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滝瀬さん家と四則演算  作者: 浅野エミイ


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5-3 星空

 翌日。宇宙科学館は朝9時からとのことで、私たちはのんびり朝散歩を兼ねて目的地へ向かっていた。




「宇宙科学館なんて、小学校振りだよ」




 中学生の鐘くんが言うと、翡翠くんも同意した。




「確かにあんまり縁がない場所だね」




 宇宙科学館はドルフィンからあるいて20分くらいの場所にある。割と近所なのだ。昨日夜に雨が降ったせいか、朝は路面が水に濡れていて、若干涼しい。朝早くに散歩と言うのも悪くはない。球体型のプラネタリウムが見えると到着だ。


 開館時間が過ぎているので、そのまま入館する。科学館の1階には、子どもたちが楽しめるようなものがたくさんある。飛行機の操縦練習の機械や、人力発電できる自転車ペダル。だけど今日の目的は、暗号解読だ。




「何かわかることあるかな」




 つぶやく私を尻目に、鐘くんが人力発電の自転車を漕ぎはじめる。




「おぉっ! すっげえ。漕ぐと電気がつく」


「暗号そっちのけで遊ぶなよ」




 翡翠くんが呆れる。宇宙科学館は案外広い。私が解いた暗号は、この場所を示していたけれど……宇宙科学館に何かあるのか?


 楽しむ鐘くんを置いて、私は翡翠くんと2階に上がる。2階では、星空の案内の他に図書コーナーもある。本棚には理科年表や、宇宙飛行士を題材にしたマンガ、星空写真集などが置かれていた。


 何気なく、分厚い理科年表をチラ見する。……こんな分厚い本、すべて理解できるわけがない。この本を編集した科学者に頭が上がらないな。


 ひとりでそんなことを考えていたら、翡翠くんも同じように理科年表を手にした。




「……」




 ……また私に張り合ってるのかな。そう言えば、翡翠くんは数式より物理に興味があるって言っていたな。私は声をかけた。




「翡翠くん、面白い? 何か新発見とかあった?」


「いや。こんな分厚い理科の本なんて、あること知らなかったから……。僕の知識なんて大したことないんだなって」


「それを言うなら俺もだよ」


「数学オリンピック出場予定者に言われてもね」




 それを言われたらぐうの音も出ないんだが。苦笑いを浮かべると、気象衛星のコーナーへ足を向ける。衛星の作りや軌道の説明などがテレビから流れていた。


 細かな情報は、パネルにまとめられている。そのパネルを見ると、どうやら数年後に気象衛星ひまわりが地球へ帰還すると書かれていた。




「もう少しじゃん」




 つい口をつく。地球に帰還って、衛星が落下してくるってこと? パネルを眺めていたら、理科年表を見ていた翡翠くんもこちらに来た。




「真珠、キミ……衛星の軌道とかわかる?」


「なんで?」


「宇宙の話は数学につながるって言ってたよね。だったら衛星や隕石が落下するのを防いだりできるのかなって」




 翡翠くんの言葉に、私は閉口した。暗号の解読が導いているのは、もしかしてーー




「衛星や隕石が落下する可能性があるって気づかせるために、暗号を解かせてる、とか」




 翡翠くんも私の言葉に黙る。気楽に始めた暗号解読だけど、まさか地球のピンチを報せるためのものだったとか。


 私は衛星についての説明を、真剣に読み込む。衛星や隕石は割と頻繁に落下しているようだが、地球への被害はないのだろうか。




「何かわかった?」


「地球に被害がある可能性があることはわかったけど……まだ何かヒントとかないかなって」




 展示コーナーを回っていると、人力発電のところにいた鐘くんがこちらに来た。




「ふたりとも、いつの間にかいなくなってたから探したよ!」


「ごめん、ごめん」


「それで? 宝物でもあった?」


「……」




 私と翡翠くんは顔を見合わせた。あったのは宝物ではなく、地球のピンチを報せる掲示物。だけど、隕石や衛星が落下するとして、それを防ぐ方法はあるのだろうか。それだけではなく、衛星や隕石の軌道の計算式を導かなくてはいけないだろう。それができるのはーー。真珠は自分の背負っているものの重さに気づくと、頭を抱えた。




「だけど真珠、軌道の計算式なんてわかる?」


「わからん」




 わからないけど、解かなきゃいけない。と言うか、数学オリンピック出場者くらいじゃないと解ける人がいないだろう。


 衛星についてのパネルの前で途方に呉れていると、鐘くんに顔をのぞき込まれる。私も翡翠くんも、わかったことは最悪だ。




 場所を移動して、私たちは喫茶コーナーにある自販機で飲み物を買うことにした。気分転換にレモンソーダのボタンを押す。翡翠くんはマンゴージュースで、鐘くんは乳酸菌飲料だ。


 開いているイスに座ると、ソーダを口にした。炭酸がシュワシュワしていておいしい。宇宙科学館の中はクーラーが効いているのだが、それでも冷たい飲み物はおいしい。


 机の上に、私は持ってきたノートとペンを置く。ソーダを飲むと、ペンを手にした。


 ーー今日わかったこと。隕石や衛星は常に落ちていて、その軌道を計算しなくてはならない。


 私は翡翠くんにこそっとささやいた。




「地下のスパコンで、軌道の計算ってできないの?」


「さっきの理科年表を読む限り、衛星の数は3万基はあるらしい。あと、元にする数式がわからないと……」


「数が多いね」




 鐘くんも首を捻る。衛星や隕石の数と、基本になる数式。私ひとりだけでそれを計算できる保障はないわけで。あと、もう少しヒントがないと、数式を導くこともできない。


 解いた暗号は宇宙科学館を示していた。そこで地球への落下物の被害があるかもしれないことに気づかされた。あとは飛来物の被害対策として、軌道の計算方法を考えるーー。




「10時からプラネタリウムがあるみたいだし、見に行こう」




 鐘くんが待ちきれないと言った感じで、翡翠くんの腕を引っ張る。そもそも鐘くんの目的はプラネタリウムだったからな。


 入り口でチケットを購入すると、プラネタリウム前に並ぶ。夏休みだからか、子どもたちが多い。自由研究でもするのかな。


 シャッターが開くと、私たちは席を探す。




「この辺でいいかな」




 私たちは真ん中辺りに陣取って、背もたれを倒す。プラネタリウム内部は涼しい。しばらくするとブザーが鳴った。いよいよ開演だ。


 星空散歩で、夏の大三角形や星座の説明を受ける。暗い空に明るい星々。ーーきれいだな。ただ、純粋に私は星を見上げてそんなことを思っていた。

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