9-3 感謝状
今朝は爆睡した。カフェが開くのは8時半なのだが、琥珀さんも疲れていたのだろう。起き上がるのがすでに10時を回っていた。カフェは臨時休業ということで。自分の匙加減でオープン時間を決められるのは、自営業のいいところだ。
今朝の朝ご飯はホットケーキだ。10時にキッチンに向かうと、琥珀さんもぼーっとした感じで降りてきていた。
「おはよう、真珠くん。ホットケーキ、作る?」
「俺が作ると下手ですから……」
「いやいやいや。朝は食べられればいいから」
そうは言ってもおいしいものをできれば食べたいじゃないか。それに、先日のピザトーストを思い出してしまう。みんな微妙な顔で食べていたので、心が折れたのだ。
「でも、作らないと練習にもならないよ?」
「琥珀さん、もしかして朝食作り要員にしようとしてません?」
「えーっ、バレちゃった」
えへへと柔らかく笑うと、琥珀さんはエプロンを私に渡す。
「まぁまぁ。料理は作ってみないとわからないよ。私が指導するから」
「はぁ……」
仕方ないか。昨日、モモンガーのメンバーは、歩きやチャリで警備してたもんな。私は地下室で指令を出していただけだから、一番労力はかからなかった。琥珀さんも歩き回っていたから、まだ疲れが取れていないのかも。
そう思って、私は料理する覚悟を決めると、ボウルにホットケーキミックスと牛乳、卵を割り入れる。泡立て器で混ぜたらさっそくフライパンに生地を入れて焼く。プツプツと気泡ができたら、琥珀さんの言う通りにひっくり返した。
焼いている間にレタスとトマトを洗って水を切る。焼き上がると、ベーコンも炒める。盛り付けは琥珀さんにお願いすると、まるでレストランのモーニングみたいなできあがりになった。
「わぁ、おいしそう。俺が作ったとは思えない出来だ」
「ふふっ、謙遜しないの。じゃ、他のみんなを呼んできてくれる?」
「はい」
エプロンを外すと、入口から離れた奥から扉を開けていく。まずは翡翠くんからだ。
「翡翠くん、朝だよー」
「んぅ……」
「朝ご飯、ホットケーキなんだけど」
その言葉に耳が動いた。
「ハク兄のホットケーキ……ふぁぁ、起きた」
まだ眠そうにぽやぽやしているけど、一応は目覚めているみたいなので、次の部屋へ行く。鐘くんの部屋は、ロボットフィギュアが飾られている。
「鐘くん、朝!」
「……誰だよ、うるさい」
また腕を取られそうになるが、二度も押し倒されては堪らない。見事横に避けると、鐘くんは自らフィギュアの棚に突っ込んだ。
「わぁぁ!? いってー……って、オレのフィギュア!」
「起こしたからね?」
それだけ告げると御影さんの部屋だ。バイクのポスターが飾られているのだが、ベッドでうずくまっているのを確認すると、私はタオルケットを剥いだ。
「うわぁっ!?」
タオルケットに包まっていた御影さんが出てくると、私は朝の挨拶をした。
「御影さん、おはようございます」
「……おう」
そしてあとは最後の水晶さんだ。部屋の扉をノックするが、応答がないので部屋に潜入する。
「……」
まだ寝息を立てている水晶さんの肩をポンポンと叩いて起こす。
「水晶さん、朝ですよ」
「ハク兄……ん~」
水晶さんは寝ぼけているらしく、唇を私に近づけてくる。おいおい、琥珀さんと間違えていてこれ? 私はクッションを水晶さんに押し付けると、バシッと言った。
「朝ご飯、できてますんで」
パタン。扉を閉めると、キッチンに戻った。
全員起こしてようやく朝ご飯。その際、琥珀さんが連絡事項を述べた。
「例の感謝状の話なんだけど、今日の昼に市役所で授与式が開かれるらしい。真珠くんはともかく、私たちはヒーロー服だからね」
「なんだかオレたちが真珠の引き立て役みたいじゃん」
「鐘は文句言うな」
「あっ」
鐘くんの皿からミニトマトを突く翡翠くん。この兄弟、仲はいいんだよなぁ。私もホットケーキを食べるが、塩コショウだけの味付けでもおいしい。
食べ終えると、洗い物だ。いつものごとく皿洗いをサボろうとする鐘くんと御影さん。翡翠くんもまだ昨日の疲れが後を引いている様子だ。仕方なく私と琥珀さん、水晶さんで片付けると、お昼の授与式の前に制服に着替える。
「あれ、真珠も制服じゃん。てっきり私服だと思ったのに」
「学生の礼服は制服だろ」
……本当は男物のお洒落な服がないからなのだが、こういう場所には制服でいいのだろう。モモンガーも制服なわけなんだから。
時間になると、水晶さんが車を出してくれる。私と、モモンガーたちが乗り込むと、発車だ。
市役所まで、車で15分くらいだろうか。駐車場に車を止めると、私たちは車の外へ出る。お昼前の時間なのでキッチンカーが出ている。それに並んでいた役所の職員が、モモンガーに注目した。
「あ! あれが噂の……」
「へぇ、正義のヒーローだって」
スマホのカメラを向けられると、モモンガーたちは軽く手を挙げて挨拶した。
「きゃぁ! 手を振ってくれた!」
「あの秋高の制服の子は?」
コスプレの中に制服も返って目立つ。赤くなりながら市役所に入ると、受付の方に話しかけた。
「小城真珠さんと、むささび戦隊……ぶっ、モモンガー様ですね?」
「はい」
「市長室に案内します」
やはり『むささび戦隊モモンガー』は笑ってしまうのか。一般人の滝瀬兄弟のほうがまだよかったよな。モモンガーがまるで罰ゲームみたいだ。
案内されて、市長室の前に到着する。そこにはカメラマンたちもいて、私たちにレンズを向ける。
ノックすると、ドアを開いた。
「あっ、これはこれは。小城さんとモモンガーさんたち。ようこそおいでくださいました!」
市長は立ち上がると、さっそくカメラの前に立つ。モモンガーたちに囲まれつつ、私が市長から感謝状を手渡されると、カメラのシャッターが同時に切られる。
カシャッ、カシャッっと言う音のほうへ顔を向けると、市長も笑顔を浮かべる。最後に全員が市長と握手をする。
「報道陣の皆さん、何かご質問等はございませんか?」
市役所の方がたずねると、ぽつぽつ手を挙げる人がいた。順番に指名されるとマイクを持つ。
「あの、小城さんは月末の数学オリンピックに出場されるとお聞きしているのですが、意気込みをどうぞ」
「え、えっと、あのー……頑張ります」
インタビューなんかは慣れていない。たどたどしい口調になってしまうが、しょうがないだろう。
他にも2つ3つ質問を受ける。数式に気づいたときのことや、暗号のこと。だけどなかなか上手く説明ができずに歯がゆい思いをする。
「そろそろ最後の質問を……」
「はい」
最前列の女性が挙手する。
「むささび戦隊モモンガーってなんですか?」
その問いかけに、琥珀さんはマイペースに答えた。
「ご当地ヒーローみたいなものですね」
結局それしか解答はない。私たちの晴れ舞台は、緊張の中一瞬で終わった。




