6-3 お兄ちゃんズ
銃声の聞こえたほうへ顔を向けると、見覚えのあるむささびヘルメットが目に入った。
「隙あり!」
「!」
その瞬間、翡翠くんが私の体を引き寄せる。男は素早く振り向くが、そこにモモンガーふたりが到着した。
「誘拐未遂の犯人め! 僕たちが相手だ!」
「むささび戦隊モモンガー、参上!」
マントの色からわかる。水晶さんと御影さんだ。
「とうっ!」
モモンガーブラックがヌンチャクを振り下ろすと、男は武器である拳銃を落とした。
「ちっ!」
男は私を蹴り飛ばして、コンビニから出て行く。ようやく店員さんがこの騒ぎに気づく。
「け、警察!」
「……は大丈夫だ! 俺たちがいる」
ブラックが安心するように声がけをする。モモンガーブルーは構えていた拳銃を下ろした。
男はカードのようなものを翡翠くんに向けて投げると、その場から撤退しようとする。
「翡翠、犯人は!?」
「わかってる!」
翡翠くんはウエストポーチからブーメランを取り出すと、逃げようとした犯人に向けて投げ飛ばした。しかし、鎖の長さが足りず、翡翠くんの手元に返ってきた。男は振り向きもしないで店から出て行った。
「……逃がしたか……」
小さく舌打ちする。モモンガーたちは、私の元に寄ってきた。
「真珠、平気か?」
「はい、一応は……でもおふたりとも、来てくれたんですね」
「モノレールが止まっているとニュースになってたんだよ。それでハク兄が迎えに行ったほうがいいんじゃないかって」
それで心配して迎えに来てくれたのか。ありがたい話だ。モモンガーの格好のふたりは、私と翡翠くんをコンビニの外へ連れ出す。そこには車が止まっていた。黒いバンだ。
「行きは僕が運転してきたから、帰りは御影ね」
「わかってるって。さ、乗れ」
私は翡翠くんと後部座席に乗る。水晶さんは助手席だ。シートベルトを締めると、車は発進した。
「……」
「それ、犯人が投げたカード、だよね」
私は翡翠くんの手元を見る。持っていたのは見覚えのあるマークだった。図書館や大学でも同じものを私たちは見ている。「G」の文字が書かれたカードだ。
「これは、真珠を狙っている輩が本に挟んだりしていたってことだよな」
「なになに。その話、僕ら聞いてないんだけど」
水晶さんが後ろの座席をのぞき込む。翡翠くんは持っていたカードを前に回した。図書館の本に挟まっていたカードは、私たちへの宣戦布告だったのだろうか。お兄さんズにも不気味なカードのことを説明する。
御影さんがぼそっと言った。
「犯人は、真珠に存在を示すのが目的だったのかーー? でも、何のために……」
「俺の頭脳が目的みたいなんですよね」
「……ヘッドハンティング……とか?」
翡翠くんがつぶやく。ヘッドハンティングと言っても先ほどの不審な男とか、手荒な真似ではある。武器を突きつけられていたし。ヘッドハンティングだとしても、相手がどんな組織なのか、その説明すらないのだ。そもそもGという文字は何を表しているのだろうか。
車の中はクーラーが効いていて涼しい。車内でまたペットボトルに口を付けた。
「G……あっ」
「真珠、何かわかったのか?」
「もしかしてですけど、『グラビティ』……引力のG とか?」
「そんなこと言ってもGがつく英語なんて、いくらでもあるよ」
「そっか」
翡翠くんにツッコまれるが、確かに。『グラビティ』だけじゃなく、『ジェミニ』とか。星座や宇宙に関する意味はともかく色々ありすぎる。
「このカードの指紋とか調べたらいいんじゃない?」
翡翠くんの提案に、御影さんは首を捻った。
「調べるとしたら、警察の指紋データバンクくらいしかない。前科者じゃないと、情報は出てこないぞ」
「瑪瑙さんが学校の刃傷沙汰を調べていたから、その情報があるかもしれないけど」
「そもそも指紋が付いているか、疑問だが」
水晶さんと御影さんの話をBGMにして、車は走る。台場方面から首都高を抜けて、地元の方向に進む。暑い中駅まで歩いたりしていたので、車に乗せてもらうと本当に楽だ。
「……あれ、雨?」
先ほどまでは日差しが眩しかったのに、今は曇天。車のガラス窓に、斜めに雨の雫が走っていく。
「夏場の天気は変わりやすいからね」
水晶さんが笑うと、翡翠くんはため息を付いた。
「ラッキーだったね。折り畳傘持ってなかったから」
「本当だね。琥珀さんに感謝だよ」
琥珀さんが言ってくれなかったら、水晶さんと御影さんは迎えに来てくれなかっただろう。それに、また襲われて、電車が止まって今回は誘拐未遂……。
「犯人、もしかしたらコンビニで待ち伏せしてたんじゃ……。電車が止まったら俺たちがJRの駅を使うことも予測してたとか」
翡翠くんもうなづく。
「その可能性はある。だけど、真珠が言う通り、話がでかすぎるよ」
「真珠くんの頭脳はそれだけすごいってことじゃない?」
水晶さんは笑うけど、周りを巻き込みすぎなのでは。電車を止めるなんて、大騒動だ。
助手席でスマホをいじっていた水晶さんだが、先ほどの電車遅延の原因を詳しく調べてくれている。
「SNSでは車両故障だって書いてあったけど」
翡翠くんが言うと、水晶さんが付け加えた。
「車両故障が見つかったのは晴海らしい。だけどーー故障が見つかるの、珍しいよ、この路線は」
御影さんも運転しながら渋い顔をする。
「強風で止まることはままあるみたいだけどな。だけど、人為的なものかどうか、それだけの情報じゃわからんな」
ワイパーが左右に揺れる。ささやかに濡れる車窓に、雨の飛沫が走っている。翡翠くんと私は、左右違う風景を眺めていた。そのとき、ぐぅ……とお腹の音がなって、赤面する。水晶さんが笑った。
「もう昼時だもんね。昼ご飯どうする?」
「高速降りたら適当にドライブスルーにでも入るよ」
御影さんが言うと、翡翠くんが軽くガッツポーズする。お腹が減っていたのは私だけじゃなかったようだ。
「翡翠、支払い頼むぞ。俺たちはモモンガーのコスチューム着てるから」
そうだった。ヘルメットは脱いだとは言え、この衣装は派手すぎる。
首都高を降りると車道が広がる。御影さんは、路肩にあるファストフードのドライブスルーに侵入した。




