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滝瀬さん家と四則演算  作者: 浅野エミイ


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7-2 宣戦布告

 翌日。カフェ・ドルフィンで相変わらず私と翡翠くんは勉強していた。夏休みに入って数日。宿題はだいぶ片付いたが、私たちの課題は隕石落下をどうやって防ぐか。太陽周回軌道から落ちてくるかもしれない隕石を調べることだ。


 暑い日差しが窓から差し込む。私はカフェから外の様子を眺める。




「こんにちは」




 お客さんだ。翡翠くんが声を上げた。




「いらっしゃいませ。ハク兄、お客さん!」




 カウンターの奥から、琥珀さんが出てくる。お客さんはきれいな女性だった。白いワンピースに、ふちの広い帽子を被っている。リゾートにいるお嬢様と言った感じだ。


 琥珀さんが女性をテーブル席に案内すると、水晶さんがお冷やを持ってきた。




「いらっしゃい……って、白銀さん?」


「きゃぁ! 水晶くん!」


「知り合い?」




 小さく叫んだ女性ーー白銀さんと呼ばれた彼女は、水晶さんの顔を見て口を手で押さえた。琥珀さんに聞かれた水晶さんが、白銀さんを紹介する。




「大学で同じ科目を取ってるんだ」


「……この方は?」


「うち、兄弟でカフェやってるの。エプロンしてるのがハク兄で、テーブルにいるのが翡翠と、同じクラスの真珠くん」


「ども」




 翡翠くんが会釈すると、私も挨拶する。




「……女の子?」




 白銀さんがつぶやいた。まずい。私が女だって気づかれた? 私は誤魔化すため首を振った。




「はっはっは、俺、そんなに女顔?」


「いえ、翡翠……くんのこと」




 なんだ。私はいらぬ恥をかいた。だけど私より翡翠くんのほうが女顔って。女だってバレたら困るのだが、本当の男の子が女子と間違われて、私は平気というのもな。


 白銀さんは、翡翠くんを見つめる。見つめられた翡翠くんはというと、照れくさいのか顔を背けた。




「琥珀さんと翡翠くんは、水晶くんのご兄弟なの?」


「うん、そうだよ」


「私の兄弟になるのかぁ……」


「うん。……ん? えっ?」




 軽はずみな返事をした水晶さんだったが、白銀さんの言葉に目を開く。今、なんて言った?


 琥珀さんが微笑を浮かべる。白銀さんは水晶さんに言った。




「私がこのカフェを教えてもらったのも運命よ。夏休み中に水晶くんに会えなくて悲しかったけど……こうして会えているんだもの」




 お、おぅ……。何だろうか、この押しの強さ。翡翠くんは白銀さんにストレートに聞いた。




「白銀さん、アキ兄のこと好きなの?」


「えぇっ! そんな……はしたない!」


「はしたないって」




 翡翠くんは呆れ顔だ。水晶さんは困っている。白銀さんは水晶さんのことが好きなんだろうけども……。




「ただいま」




 ちょうどそのとき、御影さんが買い出しから帰って来た。ビニール袋をカウンターに置くと、白銀さんに気づいた。




「白銀? まーた水晶に付きまとってるのか」


「失礼な! これは運命よ」


「はいはい」




 水晶さんと同じ大学なら、当然御影さんとも同じだってことだよな。御影さんはエプロンを着けると、白銀さんにオーダーを聞く。




「それで? 何頼むの?」


「水晶くん、オススメは?」


「ビーフカレーとケーキのセットかな」


「じゃ、それを」




 水晶さんが言ったのは、メニューで一番高いものだった。さすがというか、商売が上手い。オーダーを受けると水晶さんがカウンターに入った。一番高い注文な上に、料理するためその場を離れられる。白銀さん、きれいな人だけど避けられてるんだ。




「そう言えば……そこの看板何? 『暗号解きます』って」


「あぁ、それは真珠への依頼募集だ」


「……真珠くん、頭いいんだ」




 白銀さんにじろりと見られる。なんだか値踏みされているみたいで居心地悪い。白銀さんは私に聞いた。




「真珠くんって、ここのカフェに入り浸ってるの?」


「い、いや……って言うか」


「真珠はちょっと事情があってうちに居候してるの」


「鐘くん!」




 朝寝坊した鐘くんが、あくびをしながらのっそりカフェへと降りてきた。その言葉を聞いた白銀さんは、私に冷たい視線を向ける。




「居候? ……水晶くんたちと寝食をともにしてるの?」


「うっ……それはそうなんですけど……」




 やましいことはないのだが、言い方が少しいかがわしい。男だって誤魔化してるけど、私が女だってバレたらまずいかも。白銀さんはどうやら水晶さんのことが好きみたいだし、男だけの兄弟の家庭に女の私が一緒に住んでいるとなると大騒動になりそうだ。




「ちょっと訳ありなんだ」




 琥珀さんが私をフォローしてくれる。性別を偽っているので、少し罪悪感があるけども。




「ふうん……」


「ほら、白銀。カレーな」




 御影さんが無表情で配膳する。




「はわわ、水晶くんの手料理……いただきます」




 白銀さんはカレーをスプーンですくい、口に運ぶ。お昼前だけど、いい香りがカフェに広がる。




「水晶の手料理って、温めてよそっただけだがな」




 御影さんがぼそっと毒づく。それを気にせず、おいしそうに食べる白銀さん。水晶さんや御影さんはうっとうしそうにしているけど、白銀さんってなんで面倒くさそうに扱われてるんだろう? 見た目は美人大学生なのに。




「ところで白銀。お前はどうやってこのカフェ見つけたんだ?」


「秋高生にSNSで聞いたのよ」


「へぇ」




 パクパクと食事を口にする白銀さん。時計を見たら、11時。昼食には早い気もするが、眺めていたら少しお腹が減ったような。




「……僕、昼食作ってくるよ」


「えっ? 水晶くん、行っちゃうの?」


「ごめんね~。じゃ、また大学で」


「逃げたな」




 カウンターの流しで洗いものをしていた御影さんが舌打ちする。私たちは白銀さんの食事が終わるのを待つ。カレーを食べたあと、ケーキを出すと、白銀さんはそれをスマホで撮影した。


 アイスコーヒーを飲んでいた私たちだが、飲み終わるとちょうど白銀さんも食べ終わって会計を頼んだ。




「おいしかったって、水晶くんに言っておいてね」


「……金払いが悪かったら出禁にするからな」




 御影さんのひと言がお客に対してのものじゃなくて苦笑いする。白銀さんが出て行くとテーブル会計をした御影さんが、レジにカルトンを運ぶ。お札を手にしたとき、違和感があった。




「ーーなんだこれ」




 御影さんが言葉を落とす。お札と一緒に置かれていたのは、例のGと書かれたカードだった。

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