4-1 ピザトーひとつも作れない!
夏休み2日目。まだ朝なのに夏のじりじりとした日が部屋に差し込んでくる。今朝は光がまぶしくて目覚めた。大きく伸びをすると、あくびが出る。
「う~ん、よく寝た」
思わずこぼれるが、同い年の男子と一緒の部屋なのに緊張感がない。我ながら落ち着きすぎているのはいいことなのか。
「……」
ベッドを見ると、まだ翡翠くんはぐっすり夢の中のようだ。起こさないように静かに部屋を出て、顔を洗う。廊下で琥珀さんとかち合った。
「おはよう、真珠くん」
「おはようございます」
琥珀さんも寝起きだからか、いつも以上にほわほわしている。長い髪もまだ梳かしていない。
「今日の朝ごはん、ピザトーストでいい?」
「あっ、はい。でもなんかいつも悪いですよね……おいしい食事を作っていただいて」
私が恐縮すると、琥珀さんは笑った。
「いいの、いいの。今更5人前が6人前になるだけだから」
「……でも……」
「そんなに気にするなら、朝食作り、手伝ってもらおうかな?」
「はいっ!」
元気よく返事をすると、琥珀さんもにっこりする。
「真珠くん、昨日も風呂掃除と洗い物手伝ってくれたでしょ。私たちのほうが悪い気がするよ……」
「いいえ、遠慮なく!」
「じゃ、キッチンで待ってて。私も顔を洗ったら行くよ」
一旦廊下で分かれると、私は着替えてキッチンへ向かった。
ダイニングテーブルの上を、除菌シートで拭く。その上にランチョンマットを敷いて準備していると、琥珀さんが来た。白いTシャツの上に赤いチェックのシャツを重ねている。イスにかけてあったエプロンを着けると、琥珀さんは手にしていたもう一着のエプロンを私に渡した。
「じゃあさっそく、真珠くんはピザトーストをお願いね。私はヨーグルトサラダを作るから」
「はい」
言われて、食パンを12枚取り出す。6人前だと食パンもあっさりとなくなってしまう。ケチャップを塗ると、玉ねぎ、ピーマン、ハムを包丁で切って、食パンに乗せる。上にはチーズをかけて焼くだけだ。トースターは一度に2枚しか焼けないので、少々時間がかかりそうだ。
琥珀さんはと言うと、きゅうりとミニトマト、洗ってちぎったレタスの中にヨーグルトとオリーブオイル、塩コショウを入れて混ぜている。ヨーグルトサラダは手早く完成した。
トースターがチンッと音を立てると、お皿にピザトーストを乗せる。テーブルに置くと、いつの間にか滝瀬兄弟は揃って席に着いていた。
「ハク兄、真珠、おはよー……」
鐘くんはまだ眠そうだ。昨日も夜中ゲームをしていたのだろうか。
「今日はピザトーストか。いい香りがする」
「真珠くんが作ってくれたんだよ」
琥珀さんが翡翠くんに説明する。水晶さんと御影さんは手を合わせて、さっそくかぶりついた。
「……あれ? これ玉ねぎ焼けてないよ」
「そうですか? 焼き直しましょうか」
「まぁいいよ」
水晶さんに指摘されてしまった。ピザトーストって焼き加減が難しい。
「真珠、料理は普段しないのか?」
「お恥ずかしながら……」
御影さんの言葉に私は頭をかく。琥珀さんの料理がおいしかったから、余計にピザトーストが下手なのが際立つ気がする。琥珀さんもピザトーストを口にすると、ひと言感想を述べる。
「ピザの具は、一度フライパンで炒めたほうがよかったかもね。でもおいしいよ」
「はぁ……」
フォローしてもらったが、今度作るときはそうしよう。年上3人からの辛口意見をもらった私は、琥珀さんの作ったヨーグルトサラダを食べる。酸味が効いていておいしい。夏の朝にぴったりだ。
でも、一見簡単そうなピザトーストなのに、焼き加減がうまく行かなかったなんて。確かに玉ねぎとピーマンが半生だ。チーズが溶けていたからよく焼けていると思ったんだけどな。
「私と真珠くんが作ったから、洗い物は誰がやってくれるのかな?」
琥珀さんは笑顔で兄弟に圧をかける。鐘くんは目をそらしたけど、水晶さんが手を挙げた。
「僕がやるよ。あと鐘も」
「えっ? オレぇ!?」
「やる気がないやつがやらないと、ね」
水晶さんがウインクすると、逃げようとしていた鐘くんががっくりと顔を下に向ける。
「皿拭きは……御影と翡翠、どちらがやってくれるのかな?」
「じゃんけんぽんっ!」
御影さんと翡翠くんがいきなりじゃんけんを始める。
「あいこでしょっ! しょっ!」
2回あいこが出たが、翡翠くんが負けて、皿拭き当番に決定した。
食事が終わると、鐘くんが皿を流しへと持って行き、水晶さんが洗って翡翠くんが拭く。
手伝い免除だった御影さんだが、冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出して、6人分のグラスに注いで出してくれた。
「夏の朝はアイスコーヒーだな」
「はい、おいしいです。この豆とかって、やっぱりこだわりがあるんですか?」
向かいに座っていた琥珀さんにたずねる。カフェだとよく店長さんが豆を炒るところから始めたりしている。ドルフィンもそうなのかな? と好奇心を持つ。琥珀さんはうなづいた。
「コーヒーは日によって種類は様々なんだ。気分で変えてる。今日はキリマンジャロだよ」
「へぇ……」
「オレはどの豆かとか、コーヒーの味わからないけどね」
「……鐘、それは自慢にならないよ?」
琥珀さんは少し残念そうな表情をする。自分で焙煎しているのにコーヒーの味がわからないと言われると、確かにショックではあるよね。だからと言って、私もコーヒーの味には疎いから、人のことは言えないんだけど。
注いでもらったアイスコーヒーをストローで吸う。……ん。おいしいことはわかる。すっきりしていて後味が残る。豆のフルーティーさというのだろうか?
「豆は詳しくないですけど、おいしいです」
素直な返事をすると、琥珀さんは笑った。
「でしょ? ハク兄のコーヒーは最高だから」
水晶さんが自慢げに言うと、琥珀さんがたしなめた。
「水晶も焙煎できるようにね。そうしたら楽しいと思うよ」
「焙煎、コツがいるからなぁ……」
洗い物を翡翠くんに渡して、拭いてもらう。食器がすべて洗い終わると、やっと翡翠くんはひと息ついてアイスコーヒーを口にした。
「濃いな。牛乳入れていい?」
「カフェラテか。そのままでもおいしいけど、うちの兄弟はままならないなぁ」
琥珀さんはそう笑って、翡翠くんに牛乳を渡した。




