7-1 暗号解読?
スパコン・博に公式を入力したが、RSA暗号のほうは自力で解かないとダメらしく、仕方なくカフェでノートを開く。『α、♄、1/17』、『8、5、1/17』、『680、17、5』これらが指し示す場所ってなんだろう。衛星か隕石の座標なら、マップに入力したらわかるだろうか。
カフェで翡翠くんと考えていると、琥珀さんがテーブルに来た。
「何か飲み物はいる?」
「えっと……翡翠くんは?」
「僕はアイスレモネード」
「じゃ、俺も」
オーダーすると、また数式に目をやる。αと♄は数字に置き換えられる。でも1/17って? 分数はハングル文字に置き換えられるのはわかるのだが、うーん。分数の前にαと♄も謎だ。これらは天文記号。……待てよ。αと♄を数字に置き換えられるなら、1/17ももとは天文記号なのでは?
私はスマホで天文記号を調べる。ネットでは天文記号が10あるらしい。1/17という数字に関係していると思われる事象は、コンピューター言語のunicode17だ。♄は鉛を表しているらしいが、もしかして1/17というのも何か成分を表しているーー? ダメだ、なんにもわからない。
琥珀さんがレモネードを運んでくれる。私はストローに口を付けた。翡翠くんが私のノートを見るが、やはり何もわからないらしく、頬杖をついた。
「もし、1/17がコンピューター言語を表しているとしたら、やっぱり隕石落下の計算式と関係あるかもしれない」
翡翠くんがつぶやくと、私もうなづく。しばらく数式とにらめっこしていたのだがーー。
「あぁっ!?」
「どうした、真珠。何かわかったの?」
翡翠くんがこちらを見る。これってもしかして、すごいことじゃ?
私は気づいたことをその場にいる滝瀬兄弟に告げる。
「680、17、5を、全部一桁になるまで計算すると、5、8、5。この3つを全部足して一桁にすると9。9に関係あることを調べてみたら、何かわかるかも?」
私はスマホで『天文記号 9』と調べてみる。すると気になるワードが出てきた。
ーー『プラネットナイン』。Wikipediaの説明を読んでもよくわからない。だけどもそこに『太陽周回期道』との表示。私が解いた数式が表していたのは、この太陽周回軌道のことなのでは。
翡翠くんも同じようにスマホのデータに目を向ける。
「隕石落下の可能性はわかったけど、つまりこの太陽周回軌道を通って落ちてくるかもしれないってこと?」
「うん。数式から察するに、そんな感じだね」
「私たちが何かできることはないかな?」
エプロン姿の琥珀さんもあごに手を当てて首を傾げる。何かできることーー今のところ、実務隊であるモモンガーにお願いしたいことはない。だけども隕石が落下するならば、モモンガーの手を借りなくてはいけなくなるかもしれない。
「太陽周回軌道から隕石や衛星が落ちるかもしれないってことだよね」
カフェでぼーっとしていた鐘くんが、目を輝かせる。隕石落下なんて、喜ぶことじゃないだろう。翡翠くんが叱咤する。
「鐘、なんで嬉しそうなんだ。地球の危機だぞ」
「そこをオレたちが救ったら、すごいことじゃん!」
「ヒーローは平和を望むんだけどなぁ……」
琥珀さんがため息を落としたところ、ドアが開いた。来客だ。
「いらっしゃいませ、って、金澤くん?」
「ども」
琥珀さんがお冷やを持ってくる。翡翠くんと私の座っていたテーブルに金澤はついた。
「……で、何かわかった?」
「……」
私と翡翠くんは顔を見合わせた。どうしたものだろう。わかったことはあるのだがーー結構物騒な話だ。何せ隕石が落下しそうなのだから。
「小城の腕を持ってしても難しい、か」
「いや……わかったことはあるんだけど」
「なんだよ、それは。言えないこと? 俺、依頼者だぞ」
金澤はムッとする。依頼者に黙っているのはよくないだろうか。私の代わりに翡翠くんがぽそっと話した。
「実は……隕石落下の可能性があることがわかった」
「えっ!? ……そんなことがわかったのかよ」
私はぽつぽつとわかったことを話し始める。3つのRSA暗号と、みはじの公式。RSA暗号でわかったことは、太陽周回軌道のことだ。太陽周回軌道上の隕石が落ちる可能性があるかもしれない。
「隕石落下の位置ってわかるのか?」
「それは解析中。俺がわかったのはそれくらいだ」
金澤が最初に持ってきたTRPGの暗号が示していたのは宇宙科学館。そこでわかったのは隕石落下の可能性。さらに暗号があった博物館へ行って得た数式をスパコンに入力して、自力でもRSA暗号を解いた。十分過ぎる働きだと思うけど、実際今現在直近で隕石が落下するかどうかはわからない。
落ちるとしたら、いつ、どこでだ。それがわからなかったら意味がない。
「だけど、TRPGが宇宙科学館の座標だったんだし、3つのRSA暗号も座標の可能性はあるんだよね」
私がつぶやくと、金澤はテーブルを軽く叩いた。
「それだよ。隕石落下地点がわかるなら、注意できるじゃん?」
金澤にたきつけられ、私はスマホを見つめる。座標の確認をするなら、やっぱりスパコンのほうが確実そうだ。
金澤はスマホを見ていた私をじっと見て、せせら笑った。
「ーーでも、それだけわかれば上等だ。さすがだな、小城」
「で? 報奨金は出るの?」
鐘くんが金澤に聞くと、腕を組んだ。
「ここまではただのチェックだ。小城、お前は試験クリアだよ」
「なにーー?」
金澤はクリームソーダを飲みながらスプーンを私に向ける。試験って、なんだ。私は何も聞いていないのだが。
反応したのは翡翠くんだった。
「金澤、キミは一体……」
「俺? 俺はただ、暗号解読を依頼しただけ。この暗号は俺たちでも解けなかった。小城はそれを難なく解いたんだよ」
『俺たちでも解けなかった』という言葉が引っかかる。金澤は一体何者なんだ? 同じ高校の天文部ということしか知らないのだが……。
「もしかして、金澤、キミーー」
「進捗も聞いたし、そろそろお暇するよ。ごちそうさま」
金澤はそう言って琥珀さんに支払いをすると、また暑い外へと出て行った。
「何かはぐらかされた?」
「金澤は要注意人物なのかもな」
翡翠くんは、クリームソーダのグラスを片付ける。私もテーブルを布巾で拭いた。金澤は私たちの敵なのだろうか。わからないことはいっぱいだ。




