会いに…
1ヶ月程離れていただけなのに、とても懐かしく思えた。
だけど、それと同時にいつもの風景にも見えた。
確か、この家を出る時オレは言った。
行ってきます、と。
ならば、今はこの言葉が正しいのではないだろうか。
「ただいま」
当たり前だけど、返事は返ってこない。それでも少しだけ嬉しかった。また自分の家に帰ってきた事が。妙に嬉しかった。
扉を開けて、中に入る。
以前の家と全く変わりはなかった。まぁ、それも当たり前の事だけれど。
リビングに入ると、冷たい空気がオレを出迎えた。
いつものソファー、いつものテレビ、いつものテーブル、いつもの窓の外の風景。
全部が全部いつも通りだった。
少し喉が渇いたから、冷蔵庫を開けて飲み物を探す。
そこには、いつもオレが飲んでいた炭酸飲料があった。
げっ、賞味期限切れてる…。流石に飲めない。
それからソファーで少しの間、寝転んで感傷に浸った。
帰ってきた。その実感があまり無い。
船を運転して日本に入り、それから車を走らせてここまで来た。おかげで、車の免許くらいなら多分お茶の子さいさいだ。使い方合ってるのか知らないけれど。
このソファーで、いっつも翔太とテレビを見ていた。
オレが見たいものと、翔太が見たいものが違う時は、ジャンケンで決めたり、喧嘩したり。
10歳も離れているのに、喧嘩は負ける。
あいつは卑怯だ。
「もうちょっと大人になりなよ」
が、あいつの切り札だった。そして、それを言われると何も返せなかったのも全部含めてオレの大事な想い出だ。
忘れることの無い、忘れてはいけない、オレの想い出。
親父はあまり家に居ることはなかったけれど、それでも尊敬していた。だから、同じ仕事をしたいと思った。
馬鹿みたいに、家が近いからって理由で押し通したけど、よくよく考えたら、20km離れてた。お袋も親父も別に何も言ってこなかったけど、多分気付いてたんだなぁ。恥ずかしい。
お袋の作る料理は、どれもプロ並みだっ…いやプロ並みだ。実はオレが料理をするようになったキッカケはお袋と同じ味を再現したかったからだ。コツを聞いたりしない。見よう見まねで、試行錯誤した。結局、同じ味は出せなかったけど、オレ流の作り方が出来るようになったから、結果オーライ。
っと…。これ以上語ると、残りのページ数に書き切れないので、ここら辺にしておく。
テンポ良く語ろう。
ソファーでの休憩を終えて、翔太の部屋に向かう。理由は特にない。なんとなくだ。
なんとなくだった。何の気なしにってやつだった。
心の準備も何もしていなかったので、面食らった。
花が、添えてあったのだ。翔太の勉強机の上に。
翔太の写真と共に。
疑問より先に、悲しみが込み上げてきた。
それは多分翔太のその写真が、遺影の意味合いで置かれていると、感じ取ったから。感じ取れてしまったから。
それに関しては、もう十分過ぎるほどに泣いたはずだった。涙が枯れるくらいには、泣いたつもりだった。
けれど、オレの目からは涙と呼ばれるそれが止めどなく溢れてきた。
まだオレは泣けたんだ。そう思った。
もう一度遺影を見ると、満面の笑みを浮かべていた。
それが痛すぎるほどに痛かった。
それから、時間にして約20分程だろうか?
涙は止まってくれなかった。
最後にオレの部屋の扉を開けた。
オレの部屋には、いつもオレを起こしてくれていた目覚まし時計があった。
オレはこの時、きっと笑っていた。
自分の部屋に戻ってきただけで、こんなに嬉しいとは思わなかった。
勉強机の引き出しを一つ一つ開けていく。
1段目には、海技士の資格を取るための試験通知があった。
これは、人生で1番喜んだ時だ。嬉しすぎて、にやけが止まらなかった。1日中これを握り締めて、ベッドで悶えてたっけ?興奮しすぎて、夜眠れなかった。次の日寝不足で、学校で休んだけど。
2段目。バイ◯ハザードのソフトがあった。
そうそう、翔太に欲しいって言われると思って、買っておいたんだった。実は最初からサプライズする予定だった。
…それも出来なくなってしまった。今更湿っぽくなっても仕方が無い。
笑え。自分に言い聞かせる。
そして3段目だ。ここには、秘蔵のあんな本や、こんな本が…あると思った?ないないないない。いやもう、なさ過ぎて逆に怖いって感じ?…自分でも何言ってるか、分からない。アホらし。
3段目には、何も入っていない。これから何かを入れる予定だったのだ。
ああ、じゃあ丁度いい。この日記を入れておこう。
このオレの日記を。独りの世界での想い出を。
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じゃあ、そろそろわがままをさせて貰いに行こう。
それには外に出なければ。
車を走らせる。
3月に入ったとは言え、まだ肌寒い。
オレは花粉症持ちではないので、分からないけれど、花粉症持ちからしたら春は大変らしい。
花粉症持ちじゃなくて良かった。
聞けば、沖縄には花粉が無いのだと言う。
花粉症の人は沖縄が天国みたいなので、引っ越しはお急ぎ下さい。
海に着いた。
風が気持ちいい…訳あるか!寒いわ!風邪引くわ!
裸足になって、砂浜を散策する。散歩かな?
ザザーン
海水が足まで届く。死ぬほど冷たい。冗談じゃなく。
そのまま、海に向かい歩く。
一歩、また一歩。
水が膝辺りまで来たところで歩みを止める。
この海はどこに続いているのか?
子供の頃に考えたことのあるテーマだ。
答えは未だに分からない。
その答えを探すのが最後のわがまま。
また一歩ずつ、海へ歩く。
太ももまできた。冷たいを通り過ぎて、痛い。けれど歩く。
腰まできた。痛い。痛いけれど、歩きを早める。
胸まできた。もう感覚がない。痛みもない。だから歩く。
首まできた。そろそろ体全部が沈む。
そして
頭まで海に浸かった。
息などしない。てか、出来ない。
この海はどこに続いているのか?
なんとなく答えが分かった気がしたよ。
お袋と親父には悪いことしたなぁ。
けど、オレが幸せだったことは確かだよ。
生まれ変わるとしたら、またお袋と親父の子供で産まれたいな。翔太のお兄ちゃんで産まれたいな。
神様、聞いてるならそうしてくれ。
それだけで、オレは幸せになれる気がするんだ。
翔太…今からそっちに行くから。
今から………そっちに逝くから。
『ありがと、でもまだ来ちゃダメ〜』
そんな声が聞こえた気がした。
その声は、翔太の口調だった。
けれど。
その声は、オレの声だった。
今までで、1番長い…
あと2話くらいで、完結します!!
(完結予定なので誤差あるかも…)




