7-4 ポイズン
白銀さんをカフェに呼び出した。時間は朝10時。カランカランとベルが鳴ると、今日もお嬢様スタイルの白銀さんが入ってきた。花柄の白いワンピースが彼女の清楚な雰囲気にぴったりだ。
「こんにちは! 水晶くんは?」
……そう言うと思った。御影さんが白銀さんの応対をする。
「水晶は出かけてる。用事があるのはこいつだ」
「? えっと、真珠くん……だっけ?」
白銀さんはしらばっくれているのだろうか。私は白銀さんに会釈すると、テーブル席に案内して一緒に座った。
「なんだ、水晶くんからのお誘いだと思ったのに」
「……お誘いしてくれたの、白銀さんでしょ?」
後から来た翡翠くんが、ニヒルな笑みを浮かべると、白銀さんは小首を傾げた。
「ほよ? 何のこと?」
「カード、お忘れになったのでは?」
翡翠くんは例のGマークが書かれたカードを白銀さんに見せる。
「わざと忘れ物をしたのでは?」
「ふぇぇ……そんな器用なことできないよぉ」
白銀さんは困った顔をするが、それが本心か演技かはわからない。
私はたたみかけるようにたずねた。
「……白銀さんがこのカフェを知ったのって、秋高天文部のポストを見たから……違いますか?」
「天文部? だったかなぁー? ちらっと見ただけだから」
白銀さんは終始にこやかな笑みを湛えている。水晶さんがいないから出て行かれかねないと思ったけど、それは問題なさそうだ。と言うか、白銀さんひとりと私たち5人じゃ勝ち目はないからだろう。
「白銀さんは金澤くんのこと、ご存じですか? 天文部なんですけど」
「……」
白銀さんは沈黙した。
「このカード……俺を襲ったやつが投げつけてきたやつと一緒なんですよ。白銀さんも会計のときに置きましたよね」
「はわわ、私が置いたとしたら何のためですか?」
「脅迫……見張っているという証明では?」
カードを指に挟んで見せた翡翠くんも、白銀さんの言動を見張る。
「単刀直入に聞きますけど、白銀さんはジーニアスの会員なんですか?」
「ほよ? なあに、それ」
白銀さんはなかなか口を開けない。水晶さんと御影さんと同じ大学ってことしかわからないが、ジーニアスの会員ならIQ170以上のはず。だけど申し訳ないが話し方にインテリジェンスを感じないのだ。
かといって、IQ検査を受けさせるのもなんだか違う。問題は、ジーニアスが私をどうして脅迫するのかだ。
「俺、このカードを持っている輩に襲われてるんです。白銀さんも関係者なのでは?」
「何だったら指紋の照合でもしますか? あなたが置いていったカードなら、指紋がついてるからね」
翡翠くんが凄む。指紋のデータの解析は、確かできるって言っていたな。白銀さんはふぅとため息をつくと、長い前髪をかきあげた。
「……私がそのカードを置いたとして、何か問題はあるの?」
「だから、真珠を誘拐しようとした組織の関係者なんじゃないかって聞いている」
御影さんが強い口調で詰め寄る。白銀さんは窓に目をやった。
「カフェなのに、オーダーも聞かないの?」
「……失礼しました。ご注文はいかがですか?」
琥珀さんが笑顔で訊ねると、白銀さんはアイスティーをオーダーする。
「かしこまりました」
その場から立ち去ると、白銀さんはため息をついた。
「もし、私がそのジーニアスの会員だったら……どうするの?」
「ジーニアスの目的はわかっています。天才同士を番わせるための組織だと」
「私がジーニアスの会員だったら、天才だからモテるってこと?」
「……言い方が下世話ですけど、まあ……」
翡翠くんが鳩が豆鉄砲食らったような顔をする。
だけど少しわかった気がする。ジーニアスはすごく下世話に言って、お見合い斡旋グループだ。私は17歳だけど、年頃になったら天才同士で番わせようーーそのために誘拐しようとしたのだ。ましてや私は男のフリをしている。男だったら、私の精子を使った子どもを欲しがる女性がいるかもしれない。精子バンクとか、色々あるからな。あいにく私は女だけれども。
テーブル席に置かれているピッチャーから水を注ぐ。すると琥珀さんがアイスティーを運んできた。
「お待たせしました」
「……」
私もグラスに注いだ水に口をつけようとした。
「ーー待って、真珠」
「鐘くん?」
鐘くんに水を飲むのを止められる。なんだろうと思ったら、私のグラスを手にした。窓際の観葉植物に水をかけると、ぐったりした。さらに水の残ったグラスの中にシルバーのスプーンを入れる。するとーー
「毒が入ってる」
「!」
変色したシルバーを白銀さんの前に出す。いつの間に、私のグラスに毒なんて……。私は白銀さんをにらんだが、白銀さんはにっこりと笑っている。琥珀さんと御影さんが白銀さんの隣に立って、ピッチャーに入った水を彼女のグラスに注いだ。
「白銀、飲めよ」
御影さんが冷たく言い放つ。しかし白銀さんは首を左右に振った。
「私は水晶くんに振り向いてもらいたかっただけよ」
その言葉にハッとした。つまり、自分がジーニアスという天才集団の一員だったら、自分と番ってくれるのではないかというアピールだったということか。あまりにもしょうもないことに巻き込まれていて、私は頭を抱える。
図書館に仕込んだカードも、もしかしたらまだ見ぬ番志望者が入れたかもしれないということだ。
だけど、なんで白銀さんは毒を仕込んだんだ? じっとにらみつけると、白銀さんはヒステリックに笑った。
「滝瀬家に居候なんて、いくら男でも許せないの。水晶くんの隣に立つのは、私よ!」
ちょうどそのとき、覆面パトカーがサイレンを鳴らしながらドルフィンの前に止まった。
「ハク兄、瑪瑙さん呼んだから」
「うん」
「私は水晶くんと一緒にいたかっただけ! 何が悪いのよ!」
「毒を盛ったからだろ……」
御影さんが冷たい視線を送る。連行される白銀さんを眺めながら、私は首をひねる。
ジーニアスはIQ170以上の天才集団らしいのに、恋愛如きで毒を盛るなんて。私が眉間にしわを寄せていると、翡翠くんがぽんと肩を叩いた。
「人の心情はIQで測れないってことなんじゃない?」
「そんなもんなのか……」
だけど、私はひとつ気になった。それは、金澤のことだ。白銀さんをたきつけたのはまさかーー。




