鬱
インド。カレーの国。
そこに行くために今は船を走らせている。
船も走らせるという表現が正しいのかどうか、分からないけれど、まぁ、そこはご愛嬌ってことで。
『な〜相棒〜。ひ〜ま〜だ〜』
「う〜る〜せ〜。だ〜ま〜れ〜」
『酷くね?!相棒が最近冷たい』
「船の運転は気を張るんだから、静かにしてろ」
『いや〜、さすがに暇だって。氷山とかにぶつかんね〜かな?』
「不謹慎すぎだ」
『そして、船の真ん中からぱかっと…』
「タイタニック!!有名なやつ!たぶんダメなやつ!」
オレは見たことがないのだが、あまりにも有名な話なので知っている。
あとここら辺に氷山なんかない。
あれから熱は下がった。が、体の倦怠感とやらはなくなっていない。オレの杞憂だとは思うのだが。
一度風邪を引いてしまうと、気にしてしまうのだろう。
1人でそう納得しておくことにした。
別に、普段の生活に支障をきたすわけでもないので気にしていない。
『相棒は、もしこの船が事故ったらどうする?』
「普通に考えて、オレしかいないのだから救助も来るはずがない。つまり為す術なく死ぬな」
『冷静だな〜』
「まぁ、前提としてる事故を起こさないように運転してるけど」
『それこそ事故を起こすように運転する人なんかいないけどな』
「揚げ足を取るな」
子供か、【俺】は。
船が揺れるたびにオレも揺れる。
のんびりとしている。
このする事がない時間は苦手だ。
家族の事を考えてしまうから。
呑気に笑っていられなくなるから。
今のこの状況を冷静に考えてしまうから。
ここは死後の世界なのだろうか?
結局のところ、その答えが一番しっくりくる。
オレはトラックに轢かれたのだ。
それは、まごう事無き事実である。
生きていられる筈がないのだ。
幼い頃に考えていた。
死んだらどこに行くと思う?
その質問にどう答えていたっけ?
「死んだらまた赤ちゃんからやり直すんだと思う」
間違っていたなぁ…。
死んでも何もなかったよ。
あったのは後悔する時間だけだったよ。
後悔しながら航海するだけだったよ。
寒いか?寒いな。
ここで永遠に後悔することになるのだろうか?
それも悪くはない。そんな風に思えるくらいに元の世界のことを悔やんでいる。
オレが少し足を踏み出せば、家族と上手くやれたかもしれない。そうしたら、事故もなかったのかもしれない。
オレがもう少し手を伸ばせば、友達が出来たかもしれない。そうしたら、あの時間に翔太とあの信号で話すこともなかったのかもしれない。
後の祭り、とやらだ。
今更悔やんでも仕方がない。
分かってるよ、そんな事は。知ってる。
でも悔やむんだよ。"あの日"のことなんて思い出さない方がよかったとさえ思う。
けれど思い出していなかったら、きっと思い出した方がよかったのだと、今頃泣いているのだろう。
どう道を歩んでも、変わらない事だってある。
運命?偶然?奇跡?起きて仕舞えば全てが必然になる。
でもやっぱり今のこの時間も大切だと思っているのも事実。
後悔してる。けれど、この時間だって大切だ。
楽しいと思うことだってある。
少し前は1人で独りぼっちだったけれど、今は1人でふたりぼっちなんだ。
後悔してたって、笑ってもいい。
後悔してる過去から目を反らすのは反則だけど、逃げたっていいんだ。受け止めるだけが、過去との向き合い方じゃない。
目を反らすとは、目の前にある壁とは違う方向を向いているだけに過ぎない。
逃げるとは、目の前にある壁とは違う方向に進むことだ。
似ているが全く別物だ。
おっとっと。あ、お菓子のことじゃないぜ?
美味しいよね、オレ結構好き。手がギトギトになるけど。
ちょっと、オレが鬱になっている間に着きそうだ。
何処に?インドに。カレーの国。いや、もう王国だな。
カレーの匂いがプンプンするぜ!
ほんの少しくらい誇張したっていいじゃん?




