9-2 後の祭り
衛星落下を見届けた私たちは、とりあえず風呂に入ろうと言うことになった。
「すっごい汗だくだよぉ~」
鐘くんが麦茶を飲みながらつぶやくが、風呂の順番はじゃんけんで決める。琥珀さんはまだ残務処理があるとのことで、水晶さんも後でいいらしい。残った私、翡翠くん、御影さん、鐘くんの4人でじゃんけんだ。
「じゃんけん、ぽん!」
「おぉ……」
一発で一番湯が私に決定した。その後2、3度じゃんけんする。私の次に翡翠くん、鐘くん、御影さんに決まると、さっそく着替えを持ってきてお風呂だ。
「はぁー、疲れた」
今日は街を歩き回って、用具室に閉じ込められて……衛星落下の被害がないように気を張って。さすがに疲れはピークだ。ゆっくりとシャワーを浴びて湯船に浸かりたい。私はさらしをとくと、洗濯用のバッグに入れる。
体を洗って湯に浸かると、蓄積した疲労感が取れるような気がする。頭を洗ってひと段落して上がる。Tシャツとジャージに着替えると、風呂場から出る。
「一番湯、ありがとうございましたー!」
「ん。次僕だね」
翡翠くんも風呂の用意をする。
「真珠、棒アイスいる?」
「あ、いただきます!」
御影さんに聞かれると、私は手を挙げた。たくさん働いたあとの風呂上がりのアイスなんて、最高だ。
グレープアイスをもらうと、ついていたテレビを見る。今日の衛星落下の話だ。モモンガーは表だって出ていないが、先ほど翡翠くんと鐘くんに絡んでいた取材班だ。
私たちは地下室で衛星落下の様子を見ていたけど、地上からの風景はどうだったんだろう。
鐘くんもアイスを食べながら、テレビにかじりつく。
「これ、さっきの人たちじゃん」
「うん。ニュースになってるみたい」
「オレは? 映ってない?」
じっとテレビを見つめるが、モモンガーは出てこない。鐘くんはぷくっと頬を膨らませた。
「ちょっと。なんでモモンガーは話題にならないのさ」
「……正義のヒーローは話題になることが目的じゃないからだ。正体がばれたら面倒だしな」
御影さんが鐘くんの頭をぺしっと叩く。頭を押さえると鐘くんはぶうたれた。
「だけどさ、せっかく街ために働いたのに無視はないでしょ。なんか表彰されたりしないの?」
「ははっ、どうだろうね?」
「賞が欲しいって言っている間は無理なんじゃない?」
琥珀さんと水晶さんも話に加わる。街のヒーローって言うのもなかなか大変なんだな。
あ、そういえば。私は金澤のことを思い出した。
「琥珀さん。白銀さんと金澤くんのことなんですけど……」
「うん。白銀さんは毒物を仕込んだり、カードを置いたことは認めた。そして、金澤くんとも知り合いだって。カードは金澤くんにもらったらしい」
そうか。やっぱり白銀さんがジーニアスではなくて、金澤が……。
「金澤くんは捕まったんですか?」
「それがねぇ……県外に出たところまではわかった。けど、そのあとは不明。まぁ、ことがことだ。衛星をハッキングして落とそうとした場合、ハイジャック罪に値するだろうね」
琥珀さんが難しい顔をする。
金澤は逃げた。だけど、もうこの県には戻って来られないだろう。ジーニアスという天才集団は一体なんだったのだろうか。人に迷惑をかけただけじゃないか。
「これは俺の持論ですけど」
そう前置きして私は口を開いた。
「天才に生まれたなら、その能力を仲間のために使うべきですよ。どんなにIQが高くても、その力で迷惑をかけるなんて、愚かだ」
「そうだね。だから僕らも真珠くんのそばにいたわけだし」
水晶さんに肩を叩かれる。私は恐縮した。
「これからも何かとよろしくお願い致します……」
「ははっ、任せて」
琥珀さんも親指立てる。そんな話をしていると、翡翠くんがお風呂から出てきた。
「麦茶ちょうだい」
「今日はすごく暑かったもんね」
「ほんっと。用具室に閉じ込められたときなんて、熱中症になってたものな」
「オレが助けに行かなかったら、マジでやばかったよね」
「鐘、風呂開いたぞ」
「はあい」
翡翠くんが促すと、今度は鐘くんがお風呂だ。テレビを見つつ、お茶を飲んでいたときのことだった。
「……っと」
琥珀さんのスマホに着信だ。
「はい、琥珀です。瑪瑙さん、何? 今日は疲れてるんだけど。お互い様かな」
相手は瑪瑙さんらしい。親戚と言うことで、少しラフな話し方だ。もう深夜だ。まだ衛星のことで何かあるのだろうか。できることなら明日以降にしてもらえるとありがたいんだけどな。
「そうか、わかった。あとーーえっ?」
二言三言話すと、琥珀さんは電話を切って頭に手をやった。
「瑪瑙さん、何だって?」
「白銀さんと金澤くんのこと。予想通り白銀さんは黙秘だって。金澤くんも消息不明。……あともうひとつ」
琥珀さんは一旦区切ると私を見つめて言った。
「真珠くんは功労者として県から表彰されるみたいだよ。よって後日連絡するって」
「表彰……?」
イマイチピンと来ていない私に、風呂から出たばかりの翡翠くんがはっきりと告げる。
「よかったじゃん。数学オリンピックの前だけど、感謝状なんて。それでハク兄、僕たちモモンガーは?」
「私たちももらえるみたいだけど……」
「だけど、何?」
琥珀さんの眉毛が八の字になって困り顔になると、言いにくそうに話す。
「モモンガーのスーツを着てね、だって」
「えぇっ!? あのコスプレで出るの!?」
「正体がバレても困るでしょ」
水晶さんも苦笑いだけど、翡翠くん、あのスーツはコスプレだって自覚はあったんだ。さらに恥ずかしいという概念もあるみたいだと知ると、笑いそうになる。
「ところで、モモンガーのスーツは自警団の制服みたいなものとは聞いてますけど、夏場暑くないですか?」
「暑いよ? でも小柄な一般人の僕が飛び出すより、コスチュームに身を包んだやつが助けたほうがしまるでしょ?」
翡翠くんもお風呂上がりのアイスを口にする。翡翠くんや鐘くんは確かに小柄だ。琥珀さんや水晶さんも、身長はあるけど筋肉質と言うわけでもない? 御影さんは鍛えているみたいだけど……。
「ハク兄、表彰式っていつ?」
「明日にでも詳細を聞けるんじゃないかな」
私とモモンガーが壇上に上がるのか。だけど気になる点がひとつ。金澤が捕まっていないこと。
私たちがメディアに出るのはいいけど、金澤が捕まらない限り、また衛星を乗っ取られたりしないだろうか。
「ふぁぁ……今日は疲れたし、寝よう。明日のことは明日考えよう」
翡翠くんの意見に賛成だ。私たちは部屋に戻って寝ることにした。




