9-1 衛星
モモンガーが出動した。私は地下室で各人の様子を眺める。モモンガーのヘルメットには小型カメラがついている。5人が見ているものは、ゴーグルを通じて私にも共有される。
衛星落下まで、あと1時間。鐘くんと翡翠くんはチャリ、御影さんは車。琥珀さんと水晶さんは徒歩で衛星落下地点である小学校の周りを警備する。SNSで避難は呼びかけた。避難というか、家から出ないように。本当はシェルターみたいな場所があればよかったのだが、こんな住宅街にあるわけがない。そうなると、家から出ないように注意するしかない。
「真珠、こちらモモンガーブラック。家に帰宅する人を数人車に乗せた。校庭から離れたところで降ろす」
モモンガーブラックは御影さんだ。私は車の位置を確認する。
「ラジャー。あと300m先なら降ろしても大丈夫です。徒歩とチャリはどう?」
話しかけると鐘くんが反応した。
「今、落下地点から数百m離れた場所にいるよ。……なんだあれ」
翡翠くんが何かに気づく。視線の先にはライトを持った学生たちだ。近づくと、声をかけた。
「キミたち、20時に衛星が落下する可能性がある。危険だから屋内に逃げてくれ」
翡翠くんがそう言うが、学生たちの集団は夏休みだからかテンションが高い上に野次馬根性が出ていた。
「俺らはその衛星落下の様子を見るために集まったんだって」
「そうそう。衛星が落下するなんて一大イベントじゃん!」
「あのねぇ……」
「イエロー、言っても聞かなさそうだぞ、これ」
話している途中に、大きなバンが止まった。中からキャップを被った男たちが降りてきた。
「また人が来た。今度は何なんだよ……」
翡翠くんがぼやくと、車から出てきた男たちが名刺を差し出した。
「あっ、君たちが正義のご当地ヒーロー? 俺らはにこにこテレビの人間だ。衛星落下のシーンを、しっかり撮影したくてね!」
「いや、そんな場合じゃなくて! 危険だから屋外に出ないでくださいって……」
「危険を冒さなかったら、スクープは撮れないでしょ? あ、モモンガーさんたちのインタビューもお願いしたいな」
「グリーン、どうする?」
「仕方ない、自己判断に任せよう」
「あっ、ちょっと! モモンガーさん!」
鐘くんと翡翠くんは、それ以上強くは言わなかった。その場からチャリで離脱する。
「インタビューなんて引き受けたら、衛星落下しちゃうっての……」
「小学校横の野次馬は諦めて、他を見回ろう。真珠、人が集まりそうな場所、わかる?」
スパコンでマップを見ると、近くに教会がある。もしかしたらここにも人が集まっているかも。広域避難地だ。
「翡翠くん、そこから教会って近い?」
「僕たちより、ハク兄たちのほうが近いかも」
「……琥珀さん、応答願います」
声をかけると、琥珀さんと水晶さんが答えた。
「真珠くん、どうした?」
「現在地の近くに教会があるんですが、避難民はいますか? 多分避難場所になっていると思います」
「あぁ、見えてきたよ。教会だ」
水晶さんが顔を向けた先に、教会の鐘があった。ここに避難してきている人もいるよね。
ふたりが到着すると、避難していた人々が寄ってきた。
「お兄さんたち、衛星落下ってどういうこと?」
「一応避難してきたけど……」
「まぁ、ここにいれば安全だとは思います。真珠、衛星が落下した場合、どのくらいの大きさのクレーターができるかわかる?」
「……えっと」
衛星の部品の計算は細かいところまではできない。だけど、大体の大きさならわかる。多分、小学校のグラウンドに穴が開く。うまく行けば、先ほど石灰で印を付けた場所に落ちるだろう。
私は琥珀さんたちに説明した。
「小学校から離れていれば大丈夫だと思われます」
「ともかく予定時刻までこの場に退避していてください!」
琥珀さんと水晶さんが言うと、私は衛星からのカメラに切り替える。小学校上空が近づいて来た。予定通り、校庭に落ちてくれーー。
「衛星の位置は?」
「城ノ崎市上空に接近中」
翡翠くんの問いかけに答える。モモンガーたちは小学校校庭から住民を避難させた。カメラマンとかは自主避難してもらうしかなかったが、それ以外の人は家にいるようだ。
ーー「定刻10分前」。
1時間しかなかった割には退避できたほうだと思う。もう一度校庭の近くを見回ると、モモンガーたちも退避を決める。
「よし、私たちも逃げるぞ」
歩いていた琥珀さんと水晶さんを、御影さんが拾う。チャリふたりもドルフィンに向かう。
ーー「定刻3分前」。
ちょうど店についたモモンガーたちが、地下室へと集まる。あと1分。私がカウントを取る。
「5、4、3、2、1」
その瞬間、画面がピカッと光り、大きなドーォッン! という振動が襲った。地下室の壁から埃が落ちる。
「……すごい衝撃波」
「揺れたね」
「小学校は?」
衛星に付いているカメラは落下の衝撃で壊れたようだ。他の衛星のカメラから、小学校の校庭を見るとーー。
「うわっ、すごい……」
翡翠くんが思わずつぶやく。校庭には予定通り大きなクレーターができていた。グラウンドのトラックが穴になっている。幸いなことに印を付けたところにうまく落ちてくれたので、よその被害はなさそうだ。
「……ねぇ、今から衛星の落下したところに行っても大丈夫? 何かあるかもしれないじゃん!」
鐘くんが目を輝かせて琥珀さんにたずねると、少し考えてからうなづいた。
「宇宙に存在する物質とかもくっついてきているかもだし、放射能汚染とかは大丈夫か調べないといけないな」
「行政が出てくれるって。今瑪瑙さんからメッセージがあった」
御影さんが言う。ここは私たちみたいな一般人より、宇宙の専門家に任せたほうがよさそうだ。
だけど……。
「はぁぁ~……一応これでひと段落だよね?」
私がその場にしゃがみ込むと、翡翠くんが肩をぽんと叩く。
「真珠はよくやったよ」
「翡翠くんもね」
私たちは拳をぶつけ合う。モモンガーのメンバーたちも、背伸びをした。
「後処理はあるかもだけど、今日のところは避難解除だね。SNSに載せておくよ」
琥珀さんがスマホに入力して、ようやく私たちの一夏の大騒動は終結した。




