二十五話 美術館篇開始
総合博物館の大広間は、夜会の光に満ちていた。
天井のシャンデリアが黄金の光を落とし、
各国の要人たちが仮面をつけて談笑している。
この夜は、博物館創立百周年を祝う“仮面パーティー”。
だが実際には、政治家、企業家、軍関係者が集う
巨大な社交の場でもあった。
「いやぁ、まさか本物の磁天叢雲礫剣が展示されるとはね」
「誰か、この剣を帯刀するのかね。」
軽口を叩きながらも、
誰もが展示室の奥に置かれた刀へ視線を向けていた。
その存在感は、仮面の華やかさをも飲み込む。
世界警察の幹部たちも、
要人に紛れて会場を巡回している。
「……アルバルトは展示室側か?」
「はい。あちらは緊張が走っていますが、
こちらは“平和そのもの”ですよ」
そう言った隊員の声に、
隊長はわずかな違和感を覚えた。
――平和すぎる。
音楽、笑い声、グラスの触れ合う音。
だがその裏で、空気がどこか“薄い”。
ふと、窓の外に目を向ける。
夜空の月が、わずかに霞んで見えた。
「……霧か?」
「いえ、天気は快晴のはずですが」
隊長は眉をひそめる。
気のせいかもしれない。
だが、胸の奥に小さな不安が残った。
その時、会場の中央で声が上がる。
「皆さま、本日は――」
司会者の挨拶が始まる。
要人たちはグラスを掲げ、
華やかな夜会はさらに熱を帯びていく。
だが、誰も気づいていなかった。
会場の隅の影が、ほんのわずかに揺れたことに。




