くんは怪訝な顔をする。


 しばらくごろごろしていた鐘くんだけど、やはり徹夜したのが原因だろう。若干眠そうだ。




「朝ご飯食べたら寝なよ。昼夜逆転したらよくない」


「うん。で? 翡翠たちは今日どうするの?」


「図書館に行こうって話をしてたんだけど」


「ふーん」




 私が今日のスケジュールを話すが、鐘くんはあまり興味なさそうだった。徹夜明けで眠いようだ。




「とりあえず、ハク兄のフレンチトースト食べよう。絶品だから」




 翡翠くんに言われて起き上がると、私たち3人はダイニングへ向かった。




「おはよう」




 ダイニングにはすでに3人のお兄さんたちが揃っていた。琥珀さんの作ったフレンチトーストは、バナナやブルーベリーなんかも乗っている。


 水晶さんがそれをテーブルに運んで、御影さんがアイスコーヒーを注ぐ。贅沢だ。




「ふたりは今日、どうするの?」


「はい、図書館に行こうかなって」




 琥珀さんに聞かれた私は、翡翠くんをチラリと見た。




「夏休みの宿題か。水晶と御影は学校の宿題あるの?」




 ふたりのお兄さんたちは、長男の質問に苦笑いする。




「大学の課題は大したことないから」




 水晶さんが言うと、御影さんもうなづいた。問題は鐘くんだ。中学校の宿題は量が多いはず。だけど鐘くんは素知らぬ顔でフレンチトーストを食べている。……まぁ、まだ夏休み初日だからね。




 おいしかった朝食を済ませるとさっと翡翠くんが部屋に居ない隙に着替える。カバンの中には夏休みの宿題のプリントだ。着替えが済むと、翡翠くんも部屋に入ってきた。




「そろそろ図書館が開く時間だな。ぼちぼち行くか」


「うん」




 準備が整うと、カバンを持つ。私と翡翠くんは、お兄さんたちに挨拶すると、家を出て図書館へ向かった。




 図書館は夏休みということもあり、開館時間前なのに多くの人が並んでいた。私と翡翠くんも入り口の列に加わる。




 9時になり、入り口が開く。私と翡翠くんも図書館へ踏み込む。




「あっ、例の本が入荷してるか見ていい?」


「コラッツ予想のか。うん」




 カウンターで訊ねると、いよいよ待ち望んでいたコラッツ予想の本が来たと告げられる。さっそく私は貸し出しの手続きをした。




 翡翠くんは2階のデスクに陣取り、宿題を始めていた。私も隣で借りたばかりのコラッツ予想の本を手にする。何気なく本を開くと、何かが挟まっていた。……何だろう?




 挟まっていたのはカードだった。『G』と書かれている。なんだ、これ。翡翠くんに目をやると、ちらっと私を見ている。




「なんだろ、これ」


「まぁ挟まっていたならそのままにしておいたら? 返却のときに一緒に返せばいいよ」


「そうだね」




 よくわからないカードだけど、もしかしたら誰かが栞代わりに挟んでそのままにしてしまったのかもしれない。私は手にしたカードを同じように挟んで、夏休みの宿題に手を付けた。




 図書館に来て2時間くらい経っただろうか。私は宿題が区切りのいいところだったので、翡翠くんのほうを向いた。




「そろそろお昼ご飯じゃない? 一旦帰る?」


「そうだね。11時か」




 翡翠くんはサイレントモードにしていたスマホを見る。




「ハク兄から、ケチャップ買ってきてって。今日はオムライスかな」




 琥珀さんの料理はおいしい。昨日のカレーも朝のフレンチトーストも。そしてお昼はオムライスなんて。本当に私、厄介になっている間餌付けされそう……。




「本当に滝瀬家にいたら太るかも……」


「量多いなら、ハク兄に言いなよ」


「それだけおいしいってことだよ」




 でも、結構な量を食べているけど、滝瀬家の面々はそんなに太っていないよね。翡翠くんなんて華奢に見えるくらいだし。




「翡翠くんは何で太らないの? 結構たくさん食べてるよね?」


「その分運動してるからね。モモンガーとか」


「あぁ」




 正義のヒーローも体力勝負なのか。言われてみたら確かに。


 翡翠くんと小声で話していたが、新聞を読んでいたおじさんに咳払いされて図書館を出る。




 私たちは、ケチャップを買うために、駅前のスーパーへ立ち寄った。 

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