7-3 忘れ物
例のGマークが書かれたカード。白銀さんが持っていたってことだろうか。カルトンに置き忘れた? いや、これはあえてだろう。ジーニアスの存在感を示すため? だとしたら、必然白銀さんはジーニアスのメンバーってことだよね。
ランチタイム。私は水晶さんと御影さんに聞いた。
「水晶さん、白銀さんがジーニアスのメンバーだって知ってました?」
「いや……」
「御影さんは?」
「初耳だ。そもそもジーニアスってなんだ?」
同じ大学のふたりが知らなかった事実。ジーニアスについて、私はまだ何も知らない。
今日のランチはアスパラガスのペペロンチーノだ。ガーリックが効いていて相変わらず絶品。今日作ったのは水晶さんだが、琥珀さんに負けじ劣らず料理がうまい。
食べ終えると、食器を流しに置く。私はスマホでジーニアスについて調べる。
『ジーニアス:IQ170以上の天才集団』
……だから何なんだ。IQ170以上。私がもしそのぐらいのIQがあるとしても、集まって何をするんだか。
「白銀さんって頭いいの?」
翡翠くんが水晶さんに訊ねると、首を捻った。
「いや……成績は悪くないんだろうけど」
「水晶の追っかけしてるよな」
ペペロンチーノを食べながら御影さんがつぶやく。私と同じようにスマホを見ていた鐘くんが何かに納得した。
「ジーニアスって、高IQ同士でお見合いするための会らしいよ」
「……それって出会い系ってこと?」
「下世話に言うなよ、水晶」
御影さんが水晶さんにツッコむ。鐘くんの言った通り、ジーニアスの目的は究極の優生思想だ。
「それに真珠くんがスカウトされてるってことだよね。水晶、白銀さんの連絡先は?」
「昔スマホの電話番号を押しつけられたけど……捨てた」
「バカ」
「怪しい女から押しつけられても捨てるでしょ……」
御影さんが苦々しい表情で水晶さんを見るが、水晶さんの言うこともごもっともだ。
でも、白銀さんがカードを持っていたと言うことは、ジーニアスの会員なのかもしれない。
翡翠くんも流しにお皿を運ぶ。私が洗っていると、洗い終わった皿を拭きだした。
「真珠は、ジーニアスに入る気はないんでしょ?」
「うん。なんだか胡散臭さいからね。ましてやお見合いサークルみたいなんだろ?」
私は性別を偽っているわけだし、まだ17歳だ。見合いには早すぎる。
「でも、見合いサークルって聞くと、白銀さんが入っていてもおかしいと思わないな」
「そういうキャラなんだ」
水晶さんが言うと、琥珀さんも納得する。白銀さん、美人だからモテそうなんだけどな。高IQの人と結婚したいとかあるのかも? 私には理解できないけど。
「白銀さん、SNSとかやってないの? ジーニアスのメンバーで、真珠くんに用事があるなら、面と向かって話せばいいのに」
琥珀さんの言葉は正論だ。私を狙う理由。それは優生思想からだろう。だけど私は優生思想なんてよくわからない。頭がよくても性格が悪かったら意味がないと思っているから。
水晶さんもスマホをいじりはじめる。SNSを調べているみたいだ。少しすると、水晶さんは白銀さんのアカウントを見つけた。
「今の世の中便利だね。出てきたよ。だけど真珠くん、どうするの?」
「白銀さん……ジーニアスに少し話を聞きたい、です。行く場所行く場所嫌がらせされるのは迷惑ですから」
水晶さんはうなづいた。それを見た御影さんは、軽く待ったをかけた。
「水晶は行くな。白銀さんが狙ってるのはお前だ」
「またカフェに来てもらったら? ここならオレたちもいるし」
鐘くんの提案に、琥珀さんも同意した。確かにカフェに来てもらえば、屋外でもないし狙われないだろうから安心だ。
水晶さんはそれを聞き、白銀さんのSNSに連絡してくれた。
「……明日また来てくれるって」
「接客は俺とハク兄でするから、水晶は出かけてろ」
「ああ」
でも、少し怖い。学校に刃物を置いたり、私の命を狙っていた。白銀さんは温厚そうだったけど、水晶さんのストーカーみたいな感じみたいだ。人は見かけじゃないようだ。
……あれ? そう言えば白銀さん、『秋高生にカフェがあることを聞いた』って言ってたよな。私もSNSにログインして、カフェの話をしているアカウントを探す。するとあったのはーー
『秋ヶ瀬高校天文部』
「翡翠くん、これ」
「金澤か。白銀さんは金澤の書き込みを見て来た? つながったな」
「だけど、金澤も何者なんだ? 『俺たちでも解けなかった』ってーー」
「金澤もジーニアスメンバーだってことか」
だとしたら辻褄が合う。ジーニアスのメンバーが、私に謎を解かせた。私が翡翠くんを見ると、翡翠くんも私に顔を向けた。
「IQ170以上の天才集団が解けなかった謎を、真珠は解いたのか?」
「ま、待ってよ。俺の解答が合ってるとは限らないだろ」
「だけど、真珠が解いたのは隕石落下の軌道だ。天才集団でもわからなかった難題ーー」
御影さんが私を見やると、淡々とした調子で言った。
「真珠はいわゆる『悪魔の天才』というわけか」
「だから僕らが見張ってるんでしょ」
翡翠くんーーモモンガーグリーンが最初に言っていた話。『私次第で敵にも味方にもなる』ーー。
悪魔の天才なんて言われてもわからない。だけどできるだけ善側でいたいとは願っている。隕石が落下する可能性があるなら、できるだけ被害は少なくしたい。私が例えば隕石落下の情報を知っているにも関わらず、何も手を打たなかったらーーそれこそモモンガーの敵になっただろう。
私たちは、ヒーロー側にいなくては行けない。だから。
お昼ご飯が終わると、洗い物を済ませる。午後からもカフェで宿題と暗号の解読だ。
「食後のデザート兼おやつ。私からね」
琥珀さんがいちごババロアを持ってきてくれると、勉強前にいただく。頭を使うときは、糖分を補給しないとね。
この暗号を解いたら、何がわかるのだろう。私たちが地球を守ることなんて、できるのだろうか。
夏なのに温かい紅茶のカップを口にすると、ため息が出る。隕石落下の対策を立てるのは、最早私の使命だ。
「……」
翡翠くんが私を見やる。目付役がいることで、私の背筋が伸びる感じがした。




