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滝瀬さん家と四則演算  作者: 浅野エミイ


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2-4 モモンガーの正体

「洗濯物どうする? 自分でやるなら向かいにコインランドリーがあるけど……」


「じゃ、自分で洗います」




 琥珀さんの厚意に甘えすぎてはいけない。というか、さらしなどの洗濯物から女だってバレてしまうかもしれない。コインランドリーがあるならそちらを使ったほうが賢明だろう。


 風呂場に案内されて浴室に入ると、鍵を閉めてから着替えのTシャツとジャージをかごに置いた。下着はボクサーパンツで、新しいさらしもある。




 鍵を再度確認。よし。


 私は服と下着を脱ぐと、洗濯用ネットに入れた。今日も汗をかいたから、シャワーや風呂の存在はありがたい。体を軽く洗うと、夏なのに熱めの湯船に浸かる。




「はぁ……気持ちいい」




 思わず声が漏れる。滝瀬兄弟の家に転がり込んだが、果たして明日からどうしようか。食事も、泊まるところも、完全にお世話になりっぱなしだ。ありがたいことだけど、気が引ける。琥珀さんはカフェの手伝いをしてくれればいいとおっしゃっていたが。


 どうしたものかと悩んでいたら、浴室のドアをノックする音が聞こえた。




「真珠、聞こえるか?」




 翡翠くんだ。驚いた私は、肩まで湯船に浸かる。どうしよう、裸だ。浴室まで入ってこないよな!? 鍵も閉めたし。




「何!?」


「ハク兄が、湯加減どうだって」


「……ちょうどいいよ!」


「そう。わかった」




 翡翠くんはそれだけ確認すると、風呂場の前から立ち去ったようだった。


 ……心臓に悪すぎるわ。ふうとため息がこぼれた。どきどきしたし、これ以上お風呂に長く入っていてもまた誰かに声をかけられるかもしれないので、ひとまず上がることにする。ざっとバスタオルで体を拭うと、また新しいさらしを巻いてから着替える。




「出ましたー。一番風呂、ありがとうございました」




 リビングにいた琥珀さんたちに声をかけると、窓から向かい側を指さした。




「真珠くん、コインランドリーがあそこね。まだ日も高いし、洗ってきたらどう? 乾燥機もあるし」


「そうですね。ちょっと行ってきます」




 私は洗濯用ネットに入れた汚れ物と、財布を持つと、向かいのコインランドリーへと向かった。




 コインランドリーにお金を入れて洗濯する。私は待っている間、置かれていた週刊誌を読む。パラパラとページをめくるが、特段面白くはない。


 洗濯物を回していたら、翡翠くんが現れた。




「ん? 翡翠くんも洗濯物? 家に洗濯機あるじゃん」


「乾燥機使ってるだけだよ」




 そう言うと、動いていた乾燥機が止まった。できあがった洗濯物をそそくさと取り出す翡翠くん。ランドリーバッグに入れると、翡翠くんは軽く手をあげた。




「じゃ、僕できたから。洗濯終わったら家のインターフォン鳴らして」


「ん。わかった」




 それだけ告げると、コインランドリーから出て行く。だけど乾燥機の中に、まだ何か残っているようだ。翡翠くんの忘れ物だろう。


 洗濯物を取り出すと、私は固まった。




「……何これ」




 見覚えのある、グリーンのマント。今翡翠くんが洗濯物を取り出したマシンに入っていた。これって……モモンガーの、だよね!?


 


「どうしよう……って、持っていかないと、だよな」




 モモンガーのマントと言うことは、翡翠くんがモモンガーってこと……だよね。私の前ではしらばっくれてたのに。翡翠くんがモモンガーグリーンだとするなら、滝瀬5兄弟がモモンガー? 全員知らん顔してたくせに!




 洗濯物が終わるのを待ち、できあがると私はモモンガーグリーンの忘れ物、マントを持って、マンションへと戻った。




 インターフォンを鳴らすと、翡翠くんが鍵を開けてくれた。




「おかえり」


「……翡翠くん、忘れ物。話があるんだけど」


「げ」




 翡翠くんは私の手にあるマントに目をやると、それを奪った。




「これは……あの、まぁ、話は長くなる」




 ともかく部屋に入ると、滝瀬兄弟全員がリビングに集まる。翡翠くんがソファの真ん中に座った。




「……翡翠。ヘマッたな」




 御影さんがクールに言うと、翡翠くんが頭を抱えた。それを見ていた水晶さんは、へらへらと笑う。




「あー、バレちゃったの? まだ初日じゃん。なーにしてるんだか」


「翡翠、どう説明すんのさ」




鐘くんが冷めた視線を送ると、翡翠くんは頭を上げた。




「……真珠。僕たちがモモンガーだ」


「うん。正義の味方……なんだよね。ってか、なんでコスプレしてるの?」


「コスプレすることで正体を隠してるんだよ。それと、衣装は自警団の制服みたいなもんだし」




 だけど、正体がわかった途端、私は納得した。同じ高校だから現場にいたり、帰り道助けてくれたり。瑪瑙さんとは従姉妹だから、警察とつながりもあるのだろう。


 翡翠くんから改めてきちんと紹介される。




「僕がモモンガーグリーン。ハク兄がレッドでブルーがアキ兄。ブラックがみか兄で、イエローが鐘」


「……ヒーローもの好きなの?」


「ははっ、男子なら一度は夢見るでしょう?」




 琥珀さんがにこやかに言う。気持ちはわからなくはない。水晶さんも腕を組みながら同意する。




「が、真珠。俺たちモモンガーと同居することになったんだ。心配はないだろう?」




 御影さんが言うと、鐘くんもうなづく。




「安全面の問題は任せてよね」


「……でも、俺の行いに寄っては敵にもなるんだろ?」




 私が下から翡翠くんの顔を見上げると、少し身構える。




「僕らと同居してるのに、悪い考えを持つなんてことはないでしょ? そう言った意味で、瑪瑙さんも策士だ」




 私はただ、安心した生活を送りたいだけなんだが、もう色々厄介事に巻き込まれているな……。




「ともかく真珠くんの保護はしているわけだし、あまり気にしないでのんびり行こう、ね?」




 琥珀さんが真剣な眼差しで私に告げる。命を狙われたり、誘拐されそうになったり。何かと不穏だけど、モモンガーである滝瀬兄弟と一緒に居れば、ひとまず安心ではあるのかな。


 モモンガーたちと敵対しないように、私は正義の側に立っていなくてはならないんだ。




「俺が悪者側になるのは、自分でも想像できない」


「僕たちは真珠を見てるからね?」




 素直な心情を吐露する。いつも私を見ているという言葉に、若干の重圧を感じつつ、手探りの同居1日目がスタートした。

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