9-4 パーティー
表彰式が終わると、近くのレストランでパーティーを開いてくれるという。私たちが学生なので昼のランチタイムに設定してくれたようだ。
レストランはイタリアンのお店で、バイキング形式だ。だけど難儀なのは、モモンガー兄弟はヘルメットを取れないということだ。
「琥珀さん、市役所の人たちもモモンガーの正体を知らないんですか?」
小声でたずねるとうなづかれる。夏の日中、クーラーの効いた室内だからと言って、ヘルメットは暑いだろう。暑い格好のまま、料理を食べられるだろうか。
「ヘルメット脱ぎたい~」
「鐘、我慢しろ。学校にバレたらからかわれるぞ」
「ちぇっ」
翡翠くんの忠告を聞き入れた鐘くんは、つまらなさそうにオレンジジュースを飲む。翡翠くんはジンジャーエールを口にした。
「真珠くん、楽しんでる?」
「瑪瑙さん。楽しむって言うか、モモンガーのみんなが暑そうで」
「まぁね。その分真珠くんが料理を食べればいいんじゃない?」
「はぁ。でももうひとつ気になることがあって」
「何?」
私は瑪瑙さんに、金澤のことをつぶやいた。この県から出て行ったとしても、逮捕されない限り再犯する可能性もあるわけで。瑪瑙さんは、私の懸念に強く同意するが、今の状況でどうにもできないという。
「一応鉄道も高速も警察が押さえてるわ。でも見つからないのよね……」
「もしかして、まだ城ノ崎にいるとか……」
「ははっ、まさかぁ~」
瑪瑙さんが笑った、そのときだった。
「お前ら、手を挙げろ!」
「きゃぁぁっ!」
プロレスラーの覆面を被った男が、レストランの店員の首元にナイフを向け羽交い締めにする。
「動くな!」
瑪瑙さんが拳銃を向けて叫ぶと、モモンガーたちも臨戦態勢に移る。
「……」
ともににらみ合って膠着状態になる。私は鐘くんと翡翠くん、水晶さんを見た。確か3人の武器は飛び道具だ。
翡翠くんは静かにブーメランを手にする。鐘くんもアームを開くとダーツの矢を取り出す。水晶さんも瑪瑙さんと同じように、銃を向けている。
覆面の男は人質を連れて、ホールの中心に立つ。そこで声を荒げた。
「この人質と、小城を交換しろ!」
「……俺か」
私は男を一瞥すると、琥珀さんに視線で合図する。
「わかった。3、2、1で交換だ」
私が男の前に出ると、カウントダウンだ。
「行くぞ、3、2、1」
「モモンガー!」
私はその場にしゃがみ込むと、後ろから日本刀を持ったモモンガーレッドが飛び出す。
「くっ!」
うろたえる男の腕を、ヌンチャクを持った御影さんが叩く。モモンガーたちの一斉攻撃だ。男は人質を離すと、入口に向かって走り出す。テーブルの上にあった飲み物が倒れる。
「グリーン、イエロー! 逃がすな!」
「イェッサー!」
レッドの指示でグリーンとイエローは武器を投げる。イエローのダーツの矢は男の腕に刺さり、グリーンの鎖付きブーメランが足元を引っかける。
男が倒れた瞬間に、瑪瑙さんがのしかかる。
「現行犯逮捕ォっ!」
ガチャリ。瑪瑙さんが持っていた手錠で男を拘束する。琥珀さんが日本刀で男の覆面を破く。そこにいたのは……。
「金澤……」
私と翡翠くんが目を見開く。
「県外脱出したと思ってたけど、地元にいたのか」
翡翠くんがため息をつく。私たちは金澤がすでに高飛びしていると諦めていた。だけどこれじゃあーー
「飛んで火に入る夏の虫、だね」
鐘くんもその場にしゃがみ込んで顔を確認する。
「俺たちには好都合だったけど、金澤はなんでレストランを襲撃したんだ」
私が首を傾げると、金澤はつまらなそうに吐き捨てた。
「そんなの決まってる。小城と変態コスプレ集団の晴れ舞台をめちゃくちゃにしようと思った……それだけだ」
「うーん」
「どうしたの、真珠」
翡翠くんに振られて、私は説明した。
「ジーニアスはIQ170を超えた天才集団だよね。それがこんな考えもない勝負を挑むなんてさ……」
「……ふん、小城はだからバカなんだ」
「なんだよ、金澤」
私がしゃがんで押し倒されている金澤を見下すと、苦々しそうに言った。
「嫉妬や妬みによる衝動は、天才でも抑えられない」
「そう? それを我慢して律することが高IQ保持者の使命じゃない?」
私があっさりそう言うと、制服の警察官が来た。瑪瑙さんは身柄を引き渡すと手を2回打った。
「どうもお騒がせしました! 衛星ハイジャック犯人を、偶然にも表彰式の日に逮捕できました! ご協力感謝致します!」
その場に居た人たちから割れんばかりの拍手が起こる。
ーー人の嫉妬や妬みか。確かにその激情が冷静な判断を奪うことはあるだろう。でも我々は人間だ。理性を失ったら、動物にすら負けてしまう。
だけど、金澤が逮捕されたということは、ジーニアスの連中も少なくとも大人しくなってくれるだろうか。私たちがメディアに出ることで、少しは防犯になると嬉しいのだが。
ジーニアスが頭脳戦を仕組んで来ても、私たちが解決する。そんなアピールになったらよいのだが。
パーティーのさなかでの捕り物。無事に金澤は逮捕できた。ド派手に捕まえたのはモモンガーたちの手柄だ。
パーティーの司会者がマイクを取る。
「みなさんは歴史の証人です! 犯人を捕まえた警察と、モモンガーに拍手!」
その場にいた全員が大きな拍手をする。司会者が、モモンガーレッドに近づいてマイクを向けた。
「犯人を捕まえた感想をどうぞ!」
「えっ……私はこういう場面は得意では……」
「イエローが代わりに話してくれるよ」
「オレぇ!? えーっと……やったぞー!」
イエローが熊が威嚇しているような格好をすると、その右側に水晶さん、琥珀さん、左に翡翠くんと御影さんが陣取り、戦隊もののヒーローらしいポーズを取る。
カメラを持っている人たちだけでなく、スマホでも撮影をする人たちにもサービスだ。
「真珠! 真珠もこっち来て!」
誘われた私も、鐘くんの前で中腰になる。
「いいよ、いいよー! はい、チーズ!」
写真を撮ると、どこからともなく拍手が沸く。ひと悶着はあったけど、なんとか無事に表彰式は終わった。だけど、私は少し気になっていることがあった。
「あの、みなさん。私が狙われていたじゃないですか。ジーニアスの面子は逮捕されたし、もう居候をやめても大丈夫ですかね?」
私がみんなにたずねると、琥珀さんが代表して答えてくれた。
「ま、念のために数学オリンピックまではうちにいなよ。せっかく朝ご飯要員が増えたからね」
「料理、下手ですけどね」
でも、料理スキルは将来自立するときに力になるからな。なんて、私はのんきに考えていた。




