ハッピーなわけ無いわな
きっとオレは、独りの世界で起こった出来事を後になってこう呼ぶのだろう。
想い出。
想い出にならない過去の話なんてない。
そしてきっとこれからの事もいつの日にかは、想い出と呼べる日が来るのだろう。
だから笑え。
想い出として残ったオレが泣いていたら、オレは嫌だから。
だから、笑え。
泣いた分だけ笑え。
笑った分だけ泣く必要はない。
泣くな、とは言わない。
ただ、その分笑え。
今のオレの物語が。
後になって笑い話に変えるために。
オレは笑うんだ。
*************
目が醒めると、白い天井があった。
あぁ、死ぬと白い天井が見えるのか。
そして、気付く。俺はベッドで寝かされていた。
酸素マスクやら、点滴やら、その他もろもろを付けられながら。寝かされていた。
あと、覚えておいて欲しいことが一つだけある。
酸素マスク、めっちゃゴムの匂いがして、気持ち悪くなる。
付けられる時は気をつけるように。
って、付けられない事が1番良いんだけどね。
「周人!起きたのか!?」
ん?周人って誰だ?
……………あ!そうそう俺でした。
長い間呼ばれていなかったので、一瞬誰の名前なのか分からなかった。
親父とお袋が付けてくれた俺の名前。
遠周りしてでも良い人になれるように。
そんな意味が込められた、俺の名前。
…でもな、俺は親父とお袋に物申したい。
いやいや、別にこの名前が気に入らないわけじゃない。
むしろ気に入っている。
ただな、『遠周り』じゃなくて『遠回り』が正解だと思うんだよ、俺は。
いやまぁ、気に入っているから文句ではないんだけれど。
とにかく、俺の名前が呼ばれた。
それも親父の声だった。
つまり、この世界には人がいるという事。
俺以外にもいるという事。
いつぞやの俺の疑問の答えが出た。
独りの世界で死んだらどうなるのか?
答えは至ってシンプルだった。
ただ、元の世界に戻る。それだけだ。
笑えるほど簡単で、少し吹き出しそうになる。
じゃあ、今までの俺はずっと空回りしてたって事か?
なにそれ。笑うわ。……ホント笑うわ。
体は毛ほども痛くない。全くの健康体だ。
自分で酸素マスクやらを外す。
そして地面に立つ。
勿論、今までベッドに寝ていたから、裸足だ。
そして、アロハ服も着ていない。
…俺以外の人がいるこの世界に、少しだけ、ほんの少しだけ違和感を感じた。その事については、驚きはない。ここ最近ずっと独りだったから。違和感を感じるのも当たり前なものだと思う。
*************
すぐに、医師のところに連れて行かれた。
どうやら俺は3ヶ月ほど、意識不明の重体だったらしい。
その3ヶ月とは、俺が独りの世界で過ごした時間と一緒だった。あれは、あの世界は夢だったのだろうか?
医者からは「奇跡だ!」とか「あり得ない…」とか、そんなリアクションを受けた。
…俺ってそんな重大だったの?
*************
それから少しして、正確に言うならば、精密検査を受けるための1週間経ってから、退院した。
久々の我が家だった。
まぁ、独りの世界での出来事を含むなら、別段久し振りでも無かったが。
リビングの扉を開けると、暖かい空気が俺を包み込んだ。
それが嬉しかったのは、言うまでも無い。
やはり、と言うべきかなんなのか分からないけれど、先ず最初に向かったのは、俺の部屋ではなく翔太の部屋だった。
その部屋には、独りの世界で見たように、満面の笑みを浮かべて写っている翔太の写真があった。
遺影があった。
流石にもう泣きはしないが、なんとも言えない喪失感に襲われた。
天国に行くまでの宿題。
幸せになる事。
確かに約束した。だから、俺はこれから先幸せになろうと、そう心から思う。
翔太の事は、多分一生忘れない。
だからと言って、幸せになれないわけじゃ無い。
綺麗事かもしれないけど、あいつの分まで幸せになりたい。
そんな風に思える俺は、正しいと願う。
*************
俺の部屋は、変わっていなかった。
変わらずにあった。
親が掃除してくれていたのか、綺麗だった。
確か…俺の記憶が正しければ、机の引き出し。
その3段目に、日記が入っているはず。
日記を入れたはず。
独りの世界で、書いたあの日記を。
俺がちゃんと生きた証を。証拠を。
この世界にある筈もない。
けれど、あってくれとそう願いながら。祈りながら。
3段目の引き出しを開けると。
あった。俺の日記が。
俺の物語が。俺の笑い話が。俺の想い出が。
1ページ1ページ丁寧にめくる。
そこには、しっかりと綴られていた。
想い出が。
だけど。
最後のページになにか違うものを感じた。
俺の文字じゃない文字があった。
子供らしい、お世辞にも綺麗とは言えない、だけど心が熱くなるような、そんな文字がそこにはあった。
『こっちにくるときバイ○ハザードもわすれずに!』
言わずもがな。
誰の文字なのか、すぐ分かった。
分かってるっての。
ちゃんと持ってくから、待ってろ。
あと60年くらい掛かるけど。
…ちょっと待て。その文字の下。
何かが消されたような跡があった。
『わらうこと!しあわせになること!わかった?』
だぁかぁらぁ。
…分かってる。ちゃんと笑う。ちゃんと幸せになる。
ちゃんと生きる。
お前、お兄ちゃんのこと心配し過ぎ。
*************
これで、俺の人生が終わるわけでは無い。
つーか、まだ半分も終わってない。
これが不幸な物語とは、思わない。
これが幸福な物語とは、思わない。
どちらでもなく、どちらでもあったと思う。
人生が終わらない限り、俺は叫び続けたいと思う。
幸せになりたいと。
俺は叫び続けるし、願い続ける。
笑い続けるし、想い出を大切にし続ける。
幸せの第一歩。俺は親父とお袋に向かって言うんだ。
「世界を一周しようと思う」
俺が死ぬまで俺の物語は終わらない。
…と、締めくくりでカッコつけたらモテるかな?
どこにでも溢れている言葉。
僕は敢えて使わせて貰います。
人生は一度きりです。
幸せになりたいと思う人にしか幸せは訪れません。
これにて「世界を一周しようと思う」は、完結になりますが、人生が終わるわけではなく主人公からしたら、ただの通過点です。
ただただ周人が成長する話。
何かを感じ取っていただけたらこれ以上の幸せはありません。
ではでは。




