3-3 滝瀬兄弟の日常~University~
昼食を終えると、私と翡翠くん、そして御影さんの3人で駅の反対口にある大学へと向かう。駅前ロータリーからバスに揺られて10分くらいだろうか。離れた田んぼの広がる場所に、大学のキャンパスはあった。
バスから降りると、大学の正門横にあるキャンパスマップを見る。図書館は奥まった場所にあった。
図書館入り口で受付をする。私と翡翠くんは部外者だから。御影さんは学生証を提示して、館内に入る。図書館は予想より広く、案内してくれるライブラリーアシスタントもいるようだ。
「俺は3階でレポートやってるから」
御影さんと分かれると、私と翡翠くんはさっそく図書館探検を始める。
「翡翠くんは何か本借りる?」
「面白そうなのがあればね。そういう真珠は読みたい本あるの? また数学関係?」
「うーん。数学関係の本、どれだけあるかにも寄るかな」
大学の図書館は思ったより充実していた。通り過ぎた宇宙や地理に関する本の棚にも、県立図書館のほうでは置かれていないタイトルがあった。
数学の棚の前に移動して、背表紙のタイトルを眺める。ふと気になった摩擦係数の本を手にすると、パラパラとめくった。
「……それ、興味あるの?」
翡翠くんが私の手元を見やる。私は本に目を落としながらつぶやいた。
「数学は宇宙と密接な関係がある。たとえば、だけど人工衛星がもし地球に落下するかもしれないとなったら……地球を取り巻く人工衛星の摩擦係数を計算しなくてはならなくなるでしょ」
「まあ……」
翡翠くんは難しい顔をする。ページをめくっていると、本から何かが落ちた。
「ん? 何、それ」
落ちたカードを広い上げる。本に挟まっていたのは、県立図書館にもあった「G 」のマークが描かれたカードだった。
「これ、さっきも本に挟まってたやつだ」
「……不気味だな」
「ま、まぁ、偶然か何かじゃない?」
私は気にしていないように笑う。だけど翡翠くんが言うとおり、確かに不気味ではある。
「そうだ。大学の図書館の本に挟まってたんだから、もしかしたらみか兄が何か知ってるかも」
「……そうかな? ここの大学広いし、知ってるかな」
「聞くだけただだろ」
翡翠くんに言われて、御影さんに質問しにいく。御影さんはデスクでレポートを書いていた。
「みか兄。このカードに見覚えない?」
御影さんは振り向いてカードを見留めるが首を左右に振った。
「なんだ、そのカード」
「県立図書館にもあったんだよね。大学の本にも挟まってたから、もしかしてみか兄が何か知っているかと思ったんだけど」
御影さんも知らないというこのカード。まるで私がその本を手にするだろうと先読みされているような感じがして不気味だ。
先読みしていたとしてーーどうしてカードを仕込んでいるのかは謎だが。
一度不気味なカードは置いておき、また再び本棚の海へと繰り出す私たち。翡翠くんはどんな本を手にするんだろう。一緒に本棚の前をうろついていると、翡翠くんは歩みを止めた。目を向けているのは飛行原理についての本だ。
「翡翠くん、飛行機とかそう言うのが好きなの?」
「僕の武器、知ってるでしょ? ブーメランを効率よく投げる方法とかに興味があって」
「なるほど……」
モモンガーも日夜研究してるんだな。私は翡翠くんにたずねた。
「翡翠くんはブーメラン、水晶さんは拳銃……だっけ。モモンガーはみんな武器を持ってるの?」
「まあね。鐘はダーツ、ハク兄は日本刀。みか兄はーー」
「火事だーっ!」
「!?」
1階からだろうか。火災を報せるサイレンが響く。私たちはともかく避難経路を探して、早足で移動する。
「みか兄!」
3階にいた御影さんと落ち合うと、図書館の外へ逃げる。
「あっ!」
「真珠!」
逃げる途中で、思わず転ぶ。手をついて受け身を取ったけど、擦り傷ができてしまった。それでもすぐに立ち上がると、図書館の入り口前に向かった。
「お前ら、大丈夫だったか?」
「うん……」
御影さんの問いかけにうなづくと、翡翠くんが私を見つめる。もしかして、また私が狙われたーー? 私も翡翠くんのメガネの奥の瞳を見据える。
「図書館に行くだけで狙うなんてな」
御影さんが腕を組んで面白くなさそうな表情を浮かべる。私は先ほど擦った手のひらを軽く払う。その動作に気づいた御影さんは、私の腕をつかんだ。
「……見せろ」
「へ?」
「怪我したんだろ?」
「いや……大丈夫ですよ」
「血が出てる。翡翠、絆創膏は?」
「あ、うん」
翡翠くんはカバンの中から絆創膏を取り出す。それを御影さんに渡すと、私の手のひらを軽く叩いて、血が出ている場所に絆創膏を貼った。
「……ありがとうございます」
「だけど参ったな。真珠を狙ってどうする気なんだか……」
私の頭脳を狙ってる? だけど一体何が目的なんだ。ただの嫌がらせでも何でもない。これは完全に犯罪だ。
「……火災、大丈夫なのか?」
御影さんが図書館から出てきた学生に声をかける。
「火は出ていなかったみたいだ。誰かが消防ボタンをいたずらに押しただけらしい」
「よかった……」
何とか一安心ではあったけど、出かけるだけでこんなに大騒動になるなんて。
「真珠、気にするなよ」
「ありがと、翡翠くん」
フォローにお礼を言うと、私たちは大学を後にすることにした。




