4-3 勝負!かき氷
水晶さんは勝負だ! なんて言っているけど、琥珀さんに認められるかなんて別に気にしないのだが。翡翠くんは苦々しい表情を浮かべている。口には出していないけど、迷惑そうだ。ひとりっ子の私からしてみたらうらやましいんだけどね。
「勝負って、どうするのさ。何で勝ち負け決めるの?」
鐘くんが首を傾げる。水晶さんはあごに手を当てて考える。ちょうどそのときカフェの扉が開いた。
「あっちぃ……ただいま」
御影さんだ。大学から帰ってくると、琥珀さんは水を出した。
「暑かったでしょ」
一気にグラスに注がれた水を飲み干す。その様子を見ていた水晶さんは、手をポンと打った。
「御影、鐘、かき氷食べたくないか?」
「食べるー!」
「あるならもらう」
水晶さんの質問にうなづくふたり。かき氷がなんだと言うんだろう? 不思議に思っていたら、水晶さんはカウンターの裏に置かれていた手回しのかき氷削り機に視線を送った。
「ふっふっふ……どちらが早くかき氷を削れるか、勝負だ!」
……私は口をあんぐり開けた。どちらが弟としてふさわしいかなんて関係ないじゃないか。翡翠くんに目をやると、こっちも頭を抱えている。でも、当人である琥珀さんはにこやかに微笑むばかり。
「御影も鐘もかき氷食べたいみたいだし、いいんじゃない?」
ずいぶん楽観的だけど、まぁ……水晶さんがやりたいって言うなら仕方ないのでは。翡翠くんは乗り気ではないようだが、他の兄弟はかき氷を待っている。
「わかったよ、やればいいんでしょ?」
「ハク兄、どっちが弟に相応しいか、見ててね?」
「はいはい」
琥珀さんが返事を軽くしたら、氷をスタンバイさせる。計測機は御影さんの腕時計だ。
「まずは水晶、用意……スタート!」
「うおおっ……!」
シャリシャリシャリと軽快な音を立てながら氷を削っていく。その間、鐘くんにどのシロップをかけるか訊ねる。
「そうだなぁ~、やっぱり宇治抹茶かな」
「渋いね」
「うちはカフェだから、お茶系選ぶっしょ!」
「それなら小豆とバニラアイスも出さないとね」
琥珀さんが冷蔵庫から小豆やバニラアイスを取り出す。見ていると、私も食べたくなってしまう。
「はい、一丁!」
かき氷が出来上がる。時間は……3分24秒。これが速いのかどうかの相場はわからないが、琥珀さんは受け取ると、氷の山に小豆とアイスをトッピングして鐘くんの前に出した。
「うまそ……いただきます!」
「じゃあ、次は翡翠の番だな?」
「……」
翡翠くんは削り機の前に立つと、氷を補充してハンドルに手を置いた。御影さんは再び時計を確認する。
「次は翡翠だな。行くぞ? よーい、スタート!」
「っ……!」
翡翠くんもガリガリと氷を削る。
「みか兄、シロップは?」
「お前の宇治抹茶もうまそうだが……そうだな、琥珀、他に何があるんだ?」
「メニューくらい覚えておいてよ」
「すまん」
琥珀さんからメニューを受け取ると、御影さんはかき氷のシロップを選ぶ。私もメニューを見せてもらうが、なかなか気になるものがある。レモネードとか、ブドウとか、アイスティーなんかもあるらしい。
「レモネードって、夏場良さそうですよね。クエン酸……でしたっけ?」
「そう。夏バテの体においしいかなと思ってね」
琥珀さんが嬉しそうに話す。その話を聞いていた御影さんは、レモネードに決めた。
「……できたあっ!」
翡翠くんが手を挙げる。かき氷の完成だ。タイムはーー
「3分48秒。水晶の勝ちだ」
「くっ……マジかぁ」
「兄に勝とうなんて、百万年早いってことだな?」
腕組みして偉そうにふんぞり返る水晶さん。琥珀さんは翡翠くんの削ったかき氷に、レモネードをかけて御影さんのテーブルに出した。
「ところで……私も食べたくなっちゃったなぁ。真珠くんもでしょう?」
「え? あ、はい。おいしそう……」
「ってわけで、私と真珠くんの分もかき氷、用意してくれないかなぁ?」
「よし来た! 兄のわがままや無茶ブリに答えられなきゃな!」
琥珀さんのおねだりってすごい。普段兄弟を率先しなきゃいけない立場なんだろうけど、弟をたきつけたりもするんだな。
乗せられた水晶さんは、私と琥珀さんの分もかき氷を作る。
「他にあるシロップってなんですか?」
「チェリージュースとかメロンソーダもあるよ」
「へぇ……迷うなぁ。翡翠くんだったら何にする?」
「うーん、それならメロンソーダかな」
「私はチェリージュースにしよう。琥珀さんは?」
「そうだね……迷うな。調子に乗って、かき氷のメニューを増やしすぎたかもね。ははっ」
笑いながら琥珀さんは、カウンターの下から何か大きな瓶を取り出す。……ん? これって……。
「あっ! ハク兄、秘蔵の梅酒じゃん!」
水晶さんが指をさすと、琥珀さんはニヤリとした。
「私は裏メニューの、梅酒かき氷。毎年これが楽しみでね。6月頃から梅酒を漬けているんだけど、泡盛で作ってるんだよ」
「……ずるいよ、琥珀」
「オーナー特権だよ」
「じゃ、僕も……いい?」
御影さんが言っても琥珀さんは素知らぬ顔だ。水晶さんも琥珀さんと同じ梅酒を選ぶと、かき氷に原液をかける。ドルフィンって、アルコールOKなんだ。裏メニューとは言っているけど、カフェだからかな。
水晶さんが私と翡翠くんの分もかき氷を用意してくれたので、シロップをかけた。
全員にかき氷を用意すると、さっそくいただく。各々好きなシロップがかかった冷たい氷は、夏の暑さの絶好のお供だ。しゃくしゃく音を立てて口に入れる。
「そうそう、このかき氷の氷も、長瀞から運んで来てもらってるんだよ。天然だからおいしいでしょ?」
「……氷にうまいとか、あんまりわからないけど」
情緒がないコメントをする鐘くんだが、私は個人的に氷が甘く感じた。シロップも甘いんだけどもね。
「長瀞にあるかき氷屋さんって、メニューがたくさんあるんだよ。それにインスパイアされたはいいけど、メニューが増えすぎたね」
「でも、選ぶのも楽しいですよ」
「ありがとう、真珠くん」
こうして滝瀬兄弟と本場のかき氷に舌鼓を打つと、暑い中歩いて火照っていた体が少しは涼しくなったような気がした。




