6-2 遅延
お茶をしたあと、スロープを下って2階へ。2階はフロアではなく、衛星や隕石の落下に関するシミュレーションだけがある。私たちはその機械に近づいた。
「画面に触れると、飛来物が爆発するみたいだね」
ゲーム感覚で画面に触れる。隕石やスペースデブリが破壊されるのを、私たちは見つめる。
「この画像って座標とか関係してるのかな」
私が首を傾げると、翡翠くんも唸った。この画面が本当に地球環境とリンクしているなら、画面の座標から衛星、隕石迎撃も可能だということだ。この画像をヒントに、先ほどのRSA暗号が解ければよいのだが。
しばらくシミュレーションの前に立って、飛来物の迎撃をしていた私と翡翠くんだが、とりあえずヒントは得た。あとはノートにまとめたりすれば、何かしらの成果があるかもしれない。
「翡翠くん、あとでスパコン貸してくれる?」
「あぁ、さっき気づいた『みはじの公式』か」
「うん。今宇宙空間にあるスペースデブリとみはじの公式を入力したら、もしかしたらーー」
「なるほどね。じゃ、善は急げだし、帰るか」
科学博物館を出ると駅へ向かう。歩きながら私はRSA暗号についてもう一度考える。α、♄、1/17……。この3つの暗号と衛星、隕石の距離、速さ。何か当てはまるのかもしれない。
ゆりかもめの改札に到着する。ICカードをかざしてホームに出ると、電車が止まっていた。一度車両に乗り込むが、なかなか動かない。
おかしいと思った私たちは、電光掲示板を見る。どうやら電車が遅延しているようだった。
「困ったね。電車止まってる」
「このタイミングでか……ついてないな」
電車からホームに降りる。車内はかなり混雑していた。私たちは立ち往生だ。早めに家に戻ってスパコンを使いたいのに……。私は何が原因で電車が遅延しているのか調べる。
「車両故障らしい」
「どうする? ここで電車が止まると、陸の孤島だ」
翡翠くんが腕時計を見る。まだ午前中ではあるが、夏の日差しは強い。かと言って、電車が動くのを待っているのも時間がもったいない。暑いことは変わらないし。スマホの情報では、運転再開の見込みは立っていないらしい。この暑い中、電車が止まるなんて……。
私は少し考えて、頭を抱えた。
「翡翠くん、まさか……まさかだよ。電車遅延も私への嫌がらせとかじゃないよね?」
「さすがにそれはないんじゃ……とは言い切れないな」
学校に刃物が置かれたり、大学でボヤ騒ぎがあったり。そして今度は電車遅延。私が狙われているから? だとしたら、なんでこんな嫌がらせをするんだろう。少し出かけるだけでこんなに色々起きたら、当たり前のように迷惑だ。
電車から降りた私と翡翠くんは、係員さんにICカードを見せて一度改札の外に出た。運転再開の見込みもないなら、仕方ない。ふたりの出した答えは一緒だった。暑いけど少し歩いて在来線のある駅へ向かおうという結論だ。
夏の暑さは尋常じゃない。足止めされているのは不愉快だけど、JRの駅まで行って帰るしか手立てはない。
モノレールの駅を出ると、翡翠くんはスマホをかざした。
「ここから近くの駅に行くとしたらーー方角はあっちだ」
翡翠くんはスマホを方位磁石代わりに使う。地形もわからない場所だし、歩くのは熱中症になりかねないのだが、それでも歩かないと帰れない。
ふたりでとぼとぼと駅方面へ向かって歩き出す。風は吹いているのだが、海風だからだろう。少々湿っていて体力が削れる。
夏休み。この辺はテレビ局とか観光する場所がたくさんあるのに、私たちが歩いている場所は、人っ子ひとりいない。夏の暑さの影響だろうか? 観光地なのに閑散としているなんて。だけど大きなトラックは多く走っていた。
私と翡翠くんは、無言で歩く。さすがに話ながら歩くとバテそうだ。ーー喉が渇いた。だけどこの辺は自販機もない。
「翡翠くん、大丈夫?」
「……なんとか。でも一度クーラーの中で休みたいかな」
「俺も」
クールシェルターはないだろうか。こんな都心なのに、気楽に入れるクールシェルターがないって……。この辺に勤めている人たちって、普段モノレールを使って移動してるのだろうか。だとしたら止まってしまったら代替手段がないような。私たちはJRの駅に向かっているけど、夏の暑い中歩くのは結構大変だ。しばらく歩くとラッキーなことにコンビニを見つけた。
「コンビニ寄っていい?」
「僕も飲み物買うよ」
私たちはクーラーの効いているコンビニに逃げる。この辺のオフィス勤めの社員さんのためにあるのだろう。
私も翡翠くんも、手にしたのは経口飲料水だった。夏場はお茶より糖分の入ったもののほうがよい。
ICカードで支払いすると、イートインスペースに座る。ひと息つくが、まだまだ駅までは距離がある。私はペットボトルを口にした。翡翠くんもだ。
クーラーの中で涼んでいた、そのときだった。イートインスペースは、まだ昼休み前だからかほとんど人がいない。私と翡翠くんだけだ。そんな中、サングラスの男が私の背後に立った。何だか不気味だなと思った瞬間ーー小声ですごまれる。
「……小城真珠、だな。動くな」
「っ!」
背中に何かごりっとした物を突きつけられると、私はつーっ……と冷や汗が出るのを感じる。目の前に座っていた翡翠くんもハッとする。
「……お前は何だ」
「お兄さん、騒ぐなよ。手元が狂ったら危ないだろう?」
「……」
何か突きつけられているので、振り向くことができないため、相手がどんなやつかわからない。だけどこれってやっぱり、私の頭脳を狙ってる……よね。翡翠くんは中腰になる。いつでも飛びかかれるような体勢だ。だけども男は武器を持っている。コンビニのカウンターに目をやるが、店員さんは気づいていないようだ。
「……何が目的だ」
「真珠くんだよ。わかるだろう」
「……」
私の頭脳か。男は私の腕をつかむと、立ち上がらせようとした。どうしようーー翡翠くんを見つめるが、相手がどんな武器を持っているかわからない。
「立て。行くぞ」
「翡翠くんっ!」
私が声を上げた、そのときだった。パンッと銃声のような音が響いた。そちらの方向にいたのはーー




