8-4 ヒーロー
上半身裸の翡翠くんと一緒に閉じ込められている。翡翠くんは私を見て言った。
「真珠、暑くないの? 脱いだら?」
「えっ……い、いや、暑いけど」
「見てるだけで暑いんだよ」
「そう言っても……」
口ごもるが、さらしを巻いているし、女だとバレてしまうから脱ぐに脱げない。私は小さく「あっ」とつぶやいた。
「そうだ、男同士でふたりが上半身裸だったら、助けられたときに怪しまれるじゃん!」
ナイス言い訳だ。
翡翠くんもそれには納得せざるを得ないだろう。だけど暑い……。スマホのメッセージに既読がついたか確認する翡翠くん。お兄さんたちは行政のほうへ行っているけど、鐘くんはどうだろうか。
「誰か気づいた?」
「鐘が既読ついた。今から迎えに来るって」
そのひと言に私は安心する。服を脱ぎたくなるレベルでむしむしするくらいならかわいいもんだ。それ以上に暑すぎる。
意識がーーなくなりそうだ。
「むささび戦隊モモンガー! イエロー見参!」
気を失っていたのか? 鐘くんの声がした。扉からは涼しい風が入って来る。
「わわっ! 大丈夫!? ってか、翡翠裸じゃん!」
「み、水……」
「保健室前に流し台があるよ! ふたりとも歩ける?」
モモンガーイエローに肩を抱えられ、流しへと向かう。翡翠くんも上半身裸だけど、服を持って水道まで歩く。
蛇口をひねって、水に口をつける。生ぬるいお湯みたいな状態だけど、脱水症状気味だったのでうまいと感じる。
まだぼーっとして頭も痛いので、頭から水をかけた。
「鐘くん、ありがとう」
「てか、顔赤いよ。ドルフィンまで帰れる? さっさとクーラー効いた部屋に入ったほうがいい。オレもヘルメットが暑い……」
ドルフィンまで距離が結構あるが、仕方ない。もう一度頭から水をかける。私も女子だということを忘れて水浴びだ。
ここからドルフィンまで歩き。私と翡翠くんは、意識を朦朧とさせながら帰路についた。
ドルフィンにつくと、冷蔵庫にあったレモン水をがぶ飲みした。鐘くんもヘルメットを脱ぐと、髪が汗で濡れていた。琥珀さんたちお兄さん方が帰って来るのを待つ。行政に説明しているから、時間がかかるかもしれない。熱中症みたいになっていた私たちは、アイスクリームを持って地下室のスパコンの前にいた。
「真珠の言った通り、衛星の軌道に関係する数式を入力したよ」
「真珠、このデータわかる?」
モニターの前に座ると、私は先ほどハッキングした衛星からのカメラに表示を変える。衛星はまだ日本上空には来ていないみたいだ。衛星の速度を確認する。あと2日くらいで落下か。ノートにペンで計算式を書き出す。全部暗算だ。
「……少し速度が変わったかも。速くなった?」
「さっきハッキングしたときに何か気づかなかった?」
翡翠くんに聞かれたが、覚えはない。計算ミスをしていたのかも。もう一度最初から計算し直してスパコンの答えと照らし合わせる。
「ーー衛星が速まった。私の計算では、あと1日」
「えっ!?」
「琥珀さんたちにも連絡して! 衛星の速度が速くなったって」
「わかった!」
翡翠くんと鐘くんがスマホのメッセージを送る。しかし、タイミングが悪かった。地下室の扉が開く。
「何? わかったことあるの?」
「兄貴たち? 行政に行ってたんじゃないの?」
「門前払いでさ」
水晶さんががっくりする。琥珀さんと御影さんは、ペットボトルの清涼飲料水を飲んでいる。
「それはともかく、衛星落下のスピードが速まったんだよ。今スマホに連絡しようとしていて……」
「はぁ……行政が動かない分、俺たちの出番ってわけだな」
御影さんがつぶやくと、滝瀬兄弟は顔を見合わせて強くうなづいた。
地下室に私ひとり取り残すと、滝瀬兄弟はモモンガーの装束に着替えて来た。
「ところで、瑪瑙さんはなんて?」
「警察は一応、金澤を追っているみたいだけど……。白銀さんの事情聴取もやってるって」
「現場は僕たちってことか」
翡翠くんがぼやく。警察の手も借りられたら避難誘導がうまくできるのに。
「とりあえず、小学校半径1kmは外出禁止令を出そう」
「SNSで誘導するね」
鐘くんはスマホに文言を入力する。行政のSNSにリプライする形で注意事項を載せる。
『城ノ崎小学校半径1kmにお住まいの方は、明日まで外出しないようにしていてください! 衛星落下の可能性があります!』
県庁と市役所、県警のアカウントに書き込むと、モモンガーたちと私は夏の暑さの中外へ出た。夕方。少し日が影ってきたが、衛星落下の時間は夜。
「落下予定時刻は?」
「20時です」
「さぁ~て、僕たち正義のヒーローが活躍するお時間だね」
「遊びじゃねえんだよ」
翡翠くんが手をポキポキと鳴らす。それを見ていた御影さんが軽く叱咤した。ヘルメットで顔まではわからないが、翡翠くんは「はいはい」と手を挙げた。
「いいかい? 小学校の近くの大通り、ここは迂回をしてもらおう」
「交番のほう、標識と看板は貸してもらえそうだよ」
鐘くんが言うと、水晶さんが親指を立てる。大通りは通行止めにして、あとは夜出歩いている人たちへの注意だ。
「この辺は夜犬の散歩をしている人が多いから、人を見かけたら帰るように伝えよう」
「チャリ使ったほうがいい?」
「ハク兄、車は?」
「翡翠と鐘は自転車で。御影は車で、通行人回収を。私と水晶は徒歩だ」
「……俺は?」
持ち場を確認する滝瀬兄弟だが、私は何も言われなかったので、小さく手を挙げた。すると翡翠くんがスパコンを指さした。
「キミはここで衛星の状況確認。あと、ヘルメットにはマイクがついてるから、情報の管制を頼む」
「はい、わかりました」
時間は19時を過ぎた。衛星落下まで、あと1時間。果たしてどこまで避難誘導できるか。あと、私の計算通り、衛星は落下するのだろうか。
私はマイク付きヘッドフォンをすると、通信できているかチェックだ。
「みなさん、聞こえますか?」
「おーう!」
拳をあげるモモンガーたち。準備はばんたんだ。全員腕時計を確認すると、琥珀さんが音頭を取った。
「では、20時、落下予定時刻。それまでにオールグリーンに。行くぞ、むささび戦隊……」
「モモンガー!!」
セリフが決まると、出動だーー。




