10-2 バレちゃいけない
ショッピングモールを練り歩いて、お昼ご飯はラーメンにしようと言う話になった。夏休みだからが、モールの中にあるラーメン屋は満員御礼だった。私たちは列に並んで順番を待つ。15分くらいで店内に入れた。
夏場暑い中だったので、私たちはつけ麺をオーダーした。少し待ったらすぐに運ばれて来た。私たちの前に置かれると、さっそくいただきますだ。麺をすするとき、少し髪の毛を耳にかけた。
「……っ」
「どうかした? 翡翠くん」
「い、いや……なんか雰囲気あるなって」
「え?」
翡翠くんは黙って麺をすする。雰囲気あるってどういうこと? 私はカウンターの左に座っていた鐘くんにも目をやる。鐘くんはつけ麺に夢中で、今のやりとりも見ていなかったみたいだ。
食べ終えると、私たちはウィンドウショッピングを始める。
「翡翠くんって、どんな服が好きなの?」
「よくわからないんだよね、ファッションセンスって」
「オレはスポーティなやつが好き」
3人で服を見るが、当然ながら見ているのはメンズ売場だ。私が着る服は一応メンズもある。S サイズなら女性ものと変わらないからね。
「……この服かわいいかも」
鐘くんが指をさしたのは、メンズ売場の隣にあった女性もののワンピースだった。
「鐘、女装したいの?」
「いや、そうじゃなくて。女の子がこの服を着てたらかわいいじゃんって言う、一般意見」
「あぁ」
ワンピースをじっと見ていたが、私はつい本音を口走った。
「翡翠くんも似合うんじゃない?」
「僕は男だけど? そう言う真珠が着たらどう?」
「……」
かわいらしいワンピース。だけど私は男装してるからな。着てみたいって思いはあるけども。
翡翠くんをからかっていたら、鐘くんがじっとこちらを見て私に言った。
「真珠も結構女装が似合うんじゃない? 着てみたら?」
「い、いやいや。俺は……男だから、一応」
「バレないって。オレ、ちょっと真珠の女装、見てみたいかも」
「僕も」
「鐘くんはともかく、翡翠くんは当てこすりだろ……」
だけど、かわいいワンピース、私もちょっと着てみたい。でも今の状況で女だとバレるとまずい。
そんな押し問答をしていたら、店員さんが話しかけてきた。
「お客様、ショートカットでもこのワンピースならフェミニンな装いになりますよ。試着してみますか?」
「えぇっ!? い、いや、俺は……」
ヤバい。さすが洋服屋の店員さんだ。私の体型が女だってバレてるかも。翡翠くんと鐘くんは店員さんの口車に乗った。
「いいじゃん、真珠。着てみてよ! ね?」
「女顔だし似合うって!」
「女顔は翡翠くんのほうだろ……」
「試着はこちらです」
「ち、ちょっと……」
私を試着室に放り込むと、カーテンを閉める。これってもう着ないとダメなやつだよね。仕方なく私はワンピースに着替える。
「……着替えました~」
「おっ!」
「嘘だろ……」
カーテンを開けると、翡翠くんと鐘くんが待っていた。鐘くんは楽しそうだけど、翡翠くんのリアクションがおかしい。何故か口元を押さえている。
「翡翠くん、俺、変……?」
「っ! ち、違う。ってか寄らないで」
「は?」
「翡翠、超面白ぇ! 真珠がかわいすぎて動揺してるじゃん!」
「そうなの?」
「鐘、バカ。んなわけないだろ」
「にしても耳まで真っ赤じゃん」
「……」
なんだかやり辛いな。私まで照れてしまう。鐘くんはスマホをかざして私の姿を写真に撮る。
「ま、確かにかわいいよね。ワンピースがいいからかな?」
「もう満足でしょ、着替えるよ」
再びカーテンを閉めて、元の服装に着替える。でも、女子としてかわいいワンピースが似合うって言われたのは嬉しかった。記念写真も撮ってもらったし。女子だとバレちゃいけないけど、私が女だって学生時代の思い出がないのは少し悲しいからね。
フィッティングルームを出ると、翡翠くんはまだ真っ赤な顔をしていた。
「……大丈夫? 翡翠くん」
「ま、真珠! へ、平気だけど、あんまり近づかないで」
「翡翠、真珠がかわいかったのは確かだけど、男だからね?」
「わかってるよ。だから困ってるんだろ……女装、似合いすぎなんだよ。変に意識しちゃって……」
困ったな。翡翠くんが女装の私をかわいいと言ってくれるのは嬉しいけど、意識されたらさすがに同室で過ごしにくくなる気がする。ましてや滝瀬兄弟は全員男だ。紅一点だとやりづらいな気がする。
モールのベンチに座ってひと休憩をする。自販機でパックのいちごミルクを買うと一服だ。
「……」
鐘くんは無言でスマホをいじる。翡翠くんが画面をのぞき込んだ。
「さっきの真珠の写真じゃないか」
「ハク兄たちにも送ってあげようかと」
「は? やめろよ!」
「なんで翡翠が止めるの? 真珠、送ってもいいよね?」
「えっ、まぁ……」
変な写真ではないし、普通のワンピースなので、「女装」ってことじゃなかったら問題はないんだけど……この写真から女だってバレないかな。心配する私を尻目に鐘くんは写真をお兄さんたちに送る。
「どんな反応されるかな~」
ベンチから立ち上がると、私たちは帰宅することにした。
家に帰るとーー
「なんだ、あの写真は」
最初に反応したのは御影さんだった。まるで問い詰められているようだが、私は苦笑いで説明する。
「鐘くんと翡翠くんに着させられて……」
「真珠、似合いすぎ。ねぇ、ハク兄」
琥珀さんは笑顔で私を見る。
「外暑かったでしょ。飲み物は?」
「オレはレモンソーダ!」
「僕は牛乳かな」
「私は……」
カウンター内の冷蔵庫の前に行くと、琥珀さんが私にしか聞こえない声で忠告した。
「……気をつけてね? 女の子ってわかったら、数学オリンピックに出られないでしょ?」
「っ!」
琥珀さんの顔を見ると、人さし指を唇の前に出して「しーっ」。琥珀さん、私が女だっていつから気づいてたんだろう。
水晶さんも私の横に立つと冷蔵庫を開ける。
「僕とハク兄は知ってたよ。けど、弟3人はまだ気づいてないからね」
「は、はぁ……」
高校でもトップシークレットだし、私の性別は限られた人しか知らない。性別を隠している理由は、人身保護だけではない。数学オリンピックに出場するためーーこれが私の、いや、私たちの目標なのだ。




